第十七章 二つの顔をもつ男 12
「エヘン」
ダンブルドアが咳払いをした。
「かけ込みの点数をいくつか与えよう。えーと、そうそう…まず最初は、ロナルド・ウィーズリー君」
ロンの顔が赤くなった。まるでひどく日焼けした赤カブみたいだった。
「この何年間か、ホグワーツで見ることができなかったような、最高のチェス・ゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに五十点を与える」
グリフィンドールの歓声は、魔法をかけられた天井を吹き飛ばしかねないくらいだった。頭上の星がグラグラ揺れたようだ。
「僕の兄弟さ!一番下の弟だよ。マクゴナガルの巨大なチェスを破ったんだ」
パーシーがほかの監督生にこう言うのが聞こえてきた。広間はやっと静かになった。
「次に…ハーマイオニー・グレンジャー嬢に…火に囲まれながら、冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに五十点を与える」
ハーマイオニーは腕に顔を埋めた。 きっとうれし泣きしているにちがいないとハリーは思った。
グリフィンドールの寮生が、テーブルのあちこちで我を忘れて狂喜している…百点も増えた。
「三番目はハリー・ポッター君…」
大広間が水を打ったようにしんとなった。
「…その完璧な精神力と、並はずれた勇気を称え、グリフィンドールに六十点を与える」
耳をつんざく大騒音だった。 声がかすれるほど叫びながら足し算ができた人がいたなら、グリフィンドールが四百七十二点になったことがわかったろう…スリザリンとまったく同点だ。 寮杯は引き分けだ…ダンブルドアがハリーにもう一点多く与えてくれたらよかったのに。
ダンブルドアが手を挙げた。広間の中が少しずつ静かになった。
「勇気にもいろいろある」
ダンブルドアはほほえんだ。
「敵に立ち向かっていくのには大いなる勇気がいる。しかし、味方の友人に立ち向かっていくのにも同じくらい勇気が必要じゃ。そこで、わしはネビル・ロングボトム君に十点を与えたい」
大広間の外に誰かいたら、爆発が起きたと思ったかもしれない。 それほど大きな歓声がグリフィンドールのテーブルから湧き上がった。 ハリー、ロン、ハーマイオニーは立ち上がって叫び、歓声を上げた。ネビルは驚いて青白くなったが、みんなに抱きつかれ、人に埋もれて姿が見えなくなった。ネビルは、これまでグリフィンドールのために一点も稼いだことはなかった。
ハリーは歓声を上げながらロンの脇腹をつついてマルフォイを指さした。マルフォイは、「金縛りの術」をかけられたよりももっと驚き、恐れおののいた顔をしていた。
レイブンクローもハッフルパフも、スリザリンがトップからすべり落ちたことを祝って、喝采に加わっていた。嵐のような喝采の中で、ダンブルドアが声を張り上げた。
「したがって、飾りつけをちょいと変えねばならんのう」
ダンブルドアが手をたたいた。次の瞬間グリーンの垂れ幕が真紅に、銀色が金色に変わった。
巨大なスリザリンの蛇が消えてグリフィンドールのそびえ立つようなライオンが現れた。スネイプが苦々しげな作り笑いでマクゴナガル教授と握手をしていた。 スネイプの目がハリーをとらえた。スネイプの自分に対する感情が、まったく変わっていないのがハリーにはすぐわかったが、気にならなかった。来学期はまたこれまでと変わらないまともな日常が戻ってくるだけの話だ。
__ホグワーツにとっての「まともな」日常が。
その夜はハリーにとって、今までで一番すばらしい夜だった。クィディッチに勝ったときよりも、クリスマスよりも、野生のトロールをやっつけたときよりもすてきだった…。今夜のことはずっと忘れないだろう。
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