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7.多くの企業は、イシュー・ディフィニションを誤る

こんにちは!伊藤です。

引き続き、戦略参謀の仕事をベースに、事業戦略の作り方や実践方法について考えていきます。

今までの記事はこちらのマガジンにまとまっているので、ぜひお読みください!

今回は、企業におけるイシュー・ディフィニション(問題点の特定)についての議論です。

課題を深堀することなく「これが問題だ!」と決めつけてしまい、結果浅いアクションを取り、結果が出ない…という経験、多くの方があるのではないでしょうか。ぼくも経営者として日々働く中でついつい陥りがちになってしまうので、耳が痛いところではあります。

早速見ていきましょう!

課題深堀をせずに打ち手に飛びついてしまう企業

 自社の商品部門において顧客志向の商品仕入れが実現できていないのであれば、はじめに「なぜ、それができないのか?」、その理由を追求することが先のはずです。
 もし今の売れ筋を特定し、そこから市場が支持している「キーワード」を発見するための「見える化」を適切に行うMDシステムが追い付いていないのであれば、先ほどの例と同様に、商品企画、商品構成の最適化が十分できないのは当たり前です。
 また、工場の納期遅れが多発していた場合、それは工場の責任者だけの問題なのでしょうか。
 部品の発注に連動する生産計画がうまく販売計画と連動できているのか、物流との情報のやり取りがどうなっているのかなど、問題点を特定するにあたって、実態の確認は済ませていたのでしょうか。
 外資系企業のように「人治」色の強い企業であれば、新しく採用された責任者が販売計画を立案する部署とやりあって、手順を修正することになるのでしょうが、そもそもこの話は業務プロセスを改善することになるはずです。
 つまり、優秀な外部人材を採用するという打ち手に至る前に、問題点の根にある部分を明らかにするよう努力して、ことの因果を「理」にかなったものになるまでの追求がなされたのかが、相談を受けるたびに、とても気になります。

これは本当にあるあるです。「全然納期どおりにいかないじゃないか!」「コンバージョン率が上がらない!」という一番最後の結果のみを見て、「なぜそうなってしまっているのか?」「どのような構造の元、そのような結果になっているのか?」という深堀をしないまま、「専門家に頼る」「人を増やす」「インセンティブをつける」などやみくもに打ち手を繰り出してしまう…というパターンです。

「とりあえず何かをやってみよう」となる気持ちはよくわかるのですが、そこをグッとこらえて、定量的/定性的に状況を可視化し、「なぜ?」「どんな構造?」と深掘っていき、真の課題を炙り出せるかどうか、それが勝負になってきます。

これ、言うは易しなのですが、日々のオペレーションもある中でこのような分析をするのはなかなか大変です。だからこそ、ある程度自由に動け、考える時間もある参謀役の人のパフォーマンスが重要になるということだと理解しています。

適切な事実の把握と「見える化」が行われていない

 課題を真っ芯でとらえて問題解決を進めるためには、まず事実に基づいた課題の定義を的確に行うことが必須です。事業の立て直しの場数を踏み、腕を磨いた「プロ」が低迷状態にある企業において、最初に行うのが、イシュー・ディフィニションです。
 これは、過去や現在の実態についての「見える化」や分析を行い、現状に至った理由や原因を明らかにして解の方向性を見出すために「ここが問題」と断ずることです。
 彼らは企業が抱えている問題点の因果を洗い出し、解の方向性を見出していきます。
 多くの場合、ファクトベースで行った分析によって「見える化」された結果を見せられると経営層には衝撃が走ります。
 たとえば「時代分析(Era Analysis)」で過去の施策とその結果を結び付けていくと、
「あの時の方針転換は、こんなに大きな効果があったのか」「当時の組織変更は、現場にこれだけの混乱を招いていたのか」
 などの実態が白日の下にさらされます。
 また、入念に組み立てたマーケティング調査を行い、市場のプロファイルを調べてみると、
 「わが社の顧客は、当社の製品をまったく想定していなかった他社製品と、比較購買しているではないか」「わが社の顧客のボリュームゾーンは、昔と比べると半分になってしまっていた」「会社としては意識が向いていなかった、売上規模の小さい新カテゴリー製品が、実はいちばん、市場から支持され伸びている」
 などが明らかになることもあります。
 もし規模が以前の半分になっている市場で、自社の売上が微減で済んでいたのであれば、日々トップから叱責されていた各部門は、実は、シェア獲得という大きな成果を上げていたことになります。
 トップを支える参謀役のミッション(使命)としては、社内で囁かれている現状、現場にて起きている問題点に気付き、真の課題の指摘を速やかにしていかなければなりません。
 そのために「参謀」には、社内から良質な情報が入る状態、つまり「信頼」されているという大前提が必要です。
 そのうえで事実を正しく把握し、必要に応じた「見える化」や分析を行い、課題の影響力の大きさも含めて的確に特定化し、定義することから始めます。

前職では「戦略企画室長」というポジションでお仕事をさせていただいており、営業やオペレーション、マーケティングなど様々な分野での横断的な分析、施策立案、実行を存分にやらせていただきました。そこで痛感したのがこの「信頼」の重要性です。

ファクトベースでの分析、課題の見える化、施策の立案をする際に、デジタルデータをしっかり収集できる基盤をつくることももちろん大事なのですが、それに加えて現場で日夜働いている方々から確度の高い定性情報をいただくことも重要です。「こいつに情報提供するといいことあるな」「ヒアリングの時間が無駄にならず、自分たちの仕事のパフォーマンスが上がるようになるな」と思っていただかないことには、そのような質の高い定性情報をいただくことはできません。質の高い情報なしに実施した分析および施策は的外れになってしまい、結果事業の推進をすることは不可能になります。

今は経営者という立場ですが、社員のみなさんからの信頼をしっかりと得られているか?というポイントについては非常に気を付けています。経営者のメインの仕事の一つは意思決定ですが、意思決定をする上では現状の把握をしっかりとしておく必要があります。そのためにも、社員のみなさんから信頼していただき、ネガティブな情報もすぐにあがってくるような組織にしていこうと改めて思いました。

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