2008年度 和歌文学の世界 期末レポート

学籍番号:●●●
氏名:秋本 佑
学年:2年
所属:文学部 哲学コース

前半:第4回
 ここで主に扱われているのは、額田王と天武天皇による「蒲生野贈答歌」(20、21)である。内容を一見する限りでは、人妻であるにもかかわらず男性に恋をされた女性と、その男性との間の、やや後ろめたさが感じられる歌のやりとりのように思えるが、この歌が相聞ではなく雑歌に分類されていることからもわかるように、これを、彼らの個人的な関係に還元するのは早急である。
 万葉集では、「人妻への恋」というモチーフが好んで使われるが、これには「歌垣」という行事の存在が影響している。歌垣とは、人々が集って恋愛を主題とする歌をやりとりする行事であり、そこで配偶者のいる女性に対して恋をするという、日常では禁忌とされていることを行うことで、ハレの儀式の特殊性・祝祭性を高めようとした。
 「蒲生野贈答歌」は狩りの後の宴席で、額田王が、狩りから歌垣の雰囲気を汲み取り詠んだ歌に対して、天武天皇がその意に即した返歌をすることで酒席を盛り上げようとしたものなのである。(415字)

後半:第9回
 ここでは、山上憶良の「貧窮問答歌」の特異性が扱われた。貧窮問答歌は、形式からして、一首の中に問いと答えがあるという変わったものだが、そもそも貧窮をテーマにすること自体が特殊である。表現上も、日常生活に根ざした俗語が多用され、それが貧しい生活の叙述のリアリティを高めている。
 内容の特徴としては、前半では「然とあらぬ/ひげ掻き撫でて/我を除きて/人はあらじと/誇ろへど」と、登場人物は中国文学からの影響である「清貧」を気取ってみるのだが、結局は「誇ろへど/寒くしあれば」となり、現実のどうしようもない寒さの前では清貧に甘んじている余裕などない様子が描かれる。
 後半でも俗語を使ったリアリティのある叙述が行われ、さらに反歌においては、悟りを開いた自由な境地を大空を飛ぶ鳥に例えるという仏教経典の発想を持ち出しながらも、そういったものにたどり着くことができず、現実を生きていかざるを得ない人間の嘆きを描き、単なる外国思想の翻訳に終わらない、ユニークな観点で憶良は歌を詠んでいる。(434字)

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