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葬送花

川を下る小舟の中に、眠るようにその少女は横たわっていた。

小舟は、白百合で埋め尽くされている。

少女の長い髪と、同じ色だった。その、死装束の着物とも。

青空には雲。

小舟は野原の土手の脇を下り、木立をくぐり、やがて、街まで下った一角で回収された。

小舟は、男たちによって引き上げられ、中から棺桶が引き出された。

彼女は、土葬された。墓石には名前が彫られた。

この国では、葬儀は基本、火葬である。

しかし、少女の身体には、死後「葬送花」の球根や種子が埋め込まれる処置が施されていた。

葬送花、というのは俗称である。

正式な学名は別だったが、通常は「葬送花」と呼ばれていた。

「葬送花」は、動物の遺体を養分として成長し、遺体を分解、吸収し尽くすと枯れる。葬送花の支配力が強力であるため、葬送花が根付くと他の腐敗菌等は入らず、土葬した遺体の腐敗による周辺への被害も無い。

 このため、葬送花を遺体に埋め込んだ場合のみ、土葬が許可されていた。

 死んだ後、小舟で川を下るのも、葬送花を埋め込むのも、生前の本人の意思だった。

 葬儀の2日後、死んだ少女、サルファの友人だったジェラルドとシャーロットは、もう一度、サルファの墓に行ってみた。

 一説によると、葬送花を埋めて葬られた人と、会話ができる人がいるという。見える人と見えない人がいるとも。

 夜の少し手前の時刻、墓石前がわずかに白く光っていた。

 葬送花が、生えはじめていた。まだ草として生えたところで、葉や茎が出ているだけだった。その草が淡い光を放っていた。

 ジェラルドとシャーロットが葬送花の草の淡い光を見ていると、その上に、サルファの姿が浮かび上がった。

「サルファ!」

呼びかけられた少女は、軽く微笑んだ。

「来てくれて、ありがとう。お葬式にも来てくれてたよね」

「見えて、たのか?」

「うん。あの日はいい天気だったね」

「私ね、ベッドから起き上がれなくなってからずいぶん経ってたから、外の景色が新鮮だった」

「久しぶりにお外に出られて、ひばりの声が聞こえて。土手にはウサギが走ってたっけ。木立の中を潜り抜けるのも、とっても楽しかった」

「サルファ……」

「ここは少し、冷たいよ」

 そう言って、サルファは葬送花のあたりに顔を落とした。

 今は地面の下に眠っている、その身体に視線を合わせているかのようだった。サルファは顔を上げた。

「あと2日か3日で、花が咲くの。そうしたらまた、会いに来てくれるかな」

「ええ」

「分かった」

3日後、ジェラルドとシャーロットはサルファの墓に再び日暮れ時に訪れた。

サルファは、白いフリルのドレスを身にまとっていた。死に装束の着物ではなかった。

ドレスには、植物の図柄の刺繍が上半身に施されているように見えた。葬送花の柄だった。

土葬された土前面に、青白く光る葬送花の葉と茎が、3日前より強い光を放っていた。そして、花が咲いていた。

ほとんどの花はピンク色だった。

1輪だけ、ひときわ大きな花が咲いていた。

その花の色は深紅だった。

位置は、おそらくサルファの心臓部分。

「サルファ……」

「どう?こんな服になっちゃった」

「綺麗だ。サルファ」

「素敵なドレス。よく似合ってる」

ジェラルドとシャーロットが言うと、サルファは嬉しそうに微笑んだ。

「もうすぐ、出かけるの」

「行くのか……」

「ジェラルド、シャーロット。私が学校に出られなくなってからも、ときどきうちにお見舞いに来てくれてたよね。世界中から忘れられていくような気がしていたから、本当に嬉しかった」

「何を……言うの。友達、でしょ」

「うん。今日も来てくれた。ありがとうね。最後に会えて良かった」

 サルファは笑顔のまま、ゆっくりと透明になり、完全に陽が落ちた頃には葬送花だけが残されていた。

 数日後、ジェラルドとシャーロットは礼服を着て、墓前に駆けて行った。

 葬送花は枯れ、あたりにはいくつかの種が散らばっていた。

「僧侶に見つからないうちに、拾おう」

「うん」

葬送花の種を持つと縁起が悪いと言われていた。

だけど、ジェラルドとシャーロットは、何故かどうしても種を拾いたかった。

葬送花の種を拾ってふたりがポケットとポーチに詰め終えた頃、僧侶と親族が遅れてやって来た。

葬送花が枯れた時が、土葬の本葬である。

魂が迷わず死者の世界に行けるように、僧侶は読経を始めた。

ジェラルドたちも頭を垂れて、祈った。


どこかの奇妙な、お葬式の物語。

2021.3.28


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