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エピソード6 ジュニア

開幕戦を本塁打で飾ったスーパースター・グリフィーはその後本調子とはいえない状態が続いた。

しかし、チームは勝率5割を維持し、強打のエンジェルスを追っていた。



マリナーズも打撃好調で4番ジェイ・ビューナー、後に4番に入ることになる1992年の首位打者エドガー・マルティネス、ドラフト1巡目の力を発揮し始めたティノ・マルティネスらが活躍、グリフィーの不調はあまり目立たなかった。

しかし、やはり彼あってのマリナーズ、このアクシデントをきっかけにまたドアマット時代に逆戻りするのかと思われた。



それは、5月26日、あのカル・リプケンのオリオールズとの試合中の出来事だ(先に卒業式でもらったチケットで見に行った)。

そのときの状況は詳しく覚えていないのだが、マリナーズが1点リード、オリオールズの攻撃、一打同点の場面でケビン・バスがセンター右に本塁打性の大飛球を打ち上げた。

それを追うゴールドグラブの名手・グリフィーはフェンスに激突しながら好捕、チームの危機を救うスーパープレイを見せた(試合は4ー3でマリナーズの勝ち)。

…しかし、当のグリフィーは立ち上がらなかった。

彼はすぐにベンチに下がり医師の診断を受け、そしてまもなく電光掲示板に「左手首骨折のため手術が必要。全治3ヶ月」と表示された。

その試合には勝ったものの、首位を狙える大事なときに主砲の長期戦線離脱、これには地元ファンのみならず全米のファンが心配した。このときの映像は何度も繰り返し放送された。その影響か6月は大きく負け越し1ヵ月後の7月1日、マリナーズは30勝30敗で地区最下位に転落した。



それでもグリフィーの人気は衰えなかった。

最初の1ヶ月しかプレーしていなかったにもかかわらず、ファン投票でオールスターに選ばれたのである。

そのときの先発投手は我らがジョンソンとトルネード旋風を巻き起こした野茂英雄だったので記憶している人もいるだろう。



だがマリナーズはあきらめていなかった。

7月の終わり、いつもなら将来を考え年俸の高い選手を放出し続けてきたのだが、この年は初めて逆の立場(パドレスのエース、アンディー・ベネスを獲得!)になったのだ。

私はこのとき勝つ姿勢を見せたことに対してとても興奮した…事実これがプラスに作用するのだ。

しかし、7月を終わって首位エンジェルスとのゲーム差は11。

グリフィー不在、投手陣の疲れが見えるこのチームにとってそれを追いかけるのはとても困難に見えた。


8月15日、ミネソタでグリフィーが復帰するというニュースが流れた。

そこで私はすかさず次のシアトルでの試合を押さえた。

そして18日の対レッドソックス戦、ついにグリフィーはシアトルに帰ってきた!

言うまでもないが彼に対する「お帰りなさい!」の意味を込めた歓声はすさまじかった。

これのために試合を観に行ったようなものだったのでそれだけでとても満足だった。

試合もそれを祝うような派手な展開。

以前、阪神でもプレーしたマイク・ブロワーズを覚えているだろうか。彼はこのシーズン途中から大爆発、23本塁打、93打点を挙げるのだ。この試合では初回に満塁弾、次の打席でも3点本塁打と暴れまくった。

翌週のヤンキース戦では9回裏にグリフィーのサヨナラ本塁打。

この月は球団記録の16勝、終わってみれば首位との差は7.5になっていた。

不安だった右翼手先頭打者と抑え投手にそれぞれ、スピードスターで知られるビンス・コールマン、ノーム・チャールトンを迎え「REFUSE TO LOSE」のスローガンの下、最終月9月に突入!



…しかし、そのとき私の気持ちは複雑だった。

9月3日には帰国しなければならなかったのだ。


それはLilyとの別れを意味していた。


彼女と出会い帰国を延ばし延ばしにしていたが、ビザの都合もありこれが限界だった。

8月のはじめに彼女も無事卒業、私もステューデント・ワーカーをやめて彼女との時間を大切にするようにした(先のヤンキース戦も行くつもりをキャンセルした)。


その後、マリナーズはどうなったか?

Lilyとの話も含めて次回以降話していくことにしよう。


***


ケン・グリフィー・ジュニア

1989年のデビューから日本でも話題になった選手なのだが、覚えているだろうか?

アメリカでは2世選手は珍しくないのだが、グリフィー親子は史上初めて父子同時に現役でプレー(父シニア39歳、息子ジュニア19歳)したのだ。

翌年はシーズン終盤に父が息子のいるマリナーズに移籍して、これまた史上初の親子同一チームでプレー。その数週間後には2番シニア、3番ジュニアの2者連続ホームランも記録している。

2016年には当時、史上最高得票率で殿堂入りし、マリナーズで「24」は永久欠番となった。

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