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第十章 ハロウィーン 1

次の日、ハリーとロンがまだホグワーツにいるのを見て、マルフォイは目を疑った。二人ともつかれた顔をしていたが上機嫌だった。朝になってみると、ハリーもロンも、あの三つ頭の犬に出会ったことがすばらしい冒険に思えたし、次の冒険が待ち遠しくなっていた。とりあえず、ハリーはロンに例の包みのこと、それがグリンゴッツからホグワーツに移されたのではないかということを話して聞かせた。あんな厳重な警備が必要な物っていったい何だろうと、二人はあれこれ話した。
「ものすごく大切か、ものすごく危険な物だな」とロン。
「その両方かも」とハリー。
謎の包みについては、五センチぐらいの長さのものだろうということしかわからなかったので、それ以上、推測のしようもなかった。

三頭犬と仕掛け扉の下に何が隠されているのか、ネビルもハーマイオニーも全く興味を示さなかった。ネビルにとっては、二度とあの犬に近づかないということだけが重要だった。ハーマイオニーはハリーともロンともあれから口をきかなかったが、えらそうな知ったかぶり屋に指図されないですむのは、二人にとってむしろおまけをもらったような気分だった。ハリーとロンの思いは、今や、どうやってマルフォイに仕返しするかだけだった。それから一週間ほどすると、なんと、そのチャンスが郵便とともにやってきた。

いつものようにふくろうが群れをなして大広間に飛んで来た。六羽のオオコノハズクがくわえた細長い包みがすぐにみんなの気を引いた。ハリーも興味津々で、あの大きな包みは何だろうと見ていると、驚いたことに、コノハズクはハリーの真ん前にに舞い降りて、その大きな包みを落とし、ハリーの食べていたベーコンを床にはねとばした。六羽がまだ飛び去らないうちに、もう一羽のふくろうが包みの上に手紙を落としていった。

ハリーは急いで手紙を開けた。それが正解だった。手紙にはこう書いてあった。

包みをここで開けないように
中身は新品のニンバス2000です。
あなたが箒を持ったことがわかると、みんなが欲しがるので、
気づかれないようにしなければなりません。
今夜七時、クィディッチ競技場でオリバー・ウッドが待っています。
最初の練習です。   
                М・マクゴナガル教授

手紙をロンに渡しながら、ハリーは喜びを隠しきれなかった。
「ニンバス2000だって!僕、さわったことさえないよ」 ロンはうらやましそうにうなった。

1時間目が始まる前に二人だけで箒を見ようと、急いで大広間を出たが、玄関ホールの途中で、クラッブとゴイルが寮に上がる階段の前に立ちふさがっているのに気づいた。マルフォイがハリーの包みをひったくって、中身をたしかめるようにさわった。
「箒だ」
マルフォイはねたましさと苦々しさの入りまじった顔つきで、ハリーに包みを投げ返した。
「今度こそおしまいだな、ポッター。一年生は箒を持っちゃいけないんだ」
ロンががまんしきれずに言い返した。
「ただの箒なんかじゃないぞ。なんてったって、ニンバス2000だぜ。君、家に何持ってるって言った?コメット260かい?」
ロンはハリーに向かってニヤッと笑いかけた。
「コメットって見かけは派手だけどニンバスとは格がちがうんだよ」
「君に何がわかる、ウィーズリー。柄の半分も買えないくせに。兄貴たちと一緒に小枝を一本ずつためなきゃならないくせに」
マルフォイがかみついてきた。ロンが応戦しようとしたときに、フリットウィック先生がマルフォイのひじのあたりに現れた。
「君たち、言い争いじゃないだろうね?」先生がキーキー声で言った。
「先生、ポッターのところに箒が送られてきたんですよ」マルフォイがさっそく言いつけた。
「いやー、いやー、そうらしいね」先生はハリーに笑いかけた。
「マクゴナガル先生が特別措置について話してくれたよ。ところでポッター、箒は何型かね?」
「ニンバス2000です」
マルフォイのひきつった顔を見て、笑いを必死でこらえながらハリーは答えた。
「実は、箒が持てたのはマルフォイのおかげなんです」
マルフォイの怒りと当惑をむき出しにした顔を見て、二人は笑いを押し殺しながら階段を上がった。

大理石の階段の上まで来たとき、ハリーは思うぞんぶん笑った。
「だって本当だもの。もしマルフォイがネビルの『思い出し玉』をかすめていかなかったら、僕はチームに入れなかったし…」
「それじゃ、校則を破ってごほうびをもらったと思ってるのね」
背後から怒った声がした。ハーマイオニーだった。ハリーが持っている包みを、けしからんと言わんばかりににらみつけ、階段を一段一段踏みしめて上ってくる。
「あれっ、僕たちとは口をきかないんじゃなかったの?」とハリー。
「そうだよ。今さら変えないでよ。僕たちにとっちゃありがたいんだから」とロン。
ハーマイオニーはツンとそっぽを向いて行ってしまった。

ハリーは一日中、授業に集中できなかった。 気がつくと寮のベッドの下に置いてきた箒のことを考えていたり、今夜練習することになっているクィディッチ競技場のほうに気持ちがそれてしまっていた。夕食は何を食べたのかもわからないままのみ込んで、ロンと一緒に寮にかけ戻り、ようやくニンバス2000の包みを解いた。

ベッドカバーの上に転がり出た箒を見て、ロンは「ウワー」とため息をついた。箒のことは何も知らないハリーでさえ、すばらしい箒だと思った。すらりとしてつやがあり、マホガニーの柄の先に長くまっすぐな小枝がすっきりと束ねられ、柄の先端近くに金文字で「ニンバス2000」と書かれていた。

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