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第6章 鉤爪と茶の葉 8

「さあ、急げ。早く来いや!」生徒が近づくとハグリッドが声をかけた。
「今日はみんなにいいもんがあるぞ!すごい授業だぞ!みんな来たか?よーし。ついてこいや!」

ほんの一瞬、ハリーはハグリッドが「森」に連れていくのでは、とギクリとした。ハリーは、もう一生分くらいのいやな思いを、あの森で経験した。
ハグリッドは森の縁に沿ってどんどん歩き、五分後にみんなを放牧場のようなところに連れてきた。そこには何もいなかった。

「みんあ、ここの柵の周りに集まれ!」ハグリッドが号令をかけた。
「そーだ__ちゃんと見えるようにしろよ。さーて、イッチ番先にやるこたぁ、教科書を開くこった__」
「どうやって?」ドラコ・マルフォイの冷たい気取った声だ。
「あぁ?」ハグリッドだ。
「どうやって教科書を開けばいいんです?」
マルフォイがくり返した。マルフォイは「怪物的な怪物の本」を取り出したが、紐でぐるぐる巻きに縛ってあった。
ほかの生徒も本を取り出した。ハリーのようにベルトで縛っている生徒もあれば、きっちりした袋に押し込んだり、大きなクリップで挟んでいる生徒もいた。
「だ、だーれも教科書をまだ開けなんだのか?」
ハグリッドはガックリきたようだった。
クラス全員がこっくりした。
「おまえさんたち、ぜりゃーよかったんだ」ハグリッドは、あたりまえのことなのに、とでも言いたげだった。

ハグリッドはハーマイオニーの教科書を取り上げ、本を縛りつけていたスペロテープをビリリと剥がした。本は噛みつこうとしたが、ハグリッドの巨大な親指で背表紙を一撫でされると、ブルッと震えてバタンと開き、ハグリッドの手の中でおとなしくなった。

「ああ、僕たちって、みんな、なんて愚かだったんだろう!」マルフォイが鼻先で笑った。
「撫ぜりゃーよかったんだ!どうして思いつかなかったのかねぇ!」
「お…俺はこいつらが愉快なやつらだと思ったんだが」
ハグリッドが自信なさそうにハーマイオニーに言った。
「ああ、恐ろしく愉快ですよ!」マルフォイが言った。
「僕たちの手を噛み切ろうとする本を持たせるなんて、まったくユーモアたっぷりだ!」
「黙れ、マルフォイ」
ハリーは静かに言った。ハグリッドはうなだれていた。
ハリーはハグリッドの最初の授業をなんとか成功させてやりたかった。

「えーと、そんじゃ」ハグリッドは何を言うつもりだったか忘れてしまったらしい。
「そんで…えーと、教科書はある、と。そいで…こんだぁ、魔法生物が必要だ。ウン。そんじゃ、俺が連れてくる。待っとれよ…」
ハグリッドは大股で森へと入り、姿が見えなくなった。

「まったく、この学校はどうなってるんだろうねぇ」マルフォイが声を張りあげた。
「あのウドの大木が教えるなんて、父上に申し上げたら、卒倒なさるだろうなぁ__」
「黙れ、マルフォイ」ハリーがくり返し言った。
「ポッター、気をつけろ。吸魂鬼ディメンターがお前のすぐ後ろに__」
「オォォォォォー!」
ラベンダー・ブラウンが放牧場のむこう側を指差して、甲高い声を出した。

ハリーが見たこともないような奇妙キテレツな生き物が十数頭、早足でこっちへ向かってくる。
胴体、後脚、尻尾は馬で、前脚と羽根、そして頭部は巨大な鳥のように見えた。鋼色の残忍なくちばしと、大きくギラギラしたオレンジ色の目が、わしそっくりだ。
前脚の鉤爪は十五、六センチもあろうか、見るからに殺傷力がありそうだ。それぞれ分厚い革の首輪をつけ、それをつなぐ長い鎖の端をハグリッドの大きな手が全部まとめて握っていた。
ハグリッドは怪獣の後ろから駆け足で放牧場に入ってきた。

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