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第18章 杖調べ 5

ファーナンキュラス!鼻呪い!
ハリーが叫んだ。
デンソージオ!歯呪い!
マルフォイも叫んだ。

二人の杖から飛び出した光が、空中でぶつかり、折れ曲がって跳ね返った__ハリーの光線はゴイルの顔を直撃し、マルフォイのはハーマイオニーに命中した。
ゴイルは両手で鼻を覆って喚いた。
醜い大きなできものが、鼻にボツボツ盛り上がりつつあった__ハーマイオニーはぴったり口を押えて、オロオロ声をあげていた。

「ハーマイオニー!」
いったいどうしたのかと、ロンが心配して飛び出してきた。

ハリーが振り返ると、ロンがハーマイオニーの手を引っ張って、顔から離したところだった。
見たくない光景だった。
ハーマイオニーの前歯が__もともと平均より大きかったが__いまや驚くほどの勢いで成長していた。
歯が伸びるにつれて、ハーマイオニーはビーバーそっくりになってきた。
下唇より長くなり、下顎に迫り__ハーマイオニーは慌てふためいて、歯を触り、驚いて叫び声をあげた。

「この騒ぎは何事だ?」
低い、冷え冷えとした声がした。
スネイプの到着だ。
スリザリン生が口々に説明しだした。
スネイプは長い黄色い指をマルフォイに向けて言った。
「説明したまえ」
「先生、ポッターが僕を襲ったんです__」
「僕たち同時にお互いを攻撃したんです!」
ハリーが叫んだ。
「__ポッターがゴイルをやったんです__見てください__」
スネイプはゴイルの顔を調べた。
いまや、毒キノコの本に載ったらぴったりするだろうと思うような顔になっていた。
「医務室へ。ゴイル」
スネイプが落ち着きはらって言った。
「マルフォイがハーマイオニーをやったんです!」ロンが言った。「見てください!
歯を見せるようにと、ロンが無理やりハーマイオニーをスネイプのほうに向かせた__ハーマイオニーは両手で歯を隠そうと懸命になっていたが、もう喉元過ぎるほど伸びて、隠すのは難しかった。
パンジー・パーキンソンも、仲間の女の子たちも、スネイプの陰に隠れてハーマイオニーを指差し、クスクス笑いの声が漏れないよう、身を捩っていた。

スネイプはハーマイオニーに冷たい目を向けて言った。
「いつもと変わりない」
ハーマイオニーは泣き声を漏らした。
そして目に涙をいっぱい浮かべ、くるりと背を向けて走り出した。
廊下のむこう端まで駆け抜け、ハーマイオニーは姿を消した。

ハリーとロンが同時にスネイプに向かって叫んだ。
同時だったのが、たぶん幸運だった。
二人の声が石の廊下に大きく木霊したのも幸運だった。
ガンガンという騒音で、二人がスネイプを何呼ばわりしたのか、はっきり聞きとれなかったはずだ。
それでも、スネイプにはだいたいの意味がわかったらしい。
「さよう」
スネイプが最高の猫撫で声で言った。
「グリフィンドール、五十点減点。ポッターとウィーズリーはそれぞれ居残り罰だ。さあ、教室に入りたまえ。さもないと一週間居残り罰を与えるぞ」

ハリーはジンジン耳鳴りがした。
あまりの理不尽さに、ハリーはスネイプに呪いをかけて、ベトベトの千切りにしてやりたかった。
スネイプの脇を通り抜け、ハリーはロンと一緒に地下牢教室の一番後ろに行き、カバンをバンと机に叩きつけた。
ロンも怒りでワナワナ震えていた__一瞬、二人の仲がすべて元通りになったように感じられた。
しかし、ロンはプイとそっぽを向き、ハリー一人を机に残して、ディーンやシェーマスと一緒に座った。
地下牢教室のむこう側で、マルフォイがスネイプに背中を向け、ニヤニヤしながら胸のバッジを押した。
汚いぞ、ポッター」の文字が、再び教室のむこうで点滅した。

授業が始まると、ハリーは、スネイプを恐ろしい目に遭わせることを想像しながら、じっとスネイプを睨みつけていた……「はりつけの呪文」が使えさえしたらなあ……あのクモのように、スネイプを仰向けにひっくり返し、七転八倒させてやるのに……。

「解毒剤!」
スネイプがクラス全員を見渡した。
黒く冷たい目が、不快げに光っている。
「材料の準備はもう全員できているはずだな。それを注意深く煎じるのだ。それから、だれか実験台になる者を選ぶ……」
スネイプの目がハリーをとらえた。
ハリーには先が読めた。
スネイプは僕に毒を飲ませるつもりだ。
頭の中で、ハリーは想像した__自分の鍋を抱え上げ、猛スピードで教室の一番前まで走ってしき、スネイプのギトギト頭をガツンと打つ__。

すると、そのとき、ハリーの想像の中に、地下牢教室のドアをノックする音が飛び込んできた。

コリン・クリービーだった。
ハリーに笑いかけながらソロソロと教室に入ってきたコリンは、一番前にあるスネイプの机まで歩いていった。
「なんだ?」
スネイプがぶっきらぼうに言った。
「先生、僕、ハリー・ポッターを上に連れてくるように言われました」
スネイプは鉤鼻の上からズイッとコリンを見下ろした。
使命に燃えたコリンの顔から笑いが吹き飛んだ。

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