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第10章 狂ったブラッジャー 1

ピクシー小妖精の悲惨な事件以来、ロックハート先生は教室に生物を持ってこなくなった。そのかわり、自分の著書を拾い読みし、ときには、その中でも劇的な場面を演じて見せた。現場を再現するとき、たいていハリーを指名して自分の相手役を務めさせた。ハリーがこれまでに無理やり演じさせられた役は、「おしゃべりの呪い」を解いてもらったトランシルバニアの田舎っぺ、鼻かぜをひいた雪男、ロックハートにやっつけられてからレタスしか食べなくなった吸血鬼などだった。

今日の「闇の魔術に対する防衛術」のクラスでも、ハリーはまたもやみんなの前に引っ張り出され、狼男をやらされることになった。今日はロックハートを上機嫌にしておかなければならないという、ちゃんとした理由があった。そうでなければ、ハリーはこんな役は断るところだった。
「ハリー。大きく吼えて__そう、そう__そしてですね、信じられないかもしれないが、私は飛びかかった__こんなふうに__相手を床に叩きつけた__こうして__片手でなんとか押さえつけ__もう一方の手で杖を喉元に突きつけ__それから残った力を振り絞って非常に複雑な『異形戻しの術』をかけた__敵は哀れなうめき声をあげ__ハリー、さあうめいて__もっと高い声で__そう__毛が抜け落ち__牙は縮み__そいつはヒトの姿に戻った。簡単だが効果的だ__こうして、その村も、満月のたびに狼男に襲われる恐怖から救われ、私を永久に英雄と称えることになったわけです」
終業のベルが鳴り、ロックハートは立ち上がった。
「宿題。ワガワガの狼男が私に敗北したことについての詩を書くこと!一番よく書けた生徒にはサイン入りの『私はマジックだ』を進呈!」

みんなが教室から出て行きはじめた。ハリーは教室の一番後ろに戻り、そこで待機していたロン、ハーマイオニーと一緒になった。
「用意は?」ハリーが呟いた。
「みんないなくなるまで待つのよ」ハーマイオニーは神経をピリピリさせていた。
「いいわ…」
ハーマイオニーは紙切れを一枚しっかり握りしめ、ロックハートのデスクに近づいていった。ハリーとロンがすぐあとからついて行った。
「あの__ロックハート先生?」ハーマイオニーは口ごもった。
「わたし、あの__図書館からこの本を借りたいんです。参考に読むだけです」
ハーマイオニーは紙を差し出した。かすかに手が震えている。
「問題は、これが『禁書』の棚にあって、それで、どなたか先生にサインをいただかないといけないんです__先生の『グールお化けとのクールな散策』に出てくる、ゆっくり効く毒薬を理解するのに、きっと役に立つと思います…」
「あぁ、『グールお化けとのクールな散策』ね!」ロックハートは紙を受け取り、ハーマイオニーにニッコリと笑いかけながら言った。「私の一番のお気に入りの本と言えるかもしれない。おもしろかった?」
「はい。先生」ハーマイオニーが熱を込めて答えた。
「ほんとうにすばらしいわ。先生が最後のグールを、茶漉しで引っ掻けるやり方なんて…」
「そうね、学年の最優秀生をちょっと応援してあげても、誰も文句は言わないでしょう」
ロックハートはにこやかにそう言うと、とてつもなく大きい孔雀の羽ペンを取り出した。
「どうです。素敵でしょう?」
ロンのあきれ返った顔をどう勘違いしたか、ロックハートはそう言った。
「これは、いつもは本のサイン用なんですがね」
とてつもなく大きい丸い文字ですらすらとサインをし、ロックハートはハーマイオニーに返した。
ハーマイオニーがもたもたしながらそれを丸め、カバンに滑りこませている間、ロックハートがハリーに話しかけた。
「で、ハリー。明日はシーズン最初のクィディッチ試合だね?グリフィンドール対スリザリン。そうでしょう?君はなかなか役に立つ選手だって聞いてるよ。私もシーカーだった。ナショナル・チームに入らないかと誘いも受けたのですがね。闇の魔力を根絶することに生涯を捧げる生き方を選んだんですよ。しかし、軽い個人訓練を必要とすることがあったら、ご遠慮なくね。いつでも喜んで、私より能力の劣る選手に経験を伝授しますよ…」
ハリーは喉からあいまいな音を出し、急いでロンやハーマイオニーのあとを追った。

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