誰が誰やら

1998年1月11日(日)
母は何かを隠している。恐がっている。「何かを取ってきて」と言っていることだけはわかったが、どこへ、何を取りに行けばいいのか、さっぱりわからない。母のことばは不明瞭で謎々のようで苛々した。
「お母さん、何を、どこへ取りに行けというの? それは何をするものなの?」
やっとわかったのは、誰かと共同で三田さんの服をつくっていて、その服を取ってきてということだった。

母はピンクの毛糸で編んだものをつないでいた。細長く切られたものを縫い合わせているらしい。わたしと母は玄関の方にいて、宮沢がふろの辺りで怯えていた。はっきりものを言わない母をわたしが責めているからだ。宮沢は母に食われている 
食わせている。怯えてないでわたしを見なさい!と思った。

「お母さん! お母さんの言ってることはいつもわからない! ぶちぶちに切れてる! わたしはそれをつなげなきゃならない! どれだけ大変か! なんで順序だてて説明してくれないの! いっつも、わたしは抽象画を見てるみたいよ!」
「おまえは弱いからっ! 弱いから教えないのよっ!」
「何言ってんの?! お母さんがわたしを混乱させてるんじゃない! お母さんが正しい情報を伝えないから訳がわからなくなるんでしょっ!」
「うっ」
母の顔がゆがんだ。
母は、自分の胸に刺さった針を抜いた。
「お母さん、わたしが本当のことを言うと、どうしてお母さんの胸に針が刺さるの? まるでわたしが刺したみたい! その針はお母さんがいま使っていた針だよ」
こう、わたしは言ったけど、次に恐る恐る母に近づいて、そっと腕に触れて「わたしのことを嫌いにならないで。わたしは本当のことを言っただけなんだから。それでお母さんが自分の針を自分に刺して、わたしを嫌うのは変だよ」と泣きながら訴えた。

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