第十七章 二つの顔をもつ男 1
そこにいたのはクィレルだった。
「あなたが!」ハリーは息をのんだ。
クィレルは笑いを浮かべた。その顔はいつもとちがい、けいれんなどしていなかった。
「私だ」落ち着き払った声だ。 「ポッター、君にここで会えるかもしれないと思っていたよ」
「でも、僕は…スネイプだとばかり…」
「セブルスか?」
クィレルは笑った。いつものかん高い震え声ではなく、冷たく鋭い笑いだった。
「たしかに、セブルスはまさにそんなタイプに見える。彼が育ち過ぎたコウモリみたいに飛び回ってくれたのがとても役に立った。スネイプのそばにいれば、誰だって、か、かわいそうな、お、臆病者の、ク、クィレル先生を疑いやしないだろう?」
ハリーは信じられなかった。そんなはずはない。何かのまちがいだ。
「でもスネイプは僕を殺そうとした!」
「いや、いや、いや。殺そうとしたのは私だ。あのクィディッチの試合で、君の友人のミス・グレンジャーがスネイプに火をつけようとして急いでいたとき、たまたま私にぶつかって、私は倒れてしまった。それで君から目を離してしまったんだ。もう少しで箒から落としてやれたんだが。君を救おうとして、スネイプが私のかけた呪文を解く反対呪文を唱えてさえいなければ、もっと早くたたき落とせたんだ」
「スネイプが僕を救おうとしていた?」
「そのとおり」
「彼がなぜ次の試合で審判を買って出たと思うかね?私が二度と同じことをしないようにだよ。まったく、おかしなことだ…そんな心配をする必要はなかったのだ。ダンブルドアが見ている前では、私だって何もできなかったのだから。ほかの先生方は全員、スネイプがグリフィンドールの勝利を阻止するために審判を申し出たと思った。スネイプは憎まれ役を買って出たわけだ…ずいぶんと時間をむだにしたものよ。どうせ今夜、私がおまえを殺すというのに」
クィレルが指をパチッと鳴らした。縄がどこからともなく現れ、ハリーの体に固く巻きついた。
「ポッター、君はいろんな所に首を突っ込み過ぎる。生かしてはおけない。ハロウィーンのときもあんなふうに学校中をちょろちょろしおって。『賢者の石』を守っているのが何なのかを見に、私が戻ってきたときも、君は私を見てしまったようだ」
「あなたがトロールを入れたのですか?」
「さよう。私はトロールについては特別な才能がある…ここに来る前の部屋で、私が倒したトロールを見たね。残念なことに、あの時、みながトロールを探して走り回っていたのに、私を疑っていたスネイプだけが、まっすぐに四階に来て私の前に立ちはだかった…私のトロールが君を殺しそこねたばかりか、三頭犬はスネイプの足をかみ切りそこねた。
さあポッター、おとなしく待っておれ。このなかなかおもしろい鏡を調べなくてはならないからな」
その時初めてハリーはクィレルの後ろにある物に気がついた。あの「みぞの鏡」だった。
「この鏡が『石』を見つける鍵なのだ」
クィレルは鏡の枠をコツコツとたたきながらつぶやいた。
「ダンブルドアなら、こういうものを考えつくだろうと思った…しかし、彼は今ロンドンだ…帰ってくるころには、私はとっくに遠くに去っている…」
ハリーにできることは、とにかくクィレルに話し続けさせ、鏡に集中できないようにすることだ。それしか思いつかない。
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