はすみとしこさんとRT裁判 最終
前回までの状況は(↓)こちらでお伝えした。すでに結審しており11月30日に判決を迎える本裁判。今回は判決前の最終レポートとなります。
■ A氏(クリエイター)
昨年12月以来、原告側とのやりとりは停止しており、おそらく伊藤側もこれ以上追求しても仕方ないと踏んだのだろう、このまま無罪放免になると思われる。A氏はほんとうに事件について知らず、峰不二子的なイラストに惹かれて一時保存のためにRTしたものに違いない。被告はこれ以上言いようがないだろうし、原告も攻めどころがない。イラストを見た人の印象は様々である点を、A氏は他者のツイートを紹介しつつ次のとおり反論している。
「この漫画を見て受ける印象は人によって異なる。『卑劣な女、許せない』と取る人がいる一方で『美貌と野望を武器に男を手玉に取る魅力的な女性』と感じる人もいる。実際男は小悪魔に弱いしね。」
上のツイートを引用しながらA氏は、「これは自身が答弁書で主張した、イラストを見てその女性やらキャラクターを魅力的に感じた事を第三者が客観的に裏付けていると解釈できる。」と主張した。
伊藤側は被告に対して、「(略)中でも本件に熱心だったのは、SNSで保守ないし右翼、リベラルないし左翼に分かれて、自分と異なる意見を批判することに熱心なユーザーです。」とか、「思想が右に偏っている」、「原告が「リベラル」「左翼」の手先で、「保守」「右翼」をおとしめるために本件を起こしたと思い込んでいる」などと決めつけた物言いをしている。また「本件イラスト3-1のモデルが原告であることを知らずにリツイートしたという弁解は事実ではありません。」などと山口元一代理人は断言する。
それらに対してA氏は逐一、「「左派」「リベラル」を批判することに熱心」だとするなら、本件イラストをリツイートする際にコメントを入れないのは不自然です。この事からもコメントなしでRTしたのは、原告を左派と決めつけて誹謗中傷する目的ではない。」等々と回答してきた。
A氏は結局、弁護士をつけずに本人訴訟で逐一誠実に対応なさり、撃退しちゃったようだ。天晴です!
■ B氏(医師)
B氏は法律論による正攻法の連打だ。最後の最後でB氏が未だ伊藤批判のRTを続けている点を付かれ、多くのスクショが書証(甲64の1-14)として追加提出されていた。スクショの中には筆者が見慣れたTwitterのハンドルネームが多々あった。しかし代理人がスマートなロジックで上手にかわしている。そもそもRTは賛同の意だけなのかという命題もこの訴訟では争われているのだ。
B氏代理人の主要な要点は、
①B医師はフォロワーも少なく、それも無関心層ばかり。本人に確定的な認識もなければ、揶揄その他の主観的意図もない。記者会見での代理人(=山口元一氏)の言動からみても、「Bによる被害は小さかった」。
②原告とB氏の影響力を比べると桁がちがう。原告による記者会見の影響によって受けたB氏の被害のほうがはるかに大きい。
③B医師はそもそも悪意もなかったし、訴訟リスクさえ認識していなかった。しかも原告代理人がB氏に電話した際に、「リツイートの削除」という言葉を全く使っておらず、請求していない。もし被害が大きいのなら、当然削除を要求するはず。そのことも「被害が小さい」と推認する理由・・・といったロジック。
また、B氏代理人ははすみさんのイラストそのものについても「 客観的に見るならば、もともとの「枕営業大失敗!!」は、正当な「論評」の一つとして十分に成り立ちうるものであると思料する。」としている。
B氏代理人は、直近の<求釈明>で「被告蓮見と共に、特にB氏を本件訴訟の対象に選択したのは、いかなる意図に基づくものであったのか、明らかにされたい。」と求めている。非常に知りたい所であるが、伊藤側からの返答は見当たらぬまま結審に至った。
その他、B氏からは陳述書が提出されており、老父の心痛のご様子には、亡き山口敬之さんのご尊父が重なって不覚にも涙してしまった。悲しみはすぐに憤りに変わった。世間に大混乱を引き起こした上に「見せしめ」と「示談金」獲得の野望が臭うこの裁判だ。そもそも会見で打ち上げたアドバルーンで、伊藤さんが木村花さんの悲報との時系列を誤り、大ゴケでスタートした訴訟だった。同時に、この裁判が契機となって潮目が変わり、ヤフコメは一気に伊藤批判で埋まるようになった。たかだかRTごときでいったい何人の罪のない人を不幸に陥れたら気が済むのだろうか。
■ はすみとしこさん
これまでに各イラストがどういう意図で描かれたものかが丁寧に説明されてきており「公益性」は自明だろう。加えて、はすみさんの代理人は言葉数少なく要点を突いていた。論点は「風刺画」とは何かということ。「風刺画の意義」「風刺画とは何か」という深淵なテーマに及んでいるため、裁判官も軽率な判決は出せないだろう。
■ まとめ
はすみとしこさんのイラストは、小林よしのり氏の直截的な表現と違って風刺画である。もしもはすみ氏がアウトなら小林氏は何倍もの罪に問われることが確定だ。風刺画ではないものの「わいせつ」を巡る「表現の自由」裁判は、古くはS44年の澁澤龍彦『悪徳の栄え(マルキ・ド・サド)』のケースがあり、近年ではろくでなし子さんの裁判も耳目を集めた。どちらも社会的に激論を巻き起こし、喧騒のなかで両者ともに最高裁まで争ったのだった。
筆者はB氏代理人が述べた、「一方の言い分しか世に無い時に、山口氏の言い分をイラストに仮託した」という言い分とともに、「伊藤さん=公人」論を強く支持する。公人である伊藤詩織さんを風刺できないのだとしたら、なすこの4コマはもとより、新聞紙面で政治家を揶揄する4コマ漫画はどうなる?どこで線引きするのかという問題も出てくる。社会がギスギスして訴訟地獄になる!
はすみとしこさんとRT裁判は、日本における「風刺画」の許容限度と、RT行為という言論活動の自由度を規定しかねない、非常に重要な意味を持つものと理解している。またRTの部分は将来的に恫喝訴訟で言論空間を委縮させる悪癖に繋がりかねない。仮に実体的な審理をおざなりにした”3割負担”の結論で終わったとしたら、それはそれで大きな問題だろう。司法がどういう判断を下すのか、非常に注目しながら11月30日の判決を迎えることとする。