見出し画像

第16章 炎のゴブレット 1

「まさか!」ロンが呆然として言った。
ダームストラング一行のあとについて、ホグワーツの学生が、整列して石段を上がる途中だった。
「クラムだぜ、ハリー!ビクトール・クラム!
「ロン、落ち着きなさいよ。たかがクィディッチの選手じゃない」ハーマイオニーが言った。
たかがクィディッチの選手?
ロンは耳を疑うという顔でハーマイオニーを見た。
「ハーマイオニー__クラムは世界最高のシーカーの一人だぜ!まだ学生だなんて、考えてもみなかった!」

ホグワーツの生徒に混じり、再び玄関ホールを横切り、大広間に向かう途中、ハリーはリー・ジョーダンがクラムの頭の後ろだけでもよく見ようと、爪先立ちでピョンピョン跳び上がっているのを見た。
六年生の女子学生が数人、歩きながら夢中でポケットを探っている__「あぁ、どうしたのかしら。わたし、羽根ペンを一本も持ってないわ__」「ねえ、あの人、わたしの帽子に口紅でサインしてくれると思う?」
まったく、もう
今度は口紅のことでゴタゴタしている女の子たちを追い越しながら、ハーマイオニーがツンと言い放った。

「サインもらえるなら、僕が、もらうぞ」ロンが言った。
「ハリー、羽根ペン持っていないか?ン?」
「ない。寮のカバンの中だ」ハリーが答えた。

三人はグリフィンドールのテーブルまで歩き、腰かけた。
ロンはわざわざ入口の見えるほうに座った。
クラムやダームストラングのほかの生徒たちが、どこに座ってよいかわからないらしく、まだ入口付近にかたまっていたからだ。
ボーバトンの生徒たちは、レイブンクローのテーブルを選んで座っていた。
みんなむっつりした表情で、大広間を見回している。
中の三人が、まだ頭にスカーフやショールを巻きつけ、しっかり押さえていた。
「そこまで寒いわけないでしょ」
観察していたハーマイオニーが、イライラした。
「あの人たち、どうしてマントを持ってこなかったのかしら?」
「こっち!こっちに来て座って!」
ロンが歯を食いしばるように言った。
「こっちだ!ハーマイオニー、そこどいて。席を空けてよ__」
「どうしたの?」
「遅かった」ロンが悔しそうに言った。
ビクトール・クラムとダームストラングの生徒たちが、スリザリンのテーブルに着いていた。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルのいやに得意げな顔を、ハリーは見た。
見ているうちに、マルフォイがクラムのほうに乗り出すようにして話しかけた。

「おう、おう、やってくれ。マルフォイ。おべんちゃらベタベタ」ロンが毒づいた。
「だけど、クラムは、あいつなんかすぐお見通しだぞ……。きっといつも、みんながじゃれついてくるんだから……。あの人たち、どこに泊まると思う?僕たちの寝室に空きを作ったらどうかな、ハリー……僕のベッドをクラムにあげたっていい。僕は折り畳みベッドで寝るから」
ハーマイオニーがフンと鼻を鳴らした。
「あの人たち、ボーバトンの生徒よりずっと楽しそうだ」ハリーが言った。
ダームストラング生は分厚い毛皮を脱ぎ、興味津々で星の瞬く黒い天井を眺めていた。
何人かは金の皿やゴブレットを持ち上げては、感心したように眺め回していた。

教職員テーブルに、管理人のフィルチが椅子を追加している。
晴れの席にふさわしく、古ぼけた黴臭かびくさ燕尾服えんびふくを着込んでいた。
ダンブルドアの両脇に二席ずつ、四脚も椅子を置いたので、ハリーは驚いた。
「だけど、二人増えるだけなのに、」ハリーが言った。
「どうしてフィルチは椅子を四つも出したのかな?あとはだれが来るんだろう?」
「はぁ?」ロンは曖昧に答えた。
まだクラムに熱い視線を向けている。

全校生が大広間に入り、それぞれの寮のテーブルに着くと、教職員が入場し、一列になって上座のテーブルに進み、着席した。
列の最後はダンブルドア、カルカロフ校長、マダム・マクシームだ。
ボーバトン生は、マダムが入場するとパッと起立した。
ホグワーツ生の何人かが笑った。
しかし、ボーバトン生は平然として、マダム・マクシームがダンブルドアの左手に着席するまでは席に座らなかった。
ダンブルドアのほうは、立ったままだった。
大広間が水を打ったようになった。

「こんばんは。紳士、淑女、そしてゴーストの皆さん。そしてまた__今夜はとくに__客人の皆さん」
ダンブルドアが外国からの学生全員に向かって、ニッコリした。
「ホグワーツへのおいでを、心から歓迎いたしますぞ。本校での滞在が、快適で楽しいものになることを、わしは希望し、また確信しておる」
ボーバトンの女子学生で、まだしっかりとマフラーを頭に巻きつけたままの子が、まちがいなく嘲笑と取れる笑い声をあげた。
「あなたなんか、だれも引き止めやしないわよ!」
ハーマイオニーが、その学生を睨めつけながら呟いた。
「三校対抗試合は、この宴が終わると正式に開始される」ダンブルドアが続けた。
「さあ、それでは、大いに飲み、食い、かつくつろいでくだされ!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?