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読書録009:イノベーション・オブ・ライフ

読書録009です。ハーバードビジネススクールの教授、クレイトン・クリステンセン氏の「イノベーション・オブ・ライフ」です。

「イノベーションのジレンマ」「ジョブ理論」等々、超一流の経営学者として有名な方です。ボストン・コンサルティンググループでコンサルタントとして働いていたり、起業経験もある方です。

本書は、彼が研究してきた企業経営を人生に援用したらどうなるか?という観点で書かれた、人生の指南書です。20代を必死に駆け抜けた後、30代になり、家族との時間と仕事のバランス、育児についてなど考え始めている…という人に大変おススメです。

本書からの抜粋

  • わたしたちを心から深く満足させるもの、つまり仕事への愛情を生み出す要因はいったい何だろう?これが、ハーズバーグの研究で「動機づけ要因」と呼ばれるものだ。動機づけ要因には、たとえばやりがいのある仕事、他者による評価、責任、自己成長などが含まれる。自分が仕事に有意義な貢献をしているという自負は、仕事そのものに内在する条件がもたらすものだ。動機づけは、外からの働きかけや刺激とはほとんど関係がなく、自分自身の内面や仕事の内容と大いに関係がある。

  • 金銭を追い求めても、せいぜい仕事への失望感を和らげられるにすぎないということだ。それでも富の誘惑は、社会の俊英たちを混乱させ、惑わせている。本当の幸せを見つける秘訣は、自分にとって有意義だと思える機会をつねに求め続けることにある。新しいことを学び、成功を重ね、ますます多くの責任を引き受けることのできる機会だ。

  • キャリアを歩むうちに、自分がどのような分野の仕事なら好きになれるのか、輝けるのかがわかってくる。そのうちに動機づけ要因を最大限に高め、衛生要因を満たせる分野がきっと見つかるだろう。だが象牙の塔に閉じこもり、問題をじっと考えていれば、いつか答えがひらめくというものではない。戦略は必ずと言ってよいほど、予期された機会と予期されない機会が組み合わさって生まれる。肝心なのは、外へ出ていろんなものごとを試しながら、自分の能力と関心、優先事項が身を結びそうな分野を、身をもって知ることだ。本当にやりたいことが見つかったら、そのときが創発的戦略から意図的戦略に移行するタイミングだ。

  • 同級生たちは昇進や昇給、ボーナスなどの見返りがいますぐ得られるものを優先し、立派な子どもを育てるといった、長い間手をかける必要があるもの、何十年も経たないと見返りが得られないものをおろそかにした。こうした即時的な見返りを手にすると、自分と家族の派手なライフスタイルを賄うのに使った。もっとよい車、もっとよい家、もっとよい休暇旅行。だが困ったことに、ライフスタイルの要求は、資源配分プロセスをたちまち固定化してしまう。「昇進を逃してしまうから仕事にかけるじかんを減らすわけにはいかない。どうしても昇進しなくては...」

  • 企業が大きくなると、経営者がすべての意思決定を現場でいちいち監視するわけにはいかなくなる。そのため企業が大きく複雑になればなるほど、経営幹部が従業員を教育して、企業の戦略的方向性とビジネスモデルに合った優先事項を、自力で決定できるように教えこむことが、ますます重要になる。つまり企業が成功するためには、経営幹部がじっくり時間をかけて、明確で一貫した優先事項を打ち出し、組織全体で広く理解されるよう、腐心しなくてはいけない。またそうするうちに、企業の優先事項を、企業が利益をあげる仕組みと調和させる必要がある。企業が生き残るには、企業戦略を支えるものごとを、従業員に優先させなくてはならない。そうでなければ、従業員は企業の基盤をゆるがすような決定を下してしまうことがある。

  • 子どもに必要なのは、新しいスキルを学ぶことだけではない。能力の理論は、子どもに困難な挑戦を与えることの必要性を教えてくれる。子どもに厳しい問題を解決させ、価値観を養わせよう。どれほど多くの経験をさせても、心から打ち込めるような機会を与えない限り、将来の成功に必要なプロセスを身につけさせることはできない。また子どもにこうした経験をさせる役割を他人任せにする、つまりアウトソーシングすれば、子どもをあなたの尊敬、賞賛するような大人に育てあげる、貴重な機会を失うことになる。子どもが学ぶのは、あなたが教える準備ができたときではない。彼らは、学ぶ準備ができたときに学ぶのだ。子どもが人生の困難に立ち向かうそのとき、あなたがそばにいてやらなければ、彼らの優先事項を、そして人生を方向づける、貴重な機会を逃すことになる。

  • アーチボルドは大学を卒業したとき、成功する企業のCEOになるという、明確な目標をもっていた。だが目標に到達するための「正しい」踏み台になるような、聞こえのいい仕事に就こうとはせず、こう自問したのだ。「これからどんな経験や問題を習得し、克服していけば、成功するCEOになる素養と能力を備えた人材になれるだろうか?」

    • そんなわけでアーチボルドはキャリアの初期段階に、人と違う行動をとろうと決心した。ビジネススクールの同級生は、一見理解に苦しんだことだろう。彼は経営トップへの出世コースと思われるような職務や任務につく代わりに、どのような経験が得られるかから逆算して、計画的に仕事を選んでいったのだ。「収入や名声をもとに仕事を選ぶようなことは絶対にしなかった」と彼は学生たちに語った。「むしろ、仕事を選ぶ際には必ずこう考えた。『この仕事は、わたしが将来立ち向かう必要のある経験をさせてくれるだろうか』」

    • アーチボルドがビジネススクールを卒業後、初めてついた仕事は、華やかなコンサルティングの仕事ではなかった。彼は北ケベックで、アスベスト鉱山の経営に携わった。困難な状況で働く人たちを管理、指揮するという特定の経験を、経営トップになるまでに積むべきと考えてのことだった。そしてこれを皮切りに、同様の決定を次々と下していった。

    • 戦略は功を奏した。彼はほどなくしてビアトリス・フーズのCEOに就任した。それから、わずか四十二歳にしてブラック&デッカーのCEOに就任するという、さらに高い目標を成し遂げたのだ。彼はその後二十四年間にわたって、この地位を務めあげた。

  • 子どもがぶつかる困難には、重要な意味がある。子どもは大変な経験をすることでこそ、生涯をとおして成功するのに必要な能力を磨き、養っていく。気難しい先生とうまくつき合う、スポーツでの失敗を乗り越える、学校内のグループの複雑な人間関係を生き抜く方法を学ぶといったすべてが、経験の学校の「講座」になる。仕事で失敗する人は、もともと成功する能力が欠けているのではなく、仕事に伴う困難に立ち向かう力を身につけるような経験をしてこなかったのだ。言いかえれば、間違った「講座」を受講してきたということになる。

感想など

シンプルにとてもいい本でした。

クリステンセン氏の穏やかな人柄、今まで積み上げてきた研究から導き出された本質的なロジックをベースに、人生の捉え方についてじっくりと考えさせてもらえるような体験を得られます。

衛生要因だけにとらわれず動機づけ要因もきちんと意識すること、自分のミッションが見つかったら創発的戦略から意図的戦略に切り替えること、明確な目標を達成するために「必要な経験」を定義&積み上げること。これは特にここ数年で自分も深く納得できるようになりました。

この本を最初に読んだのは、おそらく5-6年前だったように思います。そのときは、正直あまり理解ができなかったような記憶があります。そのころは、もっと即効性のある、すぐにプラスになるようなメッセージを求めていたんじゃないかな…。いい意味で「大人向けの本」だと思うので、30代以降の方に特におすすめです。


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