第16章 炎のゴブレット 2
ダンブルドアが着席した。
ハリーが見ていると、カルカロフ校長が、すぐに身を乗り出して、ダンブルドアと話しはじめた。
目の前の皿が、いつものように満たされた。
厨房の屋敷しもべ妖精が、今夜は無制限の大盤振る舞いにしたらしい。
目の前に、ハリーがこれまで見たことがないほどのいろいろな料理が並び、はっきり外国料理とわかるものもいくつかあった。
「あれ、なんだい?」
ロンが指差したのは、大きなキドニーステーキ・パイの横にある、貝類のシチューのようなものだった。
「ブイヤベース」ハーマイオニーが答えた。
「いま、くしゃみした?」ロンが聞いた。
「フランス語よ」ハーマイオニーが言った。
「一昨年の夏休み、フランスでこの料理を食べたの。とってもおいしいわ」
「ああ、信じましょう」
ロンが、ブラッド・ソーセージをよそいながら言った。
たかが20人、生徒が増えただけなのに、大広間はなぜかいつもよりずっと混み合っているように見えた。
たぶん、ホグワーツの黒いローブの中で、違う色の制服がパッと目に入るせいだろう。
毛皮のコートを脱いだダームストラング生は、その下に血のような真紅のローブを着ていた。
歓迎会が始まってから20分ほどたったころ、ハグリッドが、教職員テーブルの後ろのドアから横滑りで入ってきた。
テーブルの端の席にそっと座ると、ハグリッドはハリー、ロン、ハーマイオニーに手を振った。
包帯でグルグル巻きの手だ。
「ハグリッド、スクリュートは大丈夫なの?」ハリーが呼びかけた。
「ぐんぐん育っちょる」ハグリッドがうれしそうに声を返した。
「ああ、そうだろうと思った」ロンが小声で言った。
「あいつら、ついに好みの食べ物を見つけたらしいな。ほら、ハグリッドの指さ」
そのとき、だれかの声がした。
「あのでーすね、ブイヤベース食べなーいのでーすか?」
ダンブルドアの挨拶のときに笑った、あのボーバトンの女子学生だった。
やっとマフラーを取っていた。
長いシルバーブロンドの髪が、さらりと腰まで流れていた。
大きな深いブルーの瞳、真っ白できれいな歯並びだ。
ロンは真っ赤になった。
美少女の顔をじっと見つめ、口を開いたものの、わずかにゼイゼイと喘ぐ音が出てくるだけだった。
「ああ、どうぞ」ハリーが美少女のほうに皿を押しやった。
「もう食べ終わりまーしたでーすか?」
「ええ」ロンが息も絶え絶えに答えた。「ええ。おいしかったです」
美少女は皿を持ち上げ、こぼさないようにレイブンクローのテーブルに運んでいった。
ロンは、これまで女の子を見たことがないかのように、穴のあくほど美少女を見つめ続けていた。
ハリーが笑いだした。
その声でロンははっと我にかえったようだった。
「あの女、ヴィーラだ!」ロンはかすれた声でハリーに言った。
「いいえ、違います!」ハーマイオニーがバシッと言った。
「マヌケ顔で、ポカンと口を開けて見とれてる人は、ほかにだれもいません!」
しかし、ハーマイオニーの見方は必ずしも当たっていなかった。
美少女が大広間を横切る間、たくさんの男の子が振り向いたし、何人かは、ロンと同じように、一時的に口がきけなくなったようだった。
「まちがいない!あれは普通の女の子じゃない!」
ロンは体を横に倒して、美少女をよく見ようとした。
「ホグワーツじゃ、ああいう女の子は作れない!」
「ホグワーツだって、女の子はちゃんと作れるよ」
ハリーは反射的にそう言った。
シルバーブロンドの美少女から数席離れたところに、たまたまチョウ・チャンが座っていた。
「お二人さん、お目々がお戻りになりましたら」
ハーマイオニーがキビキビ言った。
「たったいまだれが到着したか、見えますわよ」
ハーマイオニーは教職員テーブルを指差していた。
空いていた二席が塞がっている。
ルード・バグマンがカルカロフ校長の隣に、パーシーの上司のクラウチ氏がマダム・マクシームの隣に座っていた。
「いったい何しにきたのかな?」ハリーは驚いた。
「三校対抗試合を組織したのは、あの二人じゃない?」ハーマイオニーが言った。
「始まるのを見たかったんだと思うわ」
次のコースがさらに現われた。
なじみのないデザートがたくさんある。
ロンはなんだか得体の知れない淡い色のブラマンジェをしげしげ眺め、それをソロソロと数センチくらい自分の右側に移動させ、レイブンクローのテーブルからよく見えるようにした。
しかし、ヴィーラらしき美少女は、もう十分食べたという感じで、ブラマンジェを取りにこようとはしなかった。
金の皿が再びピカピカになると、ダンブルドアが立ち上がった。
心地よい緊張感が、いましも大広間を満たした。
何が起こるかと、ハリーは興奮でゾクゾクした。
ハリーの席から数席むこうでフレッドとジョージが身を乗り出し、全神経を集中してダンブルドアを見つめている。
「時は来た」
ダンブルドアが、いっせいに自分を見上げている顔、顔、顔に笑いかけた。
「三大魔法学校対抗試合はまさに始まろうとしておる。『箱』を持ってこさせる前に、二言三言説明しておこうかの__」
「箱って?」ハリーが呟いた。
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