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売約済み販売車両Z1000製作模様の紹介です(5)

タサキチューニングで実際に販売したこちらのカワサキZ1000の製作模様を紹介します。

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この車両はフルレストア車ではなく、整備+部分レストアコースになります。

前回ヘッド回りとミッションの組み立てを紹介しましたが、その続きで、地味ですが大切なエンジンのブラスト処理、ネジ山の修理などなどです。

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この写真はクランクケースのブラスト作業が終わったところ。エンジン丸ごと一機の状態(中身は入っていない)で行うと作業時間が断然短く済むのですが、当社ではヘッド、シリンダー、クランクケースに分けてマスキングしブラスト作業を行っています。
この方が隅々まできちんとブラスト処理ができます。手間(時間)はかかりますがそれ以上にメリットが大きいので。

ただし治具の関係や、部品入手が難しいものなど、車種によってはこのように分割して出来ないものもあります。

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この後の工程で塗装をするにもきちんとブラスト処理を行えば色を塗った時の仕上がりが良くなりますし、もちろん錆、汚れも可能な限り丁寧に落とすことができます。

もしクラックなどが入っていた時にも発見しやすくなりますし、溶接したりなどの修理作業も行いやすくなります。

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先程のクランクケースのマスキングをはがして洗浄したところ。これから悪い部分を再チェックし修理します。シリンダーライナーは大きいサイズに変更し使用するため、クランクケースのボーリングはすでに行っています。

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クランクケースのボーリング部分の写真。ご覧のようにきれいに仕上がっています。ここまで綺麗に仕上がっていなくても特に問題ないのですが、作業する金属加工屋さんの考え方が出る所(ほっといても丁寧にしてくれるかどうか)だと思います。角の部分は後でまとめてバリ取りします。

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クランクケースのボーリングを依頼する加工屋さんには、一緒にヘッドの修正面研も頼んでいます。こちらも綺麗に仕上がっています。こちらも後で燃焼室の面取り、その他はバリ取りを行います。
ポートや燃焼室の作業は以前紹介したように作業済み。

どうせ面研するならと間違った考えで必要以上に面研するところがありますが、面研はたくさんすれば偉いわけではなく、目的に合わせて必要な分だけするのが正しいです。当社の場合は使用するピストンで必要な圧縮比が得られるので最低限歪みをとるだけの面研となります。

このZ1000のエンジンはかなり程度が良い方ですが、それでも修理すべきところがあります。したがって本当に程度が良いというものでも、そのままで良いという事はないはずです。これは20年以上の今までの経験から得た教訓です。

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この写真は整備+部分レストアをする前の状態。かなり状態が良いのが解ってもらえると思います。この時キャブレターだけは国内登録をするために変更しています。ここで紹介している作業はこのバイクのものです。

完成時の目標状態に合うベース車両を仕入れることが重要で、ボロからはボロしか出来上がりません。

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まずは過去のまずい作業で(海外で行われたもの)入れられたオイルパン部分の深めの傷を治します。このようにエンジン外から中までつながっている傷はオイル漏れの原因となり良くありません。浅い傷なら修理しなくて済むこともあります。

修理するのはマジックでしるしを入れた部分で、ガスケットをはがすときにこのようにスクレッパーなどで傷を入れられていることはとても多いですが、これはダメ整備士の典型的な作業です。丁寧に作業すればこのような深い傷は入りません。

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今回はこの写真のように最低限の溶接を行って、この後面だしをして修理しました。溶接した箇所の上の、ボルトのネジ部にもう一つ傷がありますが、こちらは治さなくても大丈夫な傷です。

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修理後。アングルが違いますが傷がなくなっているのが解ると思います。

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エンジン左側のジェネレーターカバー部分のネジ山にボルトが折れ残ってしまっている箇所を修理します。こういう箇所の修理を失敗してしまって、修理が難しくなってしまっている旧車バイクがとても多いのが現実。

修理は一発で決めるのが一番費用が抑えられ、しかも仕上がりが良くなる。うだうだ何度も修理するのは間違い。

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なるべくエンジン本体を痛めないように残ったボルトを取ります。

この残ったボルトを取り去るのが一番難しく根気がいる所ですが、しっかり都度考えて適切な手順で作業することが大切。
今回はドリルで残ったボルトの真ん中に穴を開け、その穴を2、3度に分けてサイズアップしながら大きくし、ボルトの部分が少なくなってから先の細い工具を使って取り除きました。

見ての通りほとんど傷んでいません。よくボルトをうまく取り除けずにボルトの回りをボコボコに壊してしまっているものがありますね。

そうなると修理は大ごとになります。
ネジがきちんと修理できない。そういう人は旧車の整備士向きではありませんから、そういうところには依頼しないのが一番です。が、お客さん側から見れば、誰ができ、誰ができないのかはたから見ると解らないのが難しい所ですね。

ですが売っているバイクや、仕上がってバイクをよく見れば、ほとんどのことは解るんですよね。ほんとは。

ここまでできれば後は簡単です。

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ヘリサート用のタップを立ててます。

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綺麗にネジが切れました。この後ヘリサートのコイルを(この呼び方が正しいかはわかりません)入れます。

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ヘリサートコイルを入れ終わりました。ここはこのボルト部分にオイルが入ることはない所なのでヘリサートでよいのですが、オイルが入る箇所の場合はタイムサートで治します。

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最終確認で実際にボルトを入れて問題がないかをチェック。これでこの部分の修理は完成。

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次はこの折れ残ったM8のボルト部分を修理します。

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ここは元々ネジロックを塗って締め付けをする箇所の為、年数が経って分解する時にボルトが緩まなくて折れてしまうことがよくあります。

このエンジンも実際にそうなったため修理をします。写真は折れたボルトをとっている最中。ここら辺のクランクケースのボルトは純正を使いたいところですが、在庫を持っているので折れてしまっても大丈夫。

ねじロックを塗られているところは、過去一度も分解されたことのない程度の良いエンジンの方が折れる印象がありますね。

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無事綺麗にエンジン本体を傷めずに残ったボルトを取り去ることができました。そのまま再使用できそうですが、念のためネジ山を再度加工してヘリサートを入れます。エンジンを組んでいる最中にボルトが抜けてくると悲劇なので。

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ヘリサートコイルを入れ終わったところ。ひと山ふた山、奥に入れておく方が良いですね。

ここは元々ボルトの座面に液体パッキンを塗って、オイルがボルト部分から漏れ出ないように組付ける箇所ですが、実際にはオイルが入り込むことはほとんどなく漏れたことはないのでヘリサートで修理。

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もう一か所ネジ山の修理をした後、手工具で各部のエッジを落としたり、バリが残っている部分のバリ取りをします。この写真はクランクケースボーリングをした箇所のバリ取り。

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解りやすくバリが残っている箇所の写真。これはミッションのベアリング部分でバリがはっきり残っています。振動などでこれらバリがエンジン内に落ちたりすると良くありませんから、あらかじめ落としておくわけです。

名誉のため書きませんが、もっとびっくりするほど大きいバリがあるメーカーもあります。そういうバリ(金属のカス)がエンジン内を回ってエンジンに良いことはありません。

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バリ取り後。エンジン組付け時はあちこち脱脂をしながら、また液体パッキンを塗るところもあり、そういう作業の時にバリがないととても作業がしやすく、正確な組付けができます。

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シリンダーのブラストが終わり、清掃後。ライナー打ち換えボーリングされています。上面は打ち換えたライナーとの段差をなくすため面研されています。

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シリンダーの後ろ側。フィンの奥まで綺麗にブラスト処理が行われています。ここまで綺麗にする必要はないですが、というほど。

きちんとブラスト処理が行われると、後の塗装の仕上がりが自然と良くなります。またブラストするメディアが良いと塗料の食いつきが良くはがれにくくなります。(はがれないという事ではない)見えないところの下地が大切なのは車のボディなんかと変わりはありません。

ですから写真であまり近くに寄らないで撮った写真では状態が良く見えるのに、実際に生で見るとなんか安っぽく、いかにも塗りましたというような、自然でない仕上がりになったりするはブラストが悪いこともあります。もちろん塗る塗料や、塗装の仕方の方が見た目の影響は大きいですが。

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殆どのエンジンは塗装されることが多く、ブラストした状態は見えなくなるので、雑にブラスト処理が行われていることが結構あります。

また最近は少ないですが、ブラストのみで塗装をしないエンジンもあります。その時フィンの上から見るといいが、下側は塗装や汚れが多く残ったものもあり、また空冷エンジンの場合フィンの奥の方はきちんとブラストされていないこともあります。これは単純に面倒だからですね。

塗装をされていないエンジンをお持ちなら一度下側から見てみると、作業がきちんとされているかいないか知ることができます。
大体外が雑なものは中も雑に作業されていると思って間違いありません。

なぜこのような手抜きが行われるかといえば、ブラスト処理は全体の70~80%ぐらいまでは気が楽で、作業も進みストレス少なく作業できるのですが、そこから残りの20~30%をきちんと終わらせることが大変。根気と時間が必要になるからです。

時間で言えば仮に6時間で80%まで終わって、残りの20%で3時間かかるなんてこともあったりします。この時の残りの20%は重箱の隅をつつくような作業になるので、したくないという事になるわけです。

それで70%~80%までしかできていないプロとは呼べないような仕事でも、お金をもらう側(店)としてはお客さんに対して「ブラストして塗装をしました」と言えるでしょ。

中身が伴っておらずきちんと作業しているかいないかは別にして、ブラストした、と言えるわけですから。これはレストア済み!整備済み!と言って売られている旧車でも同じようなことで、いわゆるこの業界の闇の部分ですね。

どちらを選ぶかはお客さんの自由ですが、私ならそんな店には頼まない。たとえ安かったとしてもその金額程の仕事はしていないことは確実。

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この写真は、エンジン内部の作業が終わり、外側のブラスト処理も終わったので、再度清掃、しつこく脱脂してから塗装のためのマスキングをしたところ。これはヘッド。

エンジンの塗装も中身を抜いた状態で丸ごと1機の状態にしてから塗るという方法もあり、そちらの方がマスキングも塗装も早くできるのですが、どうしても塗りにくいところが出てきます。

塗りにくい所は車体にエンジンを載せると見えにくい所なので、一見きちんと塗られているように見えます。

ですが所有し、掃除しながらよく見るようになるとあちこちダメなところが目に付く、そんな感じが嫌なわけで、当社ではヘッド、シリンダー、クランクケース、その他に分けてマスキングして塗装するわけです。

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ヘッドカバー部はこのエンジンのものではなく治具で、ヘッドカバーを加工したもの。プラグ穴周辺など奥の方が塗りやすいようになってます。
このエンジンのヘッドカバーはこれとは別に単品で塗ります。

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フィンの端の部分を黄色のテープでマスキングしています。
この部分は普通に塗っていると厚塗りになって最初に熱が入った時に状態が悪くなったりするので、塗装途中まではマスキングしておき、終わりぐらいの工程でマスキングをはがして薄めに塗ることでフィンの端の質感をあげ、またトラブルを防ぐようにしています。

これは使用する塗料によってはしなくてもよい物もありますが、ぼてっとした感じになっているものが多いですね。私はそれは好きではなく、今使用している塗料の質感が好きなのでこうしています。

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マフラースタッドボルトのマスキングが段取りの関係でまだ終わっていませんが、ヘッドはこんな感じでマスキングしてます。

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続いてシリンダー。

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ヘッドカバーやオイルパンなど、ここに写っていない部品は単品で塗装やバフ掛けを行います。この方が仕上がりが良くできるからです。

このようにすっぴん状態で内外見れば、状態が良いか悪いかなんてことは一発で解ります。

そして良い結果、長く調子が良く、壊れにくく、外観も美しく楽しく走れ、維持費が少なくてすむ。そういう旧車バイクに仕上げるには良いベース車両を手に入れる目がとても大切で、日頃本当に良いものを知っていないとそれはかないません。

今回はここまで。次回に続きます。

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