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第17章 四人の代表選手 4

近くでクラウチ氏を見たハリーは、病気ではないか、と思った。
目の下に黒いくま、薄っぺらな紙のような、シワシワの皮膚、こんな様子は、クィディッチ・ワールドカップのときには見られなかった。

「最初の課題は、君たちの勇気を試すものだ」
クラウチ氏は、ハリー、セドリック、フラー、クラムに向かって話した。
「ここでは、どういう内容なのかは教えないことにする。未知のものに遭遇したときの勇気は、魔法使いにとって非常に重要な資質である……非常に重要だ……。
最初の競技は、11月24日、全生徒、ならびに審査員の前で行われる。
選手は、競技の課題を完遂するにあたり、どのような形であれ、先生方からの援助を頼むことも、受けることも許されない。選手は、杖だけを武器として、最初の課題に立ち向かう。第一の課題が終了の後、第二の課題についての情報が与えられる。試合は過酷で、また時間のかかるものであるため、選手は期末テストを免除される」
クラウチ氏はダンブルドアを見て言った。
「アルバス。これで全部だと思うが?」
「わしもそう思う」
ダンブルドアはクラウチ氏をやや気遣わしげに見ながら言った。

「バーティ、さっきも言うたが、今夜はホグワーツに泊まっていったほうがよいのではないかの?」
「いや、ダンブルドア、私は役所に戻らなければならない」
クラウチ氏が答えた。
「いまは、非常に忙しいし、極めて難しいときで……若手のウェーザービーに任せて出てきたのだが……非常に熱心で……実を言えば、熱心すぎるところがどうも……」
「せめて軽く一杯飲んでから出かけることにしたらどうじゃ?」ダンブルドアが言った。
「さ、そうしろよ。バーティ。わたしは泊まるんだ!」
バグマンが陽気に言った。
「いまや、すべてのことがホグワーツで起こっているんだぞ。役所よりこっちのほうがどんなにおもしろいか!」
「いや、ルード」クラウチ氏は本来のイライラ振りをチラリと見せた。
「カルカロフ校長、マダム・マクシーム__寝る前の一杯はいかがかな?」
ダンブルドアが誘った。

しかし、マダム・マクシームは、もうフラーの肩を抱き、素早く部屋から連れ出すところだった。
ハリーは、二人が大広間に向かいながら、早口のフランス語で話しているのを聞いた。
カルカロフはクラムに合図し、こちらは黙りこくって、やはり部屋を出ていった。

「ハリー、セドリック。二人とも寮に戻って寝るがよい」
ダンブルドアが微笑みながら言った。
「グリフィンドールもハッフルパフも、君たちと一緒に祝いたくて待っておるじゃろう。せっかくドンチャン騒ぎをする格好の口実があるのに、ダメにしてはもったいないじゃろう」
ハリーはセドリックをチラリと見た。
セドリックが頷き、二人は一緒に部屋を出た。

大広間はもうだれもいなかった。
蝋燭が燃えて短くなり、くり抜きかぼちゃのニッと笑ったギザギザの歯を、不気味にチロチロと光らせていた。
「それじゃ」
セドリックがちょっと微笑みながら言った。
「僕たち、またお互いに戦うわけだ!」
「そうだね」
ハリーはほかになんと言っていいのか、思いつかなかった。
だれかに頭の中を引っ掻き回されたかのように、ゴチャゴチャしていた。

「じゃ……教えてくれよ……」
玄関ホールに出たとき、セドリックが言った。「炎のゴブレット」が取り去られたあとのホールを、松明の明りだけが照らしていた。
いったい、どうやって、名前を入れたんだい?」
「入れてない」ハリーはセドリックを見上げた。
「僕、入れてないんだ。僕、ほんとうのことを言ってたんだよ」
「フーン……そうか」
ハリーにはセドリックが信じていないことがわかった。
「それじゃ……またね」とセドリックが言った。

大理石の階段を上らず、セドリックは右側のドアに向かった。
ハリーはその場に立ちつくし、セドリックがドアのむこうの石段を下りる音を聞いてから、ノロノロと大理石の階段を上りはじめた。

ロンとハーマイオニーは別として、ほかにだれがハリーの言うことを信じてくれるだろうか?
それとも、みんな、ハリーが自分で試合に立候補したと思うだろうか?
しかし、どうしてみんな、そんなふうに考えられるんだろう?
ほかの選手はみんなハリーより三年も多く魔法教育を受けているというのに__取り組む課題は、非常に危険そうだし、しかも何百人という目が見ている中でやり遂げなければならないというのに?
そう、ハリーは競技することを頭では考えた……いろいろ想像して夢を見た……しかし、そんな夢は、冗談だし、叶わぬ無駄な夢だった……ほんとうに、真剣に立候補しようなど、ハリーは一度も考えなかった……。

それなのに、だれかがそれを考えた……だれかほかの者が、ハリーを試合に出したかった。
そしてハリーがまちがいなく競技に参加するように計らった。
なぜなんだ?
褒美でもくれるつもりだったのか?
そうじゃない。
ハリーにはなぜかそれがわかる……。
ハリーのぶざまな姿を見るために?
そう、それなら、望みは叶う可能性がある。

しかし、ハリーを殺すためだって?
ムーディのいつもの被害妄想に過ぎないのだろうか?
ほんの冗談で、だれかがゴブレットにハリーの名前を入れたということはないのだろうか?
ハリーが死ぬことを、だれかが本気で願ったのだろうか?

答えはすぐに出た。
そう、だれかがハリーの死を願った。
ハリーが一歳のときからずっとそれを願っている誰かが……ヴォルデモート卿だ。
しかし、どうやってまんまとハリーの名前を「炎のゴブレット」に忍び込ませるように仕組んだのだろう?
ヴォルデモートはどこか遠いところに、遠い国に、一人でひそんでいるはずなのに……弱り果て、力尽きて……。

しかし、あの夢、傷痕が疼いて目が覚める直前の、あの夢の中では、ヴォルデモートは一人ではなかった……ワームテールに話していた……ハリーを殺す計画を……。

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