経営とはユニットエコノミクスの最適化である

と、ぼくは思ってます。

めちゃくちゃBSが厚い会社の場合はまた別な気もするけれど、歴史が浅かったりあまり資産を持つ必要がない企業の場合は、すべての課題は「ユニットエコノミクス」に紐づくのではないかと思ってる。

ユニットエコノミクスをググると、「主にSaaS型のビジネスで用いられる」という解説が多いけど、SaaSビジネスでなくても適用すべき概念。かみ砕いた説明としては、「1つサービスや商品を売ったときの、売上やコストや利益の構造」のこと。これが集合したものがその事業のPLになる。

ユニットエコノミクスがしっかりしている = 最終的に利益が取れる状況になっていれば、購入単位を伸ばす方法を考えて愚直に実行し続ければよい。逆に、ユニットエコノミクスが崩壊している = いくら売ってもお金が燃え続けていくような状況の場合、早急なてこ入れが必要になる。

会社の存在意義

「社会にプラスの影響を与えるものを生み出し続けること」が会社の意義であり、それが数字になったものが「売上」だ。もちろん短期的にズルいことをして売上をブーストさせることもできるとは思うし、実際にやっている会社も少なくないと思うが、長い目で見たらそれは機能しない。

じゃあ売上を上げ続けることだけを経営者は考えていればよいのかというと、そういうわけでもない。いくら売上が上がっていても、それをつくるためのコストが売上以上にかかってしまった場合(=赤字)、会社は存続できない。そのため、経営者は「コストを最小化する」という意識も同時にもっておく必要がある。

会社の目的:社会にプラスの影響を与えるものを生み出し続けること
→そのためには、売上をしっかりと出す必要がある
→しかし、会社を会社として存続させるためには、黒字化(売上>コスト)という状態を作る必要がある
→売上の最大化とコストの最小化を両面で見る必要がある

これ自体は非常に簡単な構造なのだが、実際にやってみると一筋縄ではいかない。誰しもが「コストをかけずに売上がどんどん上がればいいなぁ」と思うわけだが、そんなにうまくはいかない。ある程度まではほぼゼロコストで売上を作ることは可能だろうし、自分一人食っていくぐらいであればそのままでもOKかもしれない。

ただ、上場を見据えるレベルでの売上を作り、多くの社員を食わせていく、となったときに、コストほぼゼロ状態でやるのは、不可能ではないが非常に厳しいだろう。ただ、無尽蔵に金を使えばすぐに手元のキャッシュがなくなり、事業は継続できなくなる。

ユニットエコノミクスの実例

売上とコストを両面で見据えるために、最もわかりやすく課題を浮き彫りにしてくれるのが、ユニットエコノミクスの考え方だ。

リンゴを農家さんから買い取り、それを販売するシンプルなビジネスを想定する。リンゴの小売価格(グロス)は1個100円。グロス価格で売れることもあれば、割引をすることもある。割引は平均して5%程度と考えると、ユニットエコノミクス(リンゴ一個)上の割引は5円となる。オリジナル価格(グロス価格)から割引額を引いたものがネット価格となる。

  • グロス価格:100円

  • 割引額:-5円

  • ネット価格:95円

農家さんからは定期的に大量に仕入れる契約を結んでおり、比較的安く仕入れることができる、という想定をしよう。原価率はグロス価格の20%程度。そうすると、原価としてユニットエコノミクスに出てくる金額は20円となる。ネット価格から原価を差し引いたものが、よく聞くワードである「粗利」である。

  • グロス価格:100円

  • 割引額:-5円

  • ネット価格:95円

  • 原価:-20円

  • 粗利:75円

ここから粗利がどんどん削られていく。

そのリンゴを農家から販売所まで運んでもらうための輸送費がかかってきたり、たくさん売ってくれた販売員の方に月次でインセンティブボーナスも渡す。また、店頭で販売する際にお客さんが現金で払ってくれるとは限らず、クレカやPaypayでお金を受け取ることもある。その場合はその決済手数料を払わなければならない。

  • グロス価格:100円

  • 割引額:-5円

  • ネット価格:95円

  • 原価:-20円

  • 粗利:75円

  • 輸送費:-5円

  • インセンティブボーナス:-2円

  • 決済手数料:-3円

さらにまだまだ払わなければいけないお金がある。広告宣伝費だ。

ただリンゴをならべてガンガン売れるのであれば広告宣伝費はタダだが、チラシを作って近隣にまいたり、Web上でデジタルマーケティングを仕掛けたり、インフルエンサーに食べてもらって宣伝してもらう等する場合、多額のコストがかかってくる。

  • グロス価格:100円

  • 割引額:-5円

  • ネット価格:95円

  • 原価:-20円

  • 粗利:75円

  • 輸送費:-5円

  • インセンティブボーナス:-2円

  • 決済手数料:-3円

  • 広告宣伝費:-20円

まだまだお金は差し引かれる。雇っている従業員への給料や社会保険料などの人件費、借りている店舗の家賃、弁護士や会計事務所への相談料、その他諸々の費用(社員旅行とか誕生日プレゼントとか)などの費用もかかる。

  • グロス価格:100円

  • 割引額:-5円

  • ネット価格:95円

  • 原価:-20円

  • 粗利:75円

  • 輸送費:-5円

  • インセンティブボーナス:-2円

  • 決済手数料:-3円

  • 広告宣伝費:-20円

  • 人件費:-25円

  • 家賃:-5円

  • 外注費:-5円

  • その他費用:-2円

これらを粗利からがーっと差し引いたものが、いわゆる「税引き前利益」になる。

  • グロス価格:100円

  • 割引額:-5円

  • ネット価格:95円

  • 原価:-20円

  • 粗利:75円

  • 輸送費:-5円

  • インセンティブボーナス:-2円

  • 決済手数料:-3円

  • 広告宣伝費:-20円

  • 人件費:-25円

  • 家賃:-5円

  • 外注費:-5円

  • その他費用:-2円

  • 税引き前利益:8円

ここからさらに減価償却費や為替差益とか税金とか諸々差し引かれていくのだが、実際のビジネスにおいての成績表はこの税引き前利益でよい。

粗利めっちゃあるじゃん!と興奮したものの、そこからいろいろ差し引いていくと、結局1個リンゴを販売して儲けられるのは8円だ。ただ、8円であってもプラスではあるので、このユニットエコノミクスをキープした状態で100個リンゴを売れたら800円のお金が手元に残るし、1,000万個売れたら8,000万円の手残りになる。

なぜ経営 = ユニットエコノミクスなのか?

すべての経営上の問題はユニットエコノミクス上に浮き彫りになるから、というのが答えだ。

原価が高すぎて、その他の諸々のコストを引いていくと明らかに赤になる状況の場合、原材料輸入や製造プロセスで何らかの問題が発生している可能性がある。原価は良い水準で抑えられているしマーケもうまくいっているもののなぜか手残りがない場合、人件費やオフィスなどの固定費が異常にかかっているかもしれない。

原価も固定費も低水準で抑えられているのに利益が出ない場合、非効率なマーケティングを行っている可能性が大きい。ひとつのリンゴを売るのにCMやら屋外広告やらリスティング広告やらSNS広告やらを打ちまくらなければならず、最終的に手残りがほとんど残らなかったり、もしくは赤字になってしまう。

ユニットエコノミクスを明確に把握することで、どこに問題があるのかかなり具体的にわかる。原価率が高すぎてほとんど広告や人材にお金を使えないことが問題なのか、モデル自体はしっかりしているがマーケティングが下手でうまく売上が上がらないのか、すべてがダメでどんどんキャッシュがなくなっていくビジネスなのか。

どんな問題でも、「どう解決するか」の前に「どこに問題があるのか」を明確にしなければならない。その「どこに問題があるか」を明確にした後、それに応じた解決策を考えていくべきだが、それを明確に進められるのがユニットエコノミクスだ。

もちろん、ユニットエコノミクスを明確に把握すればそれだけでOK!となるわけではもちろんない。人件費が高すぎる、マーケティングがうまくいっていない、原価が高すぎる、輸送費が高すぎるなどなど現状がわかったところで、そこに深く入り込んでいって血や汗や涙を流して解決していく必要がある。それでも、まずはユニットエコノミクスを把握し、「結局、自社はどこに問題があるのか?」を明確に把握するのが、経営者としての責務なのではないか、と思っている。

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