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第19章 ハンガリー・ホーンテール 8

シリウスは戸惑いを見せた。
「近ごろはどうもおかしなことを耳にする」
シリウスも考えながら答えた。
「『死喰い人デス・イーター』の動きが最近活発になっているらしい。クィディッチ・ワールドカップで正体を現わしただろう?だれかが『闇の印』を打ち上げた……それに__行方不明になっている魔法省の魔女職員のことは聞いているかね?」
「バーサ・ジョーキンズ?」
「そうだ……アルバニアで姿を消した。ヴォルデモートが最後にそこにいたという噂のある場所ずばりだ……その魔女は、三校対抗試合が行われることを知っていたはずだね?」
「ええ、でも……その魔女がヴォルデモートにばったり出会うなんて、ちょっと考えられないでしょう?」
ハリーが言った。

「いいかい。わたしはバーサ・ジョーキンズを知っていた」
シリウスが深刻な声で言った。
「わたしと同じ時期にホグワーツにいた。君の父さんやわたしより二、三年上だ。とにかく愚かな女だった。知りたがり屋で、頭がまったく空っぽ。これは、いい組み合わせじゃない。ハリー、バーサなら、簡単に罠にはまるだろう」
「じゃ……それじゃ、ヴォルデモートが試合のことを知ったかもしれないって?そういう意味なの?カルカロフがヴォルデモートの命を受けてここに来たと、そう思うの?」
「わからない」
シリウスは考えながら答えた。
「とにかくわからないが……カルカロフは、ヴォルデモートの力が強大になって、自分を守ってくれると確信しなければ、ヴォルデモートの下に戻るような男ではないだろう。しかし、ゴブレットに君の名前を入れたのがだれであれ、理由があって入れたのだ。それに、試合は、君を襲うには好都合だし、事故に見せかけるにはいい方法だと考えざるをえない」
「僕のいまの状況から考えると、ほんとうにうまい計画みたい」
ハリーが力なく言った。
「自分はのんびり見物しながら、ドラゴンに仕事をやらせておけばいいんだもの」

「そうだ__そのドラゴンだが」
シリウスは早口になった。
「ハリー、方法はある。『失神の呪文』を使いたくても、使うな__ドラゴンは強いし、強力な魔力を持っているから、たった一人の呪文でノックアウトできるものではない。半ダースもの魔法使いが束になってかからないと、ドラゴンは抑えられない__」
「うん。わかってる。わっき見たもの」
ハリーが言った。
「しかし、それが一人でもできる。方法があるのだ。簡単な呪文があればいい。つまり__」
しかし、ハリーは手を上げてシリウスの言葉を遮った。
心臓が破裂しそうに、急にドキドキしだした。
背後の螺旋階段をだれかが下りてくる足音を聞いたのだ。

「行って!」
ハリーは声を殺してシリウスに言った。
行って!だれか来る!」
ハリーは急いで立ち上がり、暖炉の火を体で隠した__ホグワーツの城内でだれかがシリウスの顔を見ようものなら、何もかも引っくり返るような大騒ぎになるだろう___魔法省が乗り込んでくるだろう__ハリーが、シリウスの居場所を問い詰められるだろう__。

背後でポンと小さな音がした。
それで、シリウスがいなくなったのだとわかった__ハリーは螺旋階段の下を見つめていた__午前一時に散歩を決め込むなんて、いったいだれだ?
ドラゴンをうまく出し抜くやり方を、シリウスがハリーに教えるのを邪魔したのはだれなんだ?

ロンだった。
栗色のペーズリー柄のパジャマを着たロンが、部屋の反対側で、ハリーと向き合ってピタリと立ち止まり、あたりをキョロキョロ見回した。

「だれと話してたんだ?」
ロンが聞いた。
「君には関係ないだろう?」
ハリーが唸るように言った。
「こんな夜中に、何しにきたんだ?」
「君がどこに__」
ロンは途中で言葉を切り、肩をすくめた。
「べつに。僕、ベッドに戻る」
「ちょっと嗅ぎ回ってやろうと思ったんだろう?」
ハリーが怒鳴った。
ロンは、ちょうどどんな場面にでくわしたのか知るはずもないし、わざとやったのではないと、ハリーにはよくわかっていた。
しかし、そんなことはどうでもよかった__ハリーは、今この瞬間、ロンのすべてが憎らしかった。
パジャマの下から数センチはみ出している、むき出しのくるぶしまでが憎たらしかった。

「悪かったね」
ロンが怒りで顔を真っ赤にした。
「君が邪魔されたくないんだってこと、認識しておかなきゃ。どうぞ、次のインタビューの練習を、お静かにお続けください」

ハリーは、テーブルにあった「ほんとに汚いぞ、ポッター」バッジを一つつかむと、力まかせに部屋のむこう側に向かって投げつけた。
バッジはロンの額に当たり、跳ね返った。
「そーら」
ハリーが言った。
「火曜日にそれを着けて行けよ。うまくいけば、たったいま、君も額に傷痕ができたかもしれない……。傷がほしかったんだろう?」

ハリーは階段に向かってずんずん歩いた。
ロンが引き止めてくれないかと、半ば期待していた。
ロンにパンチを食らわされたいとさえ思った。
しかし、ロンはつんつるてんのパジャマを着て、ただそこに突っ立っているだけだった。
ハリーは荒々しく寝室に上がり、長いこと目を開けたままベッドに横たわり、怒りに身を任せていた。
ロンがベッドにもどってくる気配はついになかった。

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