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第19章 ハンガリー・ホーンテール 3

「三本の箒」は混み合っていた。
土曜の午後の自由行動を楽しんでいるホグワーツの生徒が多かったが、ハリーがほかでは滅多に見かけたことがないさまざまな魔法族もいた。
ホグズミードは、イギリスで唯一の魔法ずくめの村なので、魔法使いのようにうまく変装できない鬼婆などにとっては、ここがちょっとした安息所なのだろう、とハリーは思った。

「透明マント」を着て混雑の中を動くのは、とても難しかった。
うっかりだれかの足を踏みつけたりすれば、とてもややこしいことになりそうだ。
ハーマイオニーが飲み物を買いにいっている間、ハリーは隅の空いてるテーブルへソロソロと近づいた。
パブの中を移動する途中、フレッド、ジョージ、リー・ジョーダンと一緒に座っているロンを見かけた。
ロンの頭を、後ろから思いっきり小突いてやりたい、という気持を抑え、ハリーはやっとテーブルに辿り着いて腰かけた。

ハーマイオニーが、そのすぐあとからやってきて、「透明マント」の下から、バタービールを滑り込ませた。

「ここにたった一人で座ってるなんて、私、すごくまぬけに見えるわ」
ハーマイオニーが呟いた。
「幸い、やることを持ってきたけど」
そして、ハーマイオニーはノートを取り出した。
S・P・E・W会員を記録してあるノートだ。
ハリーは自分とロンの名前が、とても少ない会員名簿の一番上に載っているのを見た。
ロンと二人で予言をでっち上げていたとき、ハーマイオニーがやってきて二人を会の書記と会計とに任命したのが、ずいぶん遠い昔のことのような気がした。

「ねえ、この村の人たちに、S・P・E・Wに入ってもらうように、私、やってみようかしら」
ハーマイオニーはパブを見回しながら考え深げに言った。
「そりゃ、いいや」
ハリーは冗談交じりに相槌を打ち、マントに隠れてバタービールをぐいと飲んだ。
「ハーマイオニー。いつになったらS・P・E・Wなんてやつ、諦めるんだい?」
「屋敷しもべ妖精が妥当な給料と労働条件を得たとき!」
ハーマイオニーが声を殺して言い返した。
「ねえ、そろそろ、もっと積極的な行動を取るべきじゃないかって思いはじめてるの。どうやったら学校の厨房に入れるかしら?」
「わからない。フレッドとジョージに聞けよ」
ハリーが言った。

ハーマイオニーは考えにふけって、黙り込んだ。
ハリーは、パブの客を眺めながら、バタービールを飲んだ。
みんな楽しそうで、くつろいでいた。
すぐ近くのテーブルで、アーニー・マクミランとハンナ・アボットが、蛙チョコレートのカードを交換している。
二人とも「セドリック・ディゴリーを応援しよう」バッジをマントに着けていた。
そのむこう、ドアのそばに、チョウ・チャンがレイブンクローの大勢の友達と一緒にいるのが見えた。
でも、チョウは「セドリック」バッジを着けていない……ハリーはちょっぴり元気になった……。

のんびり座り込んで、笑ったり、しゃべったり、せいぜい宿題のことしか心配しなくてもよい人たち__自分もその一人になれるなら、ほかに何を望むだろう?
自分の名前が「炎のゴブレット」から出てきていなかったら、いま、自分はどんな気持ちでここにいるだろう。
まず、「透明マント」を着ていないはずだ。
ロンは自分と一緒にいるだろう。
代表選手たちが、火曜日に、どんなに危険極まりない課題に立ち向かうのだろうと、三人で楽しく、あれこれ想像していただろう。
どんな課題だろうが、きっと待ち遠しかっただろう。
代表選手がそれをこなすのを見物するのが……スタンドの後方にぬくぬくと座って、みんなと一緒にセドリックを応援するのが……。

ほかの代表選手はどんな気持ちなんだろう。
最近セドリックを見かけると、いつもファンに取り囲まれ、神経を尖らせながらも興奮しているように見えた。
フラー・デラクールも廊下で時々チラリと姿を見たが、いつもと変わらず、フラーらしく高慢で平然としていた。
そして、クラムは、ひたすら図書館に座って本に没頭していた。

ハリーはシリウスのことを思った。
すると、胸を締めつけていた固い結び目が、少し緩むような気がした。
あと12時間と少しで、シリウスと話せる。
談話室の暖炉のそばで二人が話をするのは、今夜だった__なんにも手違いが起こらなければだが。
最近は何もかも手違いだらけだったけど……。

「見て、ハグリッドよ!」ハーマイオニーが言った。
ハグリッドの巨大なモジャモジャ頭の後頭部が__ありがたいことに、束ね髪にするのを諦めていた__人混みの上にぬっと現れた。

こんなに大きなハグリッドを、自分はどうしてすぐに見つけられなかったのだろうと、ハリーは不思議に思った。
しかし、立ち上がってよく見ると、ハグリッドが体をかがめて、ムーディ先生と話をしているのがわかった。
ハグリッドはいつものように、巨大なジョッキを前に置いていたが、ムーディは自分の携帯用酒瓶から飲んでいた。
いきな女主人のマダム・ロスメルタは、これが気に入らないようだった。
ハグリッドたちの周囲のテーブルから、空いたグラスを片づけながら、ムーディを胡散臭そうに見ていた。
たぶん、自家製の蜂蜜酒が侮辱されたと思ったのだろう。
しかし、ハリーはわけを知っていた。
「闇の魔術に対する防衛術」の最近の授業で、闇の魔法使いは、だれも見ていないときにやすやすとコップに毒を盛るので、いつも食べ物、飲み物を自分で用意するようにしていると、ムーディが生徒に話したのだ。

ハリーが見ていると、ハグリッドとムーディは立ち上がって出ていきかけた。
ハリーは手を振ったが、ハグリッドには見えないのだと気づいた。
しかし、ムーディが立ち止まり、ハリーが立っている隅のほうに「魔法の目」を向けた。
ムーディは、ハグリッドの背中をチョンチョンと叩き(ハグリッドの肩には手が届かない)、何事か囁いた。
それから二人は引き返して、ハリーとハーマイオニーのテーブルにやってきた。

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