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第12章 三大魔法学校対抗試合 2

コリン・クリービーだった。ハリーをヒーローとあがめる三年生だ。
「やあ、コリン」ハリーは用心深く返事した。
「ハリー、何があると思う?当ててみて、ハリー、ね?僕の弟も新入生だ!弟のデニスも!」
「あ__よかったね」ハリーが言った。
「弟ったら、もう興奮しちゃって!」
コリンは腰かけたままピョコピョコしていて落ち着かない。
「グリフィンドールになるといいな!ねえ、そう祈っててくれる?ハリー?」
「あ__うん。いいよ」
ハリーはハーマイオニー、ロン、「ほとんど首なしニック」のほうを見た。
「兄弟って、だいたい同じ寮に入るよね?」
ハリーが聞いた。ウィーズリー兄弟が7人ともグリフィンドールに入れられたことから、そう判断したのだ。
「あら、違うわ。必ずしもそうじゃない」ハーマイオニーが言った。
「パーバティ・パチルは双子だけど、一人はレイブンクローよ。一覧双生児なんだから、一緒のところだと思うでしょ?」

ハリーは教職員テーブルを見上げた。いつもより空席が目立つような気がした。
もちろん、ハグリッドは、一年生を引率して湖を渡るのに奮闘中だろう。マクゴナガル先生はたぶん、玄関ホールの床を拭くのを指揮しているのだろう。しかし、もう一つ空席がある。だれがいないのか、ハリーは思い浮かばなかった。
「『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生はどこかしら?」
ハーマイオニーも教職員テーブルを見ていた。

「闇の魔術に対する防衛術」の先生は、三学期、つまり一年以上長く続いた例がない。ハリーが他のだれよりも好きだったルーピン先生は、去年辞職してしまった。ハリーは教職員テーブルを端から端まで眺めたが、新顔は全くいない。
「たぶん、だれも見つからなかったのよ!」ハーマイオニーが心配そうに言った。

ハリーはもう一度しっかりテーブルを見直した。「呪文学」の、ちっちゃいフリットウィック先生は、クッションを何枚も重ねた上に座っていた。
その横が「薬草学」のスプラウト先生で、バサバサの白髪頭から帽子がずり落ちかけている。
彼女が話しかけているのが「天文学」のシニストラ先生で、シニストラ先生のむこう隣は、土気色の顔、鉤鼻かぎばな、べっとりした髪、「魔法薬学」のスネイプ__ハリーがホグワーツで一番嫌いな人物だ。ハリーがスネイプを嫌っているのに負けず劣らず、スネイプもハリーを憎んでいた。去年、スネイプの鼻先(しかも大きな鼻)からシリウスを逃がすのにハリーが手を貸したことで、これ以上強くなりようがないはずのスネイプの憎しみが、ますますひどくなった__スネイプとシリウスは学生時代からの宿敵しゅくてきだったのだ。

スネイプのむこう側に空席があったが、ハリーはマクゴナガル先生の席だろうと思った。
その隣が、テーブルの真ん中で、ダンブルドア校長が座っていた。流れるような銀髪と白髭が蝋燭の明かりに輝き、堂々とした深緑色のローブには星や月の刺繍がほどこされている。
ダンブルドア校長は、すらりと長い指の先を組み、その上に顎を載せ、半月メガネの奥から天井を見上げて、何か物思いにふけっているかのようだ。
ハリーも天井を見上げた。天井は、魔法で本物の空と同じに見えるようになっているが、こんなにひどい荒れ模様の天井ははじめてだ。黒と紫の暗雲が渦巻き、外でまた雷鳴が響いたとたん、天井にの枝のような形の稲妻が走った。

「ああ、早くしてくれ」
ロンがハリーの横で呻いた。
「僕、ヒッポグリフだって食っちゃう気分」
その言葉が終わるか終わらないうちに、大広間の扉が開き、一同しんとなった。マクゴナガル先生を先頭に、一列に並んだ一年生の長い列が大広間の奥へと進んでいく。
ハリーもロンもハーマイオニーもビショ濡れだったが、一年生の様子に比べればなんでもなかった。湖をボートで渡ってきたというより、泳いできたようだった。
教職員テーブルの前に整列して、在校生のほうを向いたときには、寒さと緊張とで、全員震えていた__ただ一人を除いて。
一番小さい、薄茶色の髪の子が、厚手木綿モールスキンのオーバーにくるまっている。ハリーにはオーバーがハグリッドのものだとわかった。
オーバーがだぶだぶで、男の子は黒いフワフワの大テントをまとっているかのようだった。襟元からちょこんと飛び出した小さな顔は、興奮しきって、なんだか痛々しいほどだ。
引きつった顔で整列する一年生に混じって並びながら、その子はコリン・クリービーを見つけ、ガッツポーズをしながら、「僕、湖に落ちたんだ!」と声を出さずに口の形だけで言った。うれしくてたまらないようだった。

マクゴナガル先生が三本脚の丸椅子を一年生の前に置いて、その上に、汚らしい、ぎだらけの、ひどく古い三角帽子を置いた。
一年生がじっとそれを見つめた。ほかのみんなも見つめた。一瞬、大広間が静まり返った。
すると、帽子のツバに沿った長い破れ目が、口のように開き、帽子が歌い出した。

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