見出し画像

第17章 スリザリンの継承者 9

「鳥め、どけ」突然リドルの声がした。
「そいつから離れろ。聞こえないのか。どけ!」
ハリーが頭を起こすと、リドルがハリーの杖をフォークスに向けていた。鉄砲のようなバーンという音がして、フォークスは金色と真紅の輪を描きながら、再び舞い上がった。
「不死鳥の涙…」リドルが、ハリーの腕をじっと見つめながら低い声で言った。
「そうだ…癒しの力…忘れていた…」リドルはハリーの顔をじっと見た。
「しかし、結果は同じだ。むしろこの方がいい。一対一だ。ハリー・ポッター…二人だけの勝負だ…」
リドルが杖を振り上げた。

すると、激しい羽音とともに、フォークスが頭上に舞い戻って、ハリーの膝に何かをポトリと落とした__日記だ。

ほんの一瞬、ハリーも杖を振り上げたままのリドルも、日記を見つめた。そして、何も考えず、ためらいもせず、まるで初めからそうするつもりだったかのように、ハリーはそばに落ちていたバジリスクの牙をつかみ、日記帳の真芯にズブリと突き立てた。

恐ろしい、耳をつんざくような悲鳴が長々と響いた。日記帳からインクが激流のようにほとばしり、ハリーの手の上を流れ、床を浸した。リドルは身を捩り、悶え、悲鳴をあげながらのたうち回って…消えた。

ハリーの杖が床に落ちてカタカタと音をたて、そして静寂が訪れた。インクが日記帳から浸み出し、ポタッポタッと落ち続ける音だけが静けさを破っていた。バジリスクの猛毒が、日記帳の真ん中を貫いて、ジュウジュウと焼けただれた穴を残していた。
体中を震わせ、ハリーはやっと立ち上がった。煙突飛行粉フルーパウダーで、何キロも旅をしたあとのようにクラクラしていた。ゆっくりとハリーは杖を拾い、「組分け帽子」を拾い、そして満身の力で、バジリスクの上顎を貫いていた眩い剣を引き抜いた。

「秘密の部屋」の隅の方から微かなうめき声が聞こえてきた。ジニーが動いていた。ハリーが駆け寄ると、ジニーは身を起こした。トロンとした目で、ジニーはバジリスクの巨大な死骸を見、ハリーを見、血に染まったハリーのローブに目をやった。そしてハリーの手にある日記を見た。途端にジニーは身震いして大きく息を呑んだ。それから涙がどっと溢れた。

「ハリー__あぁ、ハリー__あたし、朝食のときあなたに打ち明けようとしたの。でも、パーシーの前では、い、言えなかった。ハリー、あたしがやったの__でも、あたし__そ、そんなつもりじゃなかった。う、嘘じゃないわ__リ、リドルがやらせたの。あたしに乗り移ったの__そして__いったいどうやってあれをやっつけたの__あんなすごいものを?リドルはど、どこ?リドルが日記帳から出てきて、そのあとのことは、お、覚えていないわ__」
「もう大丈夫だよ」
ハリーは日記を持ち上げ、その真ん中の毒牙で焼かれた穴を、ジニーに見せた。
「リドルはおしまいだ。見てごらん!リドル、それにバジリスクもだ。おいで、ジニー。早くここを出よう__」
「あたし、退学になるわ!」
ハリーはさめざめと泣くジニーを、ぎこちなく支えて立ち上がらせた。
「あたし、ビ、ビルがホグワーツに入ってからずっと、この学校に入るのを楽しみにしていたのに、も、もう退学になるんだわ__パパやママが、な、なんて言うかしら?

フォークスが入口の上を浮かぶように飛んで、二人を待っていた。ハリーはジニーを促して歩かせ、死んで動かなくなったバジリスクのとぐろを乗り越え、薄暗がりに足音を響かせ、トンネルへと戻ってきた。背後で石の扉が、シューッと低い音をたてて閉じるのが聞こえた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?