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第8章 「太った婦人」の逃走 7

ハリーが怪訝そうにゴブレットを見ていたので、ルーピンが微笑んだ。
「スネイプ先生がわたしのためにわざわざ薬を調合してくださった。わたしはどうも昔から薬を煎じるのが苦手でね。これはとくに複雑な薬なんだ」ルーピンはゴブレットを取り上げて匂いを嗅いだ。
「砂糖を入れると効き目がなくなるのは残念だ」ルーピンはそう言って一口飲み、身震いした。

「どうして__?」
ルーピンはハリーを見て、ハリーが聞きかけた質問に答えた。
「このごろどうも調子がおかしくてね。この薬しか効かないんだ。スネイプ先生と同じ職場で仕事ができるのはほんとうにラッキーだ。これを調合できる魔法使いは少ない」
ルーピン先生はまた一口飲んだ。ハリーはゴブレットを先生の手から叩き落したいという、烈しい衝動にかられた。
「スネイプ先生は闇の魔術にとっても関心があるんです」ハリーが思わず口走った。
「そう?」ルーピン先生はそれほど関心を示さず、もう一口飲んだ。

「人によっては__」ハリーはためらったが、高みから飛び降りるような気持ちで思い切って言った。
「スネイプ先生は『闇の魔術に対する防衛術』の座を手に入れるためならなんでもするだろうって、そう言う人がいます」
ルーピン先生はゴブレットを飲み干し、顔をしかめた。
「ひどい味だ。さあ、ハリー。わたしは仕事を続けることにしよう。あとで宴会で会おう」
「はい」ハリーも空になった紅茶のカップを置いた。
空のゴブレットからは、まだ煙が立ち昇っていた。

「ほーら。持てるだけ持ってきたんだ」ロンが言った。
鮮やかないろどりのお菓子が、雨のようにハリーの膝に降り注いだ。
黄昏時、ロンとハーマイオニーは談話室に着いたばかりで、寒風に頬を染め、人生最高の楽しいときを過ごしてきたかのような顔をしていた。

「ありがとう」ハリーは「黒胡椒キャンディ」の小さな箱を摘み上げながら言った。
「ホグズミードって、どんなとこだった?どこに行ったの?」
全部___答えはそんな感じだった。
魔法用具店のダービシュ・アンド・バングズ、いたずら専門店のゾンコ、「三本の箒」では泡立った温かいバタービールをマグカップで引っかけ、そのほかいろいろなところだった。

「ハリー、郵便局ときたら!二百羽くらいふくろうがいて、みんな棚に止まってるんだ。郵便の配達速度によって、ふくろうが色分けしてあるんだ!」
「ハニーデュークスに新商品のヌガーがあって、試食品をただで配ってたんだ。少し入れといたよ。見て__」
「私たち、『人食い鬼』を見たような気がするわ。『三本の箒』には、まったくあらゆるものが来るの__」
「バタービールを持ってきてあげたかったなあ。体が芯から温まるんだ__」

「あなたは何をしていたの?」ハーマイオニーが心配そうに聞いた。
「宿題やった?」
「ううん。ルーピンが部屋で紅茶を入れてくれた。それからスネイプが来て…」
ハリーはゴブレットのことを洗いざらい二人に話した。
ロンは口をパカッと開けた。
ルーピンがそれ、飲んだ?」ロンは息を呑んだ。
「マジで?」
ハーマイオニーが腕時計を見た。
「そろそろ下りた方がいいわ。宴会があと五分で始まっちゃう…」

三人は急いで肖像画の穴を通り、みんなと一緒になったが、まだスネイプのことを話していた。
「だけど、もしスネイプが__ねえ__」
ハーマイオニーが声を落としてあたりを注意深く見回した。
「もし、スネイプがほんとにそのつもり__ルーピンに毒を盛るつもりだったら__ハリーの目の前ではやらないでしょうよ」
「ウン、たぶん」

ハリーが言ったときには、三人は玄関ホールに着き、そこを横切り、大広間に向かっていた。
大広間には、何百ものくり抜きかぼちゃに蝋燭が点り、生きたこうもりが群がり飛んでいた。
燃えるようなオレンジ色の吹流ふきながしが、荒れ模様の空を模した天井の下で、何本も鮮やかな海ヘビのようにクネクネと泳いでいた。

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