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第15章 アラゴグ 1

夏は知らぬ間に城の周りに広がっていた。空も湖も、抜けるような明るいブルーに変わり、キャベツほどもある花々が、温室で咲き乱れていた。しかし、ハグリッドがファングを従えて、校庭を大股で歩き回る姿が窓の外に見えないと、ハリーにとっては、どこか気の抜けた風景に見えた。城の外も変だったが、城の中は何もかもがめちゃめちゃにおかしくなっていた。

ハリーとロンはハーマイオニーの見舞いに行こうとしたが、医務室は面会謝絶になっていた。
「危ないことはもう一切できません」
マダム・ポンフリーは、医務室のドアの割れ目から二人に厳しく言った。
「せっかくだけど、ダメです。患者の息の根を止めに、また襲ってくる可能性が十分あります…」
ダンブルドアがいなくなったことで、恐怖感がこれまでになく広がった。陽射しが城壁を暖めても、窓のさんが太陽を遮っているかのようだった。誰も彼もが、心配そうな緊張した顔をしていた。笑い声は、廊下に不自然に甲高く響き渡るので、たちまち押し殺されてしまうのだった。

ハリーはダンブルドアの残した言葉を幾度も反芻していた。
わしがほんとうにこの学校を離れるのは、わしに忠実な者が、ここに一人もいなくなったときだけじゃ…。ホグワーツでは助けを求める者には必ずそれが与えられる

しかし、この言葉がどれだけ役に立つのだろう?みんながハリーやロンと同じように混乱して怖がっているときに、いったい二人は、誰に助けを求めればいいのだろう?

ハグリッドのクモのヒントの方が、ずっとわかりやすかった__問題は、跡をつけようにも、城には一匹もクモが残っていないようなのだ。ハリーはロンに__嫌々ながら__手伝ってもらい、行く先々でくまなく探した。もっとも、自分勝手に歩き回ることは許されず、他のグリフィンドール生と一緒に行動することになっているのも、二人にとっては面倒だった。他のほとんどのグリフィンドール生は、先生に引率されて、教室から教室へと移動するのを喜んでいたが、ハリーは、いいかげんうんざりだった。

たった一人だけ、恐怖と猜疑心を思いきり楽しんでいる者がいた。ドラコ・マルフォイだ。首席になったかのように、肩をそびやかして学校中を歩いていた。いったいマルフォイは、何がそんなに楽しいのか、ダンブルドアとハグリッドがいなくなってから、二週間ほどたったあとの魔法薬の授業で、ハリーは初めてわかった。マルフォイのすぐ後ろに座っていたので、クラッブとゴイルにマルフォイが満足げに話すのが聞こえてきたのだ。
「父上こそがダンブルドアを追い出す人だろうと、僕はずっとそう思っていた」マルフォイは声をひそめようともせず話していた。「おまえたちに言って聞かせたろう。父上は、ダンブルドアがこの学校始まって以来の最悪の校長だと思ってるって。たぶん今度はもっと適切な校長が来るだろう。『秘密の部屋』を閉じたりすることを望まない誰かが。マクゴナガルは長くは続かない。単なる穴埋めだから…」
スネイプがハリーのそばをサッと通り過ぎた。ハーマイオニーの席も、大鍋も空っぽなのに何も言わない。
「先生」マルフォイが大声で呼び止めた。「先生が校長職に志願なさってはいかがですか?」
「これこれ、マルフォイ」スネイプは、薄い唇がほころぶのを押さえきれなかった。
「ダンブルドア先生は、理事たちに停職させられただけだ。我輩は、間もなく復職なさると思う」
「さぁ、どうでしょうね」マルフォイはニンマリした。
「先生が立候補なさるなら、父が指示投票すると思います。僕が、父にスネイプ先生がこの学校で最高の先生だと言いますから…」
スネイプは薄笑いしながら地下牢教室を闊歩したが、幸いなことに、シェーマス・フィネガンが大鍋に、ゲーゲー吐く真似をしていたのには気づかなかった。

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