『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』はジャンプマンガだった。
高校の先輩であり、過去一緒に仕事をしたこともあるメン獄大先輩が、超具体的な経験とともに「コンサルティング会社で生き残るためのすべて」を書き下した檄文、それが『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』だ。
ぼくは当時、筆者のような中核的人材になることはできなかった。読みながら、「自分もこのような生き残り方をしたかった」と悔しく思い、一方で「サバイブしたかどうかもわからないなかで、本書に書かれているようなことを少しでも吸収できたからこそ今があるのだろう」とも思った。
ハードなしごきを生き残った者だけが中核となれた時代
ぼくが入社した2011年当時も、まだこの風潮はあったように思う。現場で激烈な体験をし、その中で「目覚めたもの」だけが生き残れる、そういう環境だった。中にはラクラクと仕事をこなせるスーパー人材もいたと思うが、そうでない人間にとってはたしかに「しごき」だったのだろう。
当たり前だが、パワハラや長時間労働は許されることではない。一方で、自分の限界を超えたところに見える何かがある、ということも否定できない。自分の場合、半分病気になりかけたこともあったものの、なんとか今まで心身の健康を保って働けているので、ある種のポジショントークにもなっている。心身の健康以上に大事なものはない。身体や心を壊してまで仕事をする必要も、昇進をする必要も、社会に貢献する必要もない。ただ、それはそれとして、限界を超えて何かに必死に取り組んだ経験からは、とても大きなものを得られる可能性があることもまた否定できない。
コンサルタントの核心的要素は「速度」
速度の重要性については、著者が先輩から言われたあるコメントがわかりやすい。
次マウスを使っているところをみたら、手を切り落とす
ホント!?と思う方もいるかもだが、たぶんこれはマジ。ぼくも似たような指導を受けた思い出がある。ただ、ここで身に着けたエクセルさばきはその後もめちゃくちゃ役に立ったし、エクセルだけではなく、作業の効率化やアウトプット速度の向上、最短ルートでゴールにたどり着くための思考プロセスなど、常に「速度の向上」に血道を上げるクセがついた。
なぜそこまで速度が重要なのか?
ぼくも当時の先輩にほぼ同じことを言われた。
「この資料に3時間かけたの?つまり3万円の価値は最低ないといけないんだけど、ほんとにその価値ある?」 こういう意識が会社の隅々まで行きわたっているというのは、やはりあの会社はすごい、ということだろう。めっちゃしんどかったし家で泣いてたけど...
「自分の時間単価を強烈に認識する」「それを上回る価値を出さなければ存在する意味がない」という働き方は正直しんどい。つい最近まで時給千円そこらでバイトしていた学生が、いきなりその10倍以上の価値を出せと強要される。ただ、すでにお客さまからはお金を頂いている以上、その価値を出す以外にすべはない。そういう環境で鍛え上げられていた先輩たちが発していたオーラ、作業速度、思考スキル…アナリスト1年目のとき、それらに圧倒され、「自分は本当にこんな風になれるのか???」と絶望を感じたことを覚えている。
「我々はコンサルタントである」
この意識の有無が、筆者とぼくの大きな差だったんだろうなと思う。
若手時代、ぼくはいつまでたっても「誰かなんとかしてくれるだろう」「面倒を見てくれるだろう」という甘えから脱することができなかった。もちろんそれでは独り立ちはできない。 結果、ぼくはアナリスト職に4年間Stayすることになった。筆者は2年で最速昇進。すごい。
この静かなるプライドはとても重要だ。一方、この意識が肥大化しすぎて外に漏れだすと、あまりよろしくない。自分が誰よりも頭がいいという勘違いをし、相対する人を下に見たりバカにする言動をしてしまう。コンサルタントという人種がちょいちょい叩かれてしまうのも、そのような自意識の肥大化によるものだろう。
まっさらな新卒時代に「我々はコンサルタントである」という意識を刻み込み、品質や速度に関するこだわりを最大化させる。そして、かつそのプライドは内々にとどめておき、日々のコミュニケーションは柔らかく気持ちのよいものにする。コンサルタントとして生きていくのならば、そのような人になりたいと思う(ぼくはすでにコンサルティング業からは離れてしまったが)。
「あなたたちの資料には、まだ誰かがレビューしてくれると思っている甘えを感じる」
上記、あるプロジェクトマネージャの奥様(元シニアマネージャ、パートタイムで参画)が、スタッフへの全員返信をしたときのコメント。痺れる。
これを明確に指摘できる会社、改めて強いと思う。攻殻機動隊の荒巻課長の言葉が自然に思い返される。
「我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。有るとすればスタンドプレーから生じる、チームワークだけだ。」
本当に強いチームは、チームプレーなど考えない。最高のパフォーマンスを出すためのスタンドプレーが、結果的にチームワークにつながる。お互いにサポートすることはもちろんあるが、それは誰かの尻拭いをすることを意味しない。お互いが自身の最高をクライアントのために振り絞り、その結果としてチームワークが生まれる。「誰かがなんとかしてくれるだろう」という甘えからは、決してチームワークは生まれない。
賛否両論だろう。いや、今の時代はおそらく「否」が大勢を占める。それでも、それだからこそ、この言葉は残酷なほど美しく輝く。
自分や自社の都合など関係ない。すべてはお客さんに出す価値のために。
全然仕事ができなかったとき、何がつらいって上記のような「熱い仕事」をするメンバーの一員になれなかったこと。 自分なりに夢を抱いてコンサルティングファームに入り、どんなにしんどくてもやり切り、価値を出し、お客さんのためになり、チームのみんなで美味しいお酒を飲みたかった。
メンさんや彼の上司のような熱い人たちが必死に仕事をしていて、喧々諤々やっているのに、ぼくは何の力にもなれていない。それが本当に辛かった。 ぼくのようにサバイバルに苦しんでいる方は、おそらく少なくないだろう。そういう人への処方箋も本書は提供してくれている。
少しずつの工夫と徹底した継続
当たり前のことかもしれないが、王道こそが近道。
仕事も英語も資格試験も、結局は「工夫と継続」しかなかったりする。それを狂気的な熱量でやっていく。それでも目にみえる成果は出ない。一か月やっても出ない。 それに耐え、徐々に徐々にできるようになっていく。結局それしかない。工夫と継続。
工夫と継続なしでも圧倒的なパフォーマンスを出せる天才が世の中にはいる。さらにタチが悪いことに、そのような天才たちも、もちろん工夫と継続をしている。
アイシールド21:桜庭春人が、『努力する天才』であるチームメイト進清十郎に叫ぶ。
ハイキュー:田中龍之介が自分自身を叱咤する。
「狂気がスペシャリティを作り、スペシャリティがキャリアを作る」
メッセージそのものは、今までも言い古されているのかもしれない。「置かれた場所で咲きなさい」「今の仕事に全力を尽くせ」、確かにそうなのだろう。ただ、それを実体験をもとに研ぎ澄まされたことばで筆者は届けてくれた。それが冒頭の「狂気がスペシャリティを作り、スペシャリティがキャリアを作る」だ。
中高と部活や受験勉強に勤しみ、大学をなんとなーく過ごして就職活動をしてきた人間に、「やりたいこと」が簡単に見つかるはずなどない。「専門性」が簡単に身につくはずがない。狂気が必要なのだ。狂気があってこそスペシャリティが作られる。スペシャリティが作られてこそ、社会に価値を提供できる。
ビジネス書というかむしろジャンプマンガ
本書、自分にとってはビジネス書ではなくジャンプマンガである。
誤解のないように言い添えておくと、本当に使えるビジネスTipsも随所にちりばめられており、コンサルティングファームでサバイブするにあたっては非常に重宝するだろう。自分自身、特にコンサルティングファームを出てからサボってしまっているポイントも多々あり、改めて学びなおすことができた。
ただ、そのようなビジネスTips以上に、超具体的な場面と筆者の悔しさ、喜びがダイレクトに伝わってくる本書は、自分にとっては良質なジャンプマンガを思い起こさせた。
最高の本でした。先輩、ありがとう。
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