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読書録007:不格好経営

読書録007です。DeNAの創業者、南場智子氏の「不格好経営」です。

元々マッキンゼーのエースコンサルタントとして活躍されていて、そこからDeNAを起業し、どんどん大きくしていく中での経験が赤裸々に語られている本です。

とても有名な本で過去に読んだこともあるのですが、自分自身も経営者となった今、改めて読んでみるととても勉強になることが多かったです。シンプルに読んでいて楽しいですし、とてもおすすめです!

所属していたコンサルティングファームも事業領域も異なってはいますが、コンサルタントから経営者、というキャリアは大きく見れば同じなので、「自分だったらどうするだろう?」「たしかにこういうことあるよね」と思いながら読み進めることができ、とても素敵な読書体験でした。

本書からの抜粋

  • コンサルティングを続けているうちに、自分でやれない「もどかしさ」が蓄積されていたのだと思う。クライアントと一緒に夜を徹して考え抜いた事業戦略も、実行となると同じ仲間には入れてもらえない。一度でいいから自分で考えた事業やサービスが世の中に生み出されて大暴れするまで主体的にかかわってみたい、そんな思いはインターネット分野のプロジェクトを多く手がけるようになった1996年くらいから、いっそう強くなっていた。

  • そうだ、掘った穴が大きいほど面白いステージになる。そう思ってやるしかないのだ。見事に立ち直る様を魅せようじゃないか。ひとつのパソコンの画面を食い入るように見入る全員の中にこんな気持ちがむくむくと盛り上がっていった。こうして大失態の発覚から48時間後、「カッキーン!」と音が鳴るように全員が同じ方向に向き、気持ち悪いほど前向きな集団に生まれ変わった。

  • 同じ目標に向かって全力を尽くし、達成したときのこの喜びと高揚感をDeNAの経営の中枢に据えよう。互いに切磋琢磨し、ときに激しく競争しても、チームのゴールを達成したときの喜びが全員に共有され、その力強い高揚感でシンプルにドライブされていく組織をつくろう。

  • チームが誇らしかった。こんな人材が集まるベンチャーはほかにないのではないか。このチームでやってダメなら、世の中に成功なんてないんじゃないか。真っ暗なトンネルの中で光はまったく見えないものの、出口があるということは一瞬たりとも疑わなかった。

  • コンサルタント時代は、クライアント企業の弱点やできていないところばかりが目についてしまい、大事なことに気づかなかった。普通に物事が回る会社、普通にサービスや商品を提供し続けられる会社というのが、いかに普通でない努力をしていることか。

  • ショッピング事業の強化による収益改善は計画よりも前倒しで順調に進み、2003年3月期の下半期、DeNAは黒字化を達成した。その数字をじっと見ていたら、少し涙が目に溜まり、黒字が滲んだ。嬉しくて泣けたのは起業してから社長退任までの12年間でたった1回、このときだけだ。赤字の経営はきつい。利益は世の中にどれだけの価値を生み出したかの通信簿であり、赤字は資源を食い潰している状態だ。ああこれでやっと世の中のすねかじりから卒業できた、存在が許される経営者になれた。そんなふうに感じた。

  • ビッダーズの経験は、"Winner takes all"つまり業界ナンバーワンでなければ生き残れないという定説を反証してみせた。ビッダーズは1番でなくても生き残り、黒字化し、そして成長軌道に乗ったのだ。しかし、モバオクの自律的かつ爆発的成長は異次元だった。やっぱり、インターネットサービスの世界は、業界ナンバーワンになるとケタ違いに、こんなにも効率がよいのだ。

  • 当社が身を置く業界はとても競争が激しいために、マスコミからもよく競合に対する意識を尋ねられる。けれども、真の競合は「ユーザーの嗜好のうつろいのスピード」だと私は認識している。それより半歩先に適切に動かなければならないのだ。

  • 成功のモデルは壊される前に壊さなければならない。しかし企業は往々にして成功の復讐にあう。我々は、アバターという勝ちパターンにこだわり、新しいトレンドを見失っていた。2009年に入ると情勢はいっそう厳しくなる。投資家やアナリストに真顔で、「3次元になれば売上は伸びます、アバターが動けば成長基調に戻れるはずです」と繰り返しているときは正直、辛かった。

  • 事業が伸び悩み、苦しいこの時期に思い出したのは、創業期に学んだ、立ち直り方を魅せようじゃないかというスピリットだ。インターネット業界では一度沈みかけた巨大なサービスが復活する例は世界でもほとんどない。再度新しい歴史をつくるチャンスだ。

  • 会社はよいときもあれば苦しいときもある。自身がどのような状況であれ、他者に偽りのない尊敬と感謝の気持ちを持ち続け、その気持ちに基づいて行動する会社こそが真の一流企業だ。

  • 継続討議はとても甘くてらくちんな逃げ場である。決定には勇気がいり、迷うことも多い。もっと情報を集めて決めよう、とやってしまいたくなる。けれども仮に1週間後に情報が集まっても、結局また迷うのである。そして、待ち構えていた現場がまた動けなくなり、ほかのさまざまな作業に影響を及ぼしてしまう。こうしたことが、動きの速いこの業界では致命的になることも多い。だから、「決定的な重要情報」が欠落していない場合は、迷ってもその場で決める。

  • 社内の状況も自分で把握するために、社員と直接接点を持つことを心がけた。会社が大きくなるとなかなか全員と平等に触れ合うことはできないが、完璧にできないからといって諦めてやめてしまうのではなく、「できる限りやる」と割り切った。ここで気をつけるべきは、自分が接している情報が断片的であるという自覚を失わないこと。どうしても直接見聞きしたことに大きく影響を受けるのが人情なので、十分すぎるほど気をつけなければならない。

  • そして、創業期から一貫して多大な時間とエネルギーを費やしてきたのが採用活動である。DeNAの競争力の源泉は、とよく訊かれるが、答えは間違いなく「人材の質」だ。人材の質を最高レベルに保つためには、①最高の人材を採用し、②その人材が育ち、実力をつけ、③実力のある人材が埋もれずにステージに乗って輝き、④だから辞めない、という要素を満たすことが必要だ。

  • 私が何に苦労したか。まず、物事を提案する立場から決める立場への転換に苦労した。面食らうほどの大きなジャンプだったのだ。コンサルタントとして、A案にするべきです、と言うのは慣れているのに、Aにします、となると突然とんでもない勇気が必要になる。コンサルタントの「するべき」も判断だ。しかし、プレッシャーの中での経営者の意志決定は別次元だった。「するべきです」と「します」がこんなに違うとは。実際に事業をやる立場と同じ気持ちで提案しています、と言うコンサルタントがいたら、それは無知であり、おごりだ。優秀なコンサルタントは、間違った提案をしても死なない立場にいるからこそ価値のあるアドバイスができることを認識している。

  • 検討に巻き込むメンバーは一定人数必要だが、決定したプランを実行チーム全員に話すときは、これしかない、いける、という信念を前面に出したほうがよい。本当は迷いだらけだし、そしてとても怖い。でもそれを見せないほうが成功確率は格段に上がる。事業を実行に移した初日から、企画段階では予測できなかった大小さまざまな難題が次々と襲ってくるものだ。その壁を毎日ぶち破っていかなければならない。迷いのないチームは迷いのあるチームよりも突破力がはるかに強いという常識的なことなのだが、これを腹に落として実際に身につけるまでには時間がかかった。

  • また、不完全な情報に基づく迅速な意思決定が、充実した情報に基づくゆっくりとした意思決定に数段勝ることも身をもって学んだ。コンサルタントは情報を求める。それが仕事なので仕方ない。これでもか、これでもかと情報を集め分析をする。が、事業をする立場になって痛感したのは、実際に実行する前に集めた情報など、たかが知れているということだ。本当に重要な情報は、当事者となって初めて手に入る。だから、やりはじめる前にねちねちと情報の精度を上げるのは、あるレベルを超えると圧倒的に無意味となる。それでタイミングを逃してしまったら本末転倒、大罪だ。

  • 事業リーダーにとって、「正しい選択肢を選ぶ」ことは当然重要だが、それと同等以上に「選んだ選択肢を正しくする」ということが重要となる。決めるときも、実行するときも、リーダーに最も求められるのは胆力ではないだろうか。ほかの諸々は誰かに補ってもらうことが可能だが、リーダーの胆力はチームの強さにそのまま反映される。それがクライアント(顧客企業)に「役立ったか」、クライアントは「impressしたか(感心してもらえたか)」を四六時中気にしていたコンサルタント出身者にとってはとても大きなジャンプなのだ。コンサルティングは胆力が養われやすい場ではない。

  • DeNAが逸材を引っ張り込むのを見て、どうやって口説くのかと訊かれることが多い。が、人を口説くのはノウハウやテクニックではない。「策」の要素を排除し、魂であたらなければならない。きれいごとを言うようで気恥ずかしいが、私が採用にあたって心がけていることは、全力で口説く、誠実に口説く、の2点に尽きる。

  • なぜ育つか、というと、これまた単純な話で恐縮だが、任せる、という一言に尽きる。人は、人によって育てられるのではなく、仕事で育つ。しかも成功体験でジャンプする。それも簡単な成功ではなく、失敗を重ね、のたうちまわって七転八倒したあげくの成功なら大きなジャンプとなる。

  • ギリギリな仕事を任せれば当然、失敗するリスクもある。でも、不思議と人は顕在化している能力の数倍の能力を有していて、本人も驚くような大仕事をやってのけるものである。万が一できなければチームが寄ってたかって助ける。まれにそれでもカバーしきれず、穴があくこともある。そのリスクはとろう、でも人が育たないリスクはとらない。DeNAはそういう選択をしているつもりだ。

感想など

とにかく正直にかつリアルなストーリーで、南場さんやDeNAのメンバーの方々の息遣いが伝わってくるような、とても素敵な本でした。節目節目で「これもうやばくね」という絶望的な事件が起こりますが、南場さんが「これを乗り越えたらまた新しい歴史になる」と前向きにとらえ、チームを鼓舞し、やり切っていく姿が非常にさわやかでした。

一方、そのような絶望を乗り越えられず、消えていった企業も数えきれないほどあるのも事実です。また、一見乗り越えたように見えても、裏で不誠実なこと、ダーティーな取引に手を染めてしまい、一気に墜落するパターンもあります。

経営者として、チームを鼓舞してどんなときでも前を向くこと、誰にも恥じることのないようにまっすぐにビジネスを進めていくこと、その二点は絶対に忘れないようにしよう。

コンサルタントから経営者に転身するときの苦労するポイントも非常に共感しました。「こうしましょう」と「こうします」の間には計り知れない差があります。「こうします」の後には、人的リソースやお金をつぎ込んだアクションがあり、そこから結果を出せなければすべて自分の責任です。これをやり切り、やり続ける胆力、これは引き続きつけていかなければだめだなと思いました。

不格好経営、素晴らしかったです。経営者の方、起業家の方はぜひ読んでみてください!

不格好経営

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