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第18章 ドビーのごほうび 7

「ダンブルドア先生」ハリーが急いで言った。
「その日記をマルフォイさんにお返ししてもよろしいでしょうか?」
「よいとも、ハリー」ダンブルドアが静かに言った。
「ただし、急ぐがよい。宴会じゃ。忘れるでないぞ」
ハリーは日記を鷲づかみにし、部屋から飛び出した。ドビーの苦痛の悲鳴が廊下の角を曲がって遠のきつつあった。

__果たしてこの計画はうまく行くだろうか__急いでハリーは靴を脱ぎ、ドロドロに汚れたソックスの片方を脱ぎ、日記をその中に詰めた。それから暗い廊下を走った。ハリーは階段の一番上で二人に追いついた。

「マルフォイさん」ハリーは息を弾ませ、急に止まったので横滑りしながら呼びかけた。
「僕、あなたに差し上げるものがあります」
そしてハリーはプンプン臭うソックスをマルフォイ氏の手に押しつけた。
「なんだ__?」
マルフォイ氏はソックスを引きちぎるように剥ぎ取り、中の日記を取り出し、ソックスを投げ捨て、それから怒り狂って日記の残骸からハリーに目を移した。
「君もそのうち親と同じに不幸な目に遭うぞ。ハリー・ポッター」口調は柔らかだった。
「連中もお節介の愚か者だった」
マルフォイ氏は立ち去ろうとした。
「ドビー、来い。来いと言ってるのが聞こえんか!」

ドビーは動かなかった。ハリーのドロドロの汚らしいソックスを握り締め、それが貴重な宝物でもあるかのようにじっと見つめていた。
「ご主人様がドビーめにソックスを片方くださった」しもべ妖精は驚嘆して言った。
「ご主人様が、これをドビーにくださった」
「なんだと?」マルフォイ氏が吐き捨てるように言った。「今、なんと言った?」
「ドビーがソックスの片方をいただいた」信じられないという口調だった。
「ご主人様が投げてよこした。ドビーが受け取った。だからドビーは__ドビーは自由だ!」

ルシウス・マルフォイはしもべ妖精を見つめ、その場に凍りついたように立ちすくんだ。それからハリーに飛びかかった。
「小僧め、よくもわたしの召使いを!」
しかし、ドビーが叫んだ。
「ハリー・ポッターに手を出すな!」
バーンと大きな音がして、マルフォイ氏は後ろ向きに吹っ飛び、階段を一度に三段ずつ、もんどり打って転げ落ち、下の踊り場に落ちてぺしゃんこになった。怒りの形相で立ち上がり、杖を引っ張り出した。が、ドビーが長い人差し指を、脅すようにマルフォイに向けた。

「すぐ立ち去れ」ドビーがマルフォイ氏に指を突きつけるようにして、激しい口調で言った。
「ハリー・ポッターに指一本でも触れてみろ。早く立ち去れ」
ルシウス・マルフォイは従うほかなかった。いまいましそうに二人に最後の一瞥いちべつを投げ、マントをひるがえして身に巻きつけ、マルフォイ氏は急いで立ち去った。

「ハリー・ポッターがドビーを自由にしてくださった!」近くの窓から月の光が射し込み、ドビーのボールのような両眼に映った。その目でしっかりとハリーを見つめ、しもべ妖精は甲高い声で言った。
「ハリー・ポッターがドビーを解放してくださった!」
「ドビー、せめてこれぐらいしか、してあげられないけど」ハリーはニッコリした。
「ただ、もう僕の命を救おうなんて、二度としないって、約束してくれよ」
しもべ妖精の醜い茶色の顔が、急にぱっくりと割れたように見え、歯の目立つ大きな口がほころんだ。

「ドビー、一つだけ聞きたいことがあるんだ」
ドビーが震える両手で片方の靴下を履くのを見ながら、ハリーが言った。
「君は、『名前を呼んではいけないあの人』は今度のことに一切関係ないって言ったね。覚えてる?それなら__」
「あれはヒントだったのでございます」そんなことは明白だといわんばかりに、ドビーは目を見開いて言った。
「ドビーはあなたにヒントを差し上げました。闇の帝王は、名前を変える前でしたら、その名前を自由に呼んでかまわなかったわけですからね。おわかりでしょう?」
「そんなことなの…」ハリーは力なく答えた。
「じゃ、僕、行かなくちゃ。宴会があるし、友達のハーマイオニーも、もう目覚めてるはずだし…」
ドビーはハリーの胴のあたりに腕を回し、抱きしめた。
「ハリー・ポッターは、ドビーが考えていたよりずーっと偉大でした」ドビーはすすり泣きながら言った。
「さようなら、ハリー・ポッター!」
そして、最後にもう一度バチッという大きな音を残し、ドビーは消えた。


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