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第8章 絶命日パーティ 1

十月がやってきた__校庭や城の中に湿った冷たい空気を撒き散らしながら。

校医のマダム・ポンフリーは、先生にも生徒にも急に風邪が流行しだして大忙しだった。校医特製の「元気爆発薬」はすぐに効いた。ただし、それを飲むと数時間は耳から煙を出し続けることになった。

ジニー・ウィーズリーはこのところずっと具合が悪そうだったので、パーシーに無理やりこの薬を飲まされた。燃えるような赤毛の下から煙がモクモク上がって、まるでジニーの頭が火事になったようだった。

銃弾のような大きな雨粒が、何日も続けて城の窓を打ち、湖は水かさを増し、花壇は泥の河のように流れ、ハグリッドの巨大なかぼちゃは、ちょっとした物置小屋ぐらいに大きく膨れ上がった。しかし、オリバー・ウッドの定期訓練熱は濡れも湿りもしなかった。だからこそ、ハロウィーンの数日間、ある土曜日の午後、嵐の中を、ハリーは骨までずぶ濡れになり、泥跳ねだらけになりながら、グリフィンドールの塔へと歩いていたわけだ。

雨や風のことは別にしても、今日の練習は楽しいとはいえなかった。スリザリン・チームの偵察をしてきたフレッドとジョージが、その目で、新型ニンバス2001の早さを見てきたのだ。二人の報告では、スリザリン・チームはまるで垂直離着陸ジェット機のように、空中を縦横に突っ切る七つの緑の影としか見えなかったという。

人気のない廊下をガボガボと水音を響かせながら歩いていると、ハリーは誰かが自分と同じように物思いに耽っているのに気づいた。
「ほとんど首無しニック」
グリフィンドールの塔に住むゴーストだった。ふさぎ込んで窓の外を眺めながら、ぶつぶつつぶやいている。
「…要件を満たさない…たったの一センチ、それ以下なのに…」
「やあ、ニック」ハリーが声をかけた。
「やあ、こんにちは」
ニックは不意を突かれたように振り向いた。ニックは長い巻き毛の髪に派手な羽飾りのついた帽子をかぶり、ひだ襟のついた短い上着を着ていた。襟に隠れて、見た目には、首がほとんど完全に切り落とされているのがわからない。薄い煙のようなニックの姿を通して、ハリーは外の暗い空と、激しい雨を見ることができた。
「お若いポッター君、心配事がありそうだね」ニックはそう言いながら透明の手紙を折って、上着のポケットにしまい込んだ。
「おたがいさまだね」ハリーが言った。
「いや」「ほとんど首無しニック」は優雅に手を振りながら言った。
「たいしたことではありません…本気で入会したかったのとは違いましてね…ちょっと申し込んでみようかと。しかし、どうやら私は『要件を満たさない』」
言葉は軽快だったが、ニックの顔はとても辛そうだった。
「でも、こうは思いませんか?」
ニックは急にポケットから先ほどの手紙を引っ張り出し、せきを切ったように話した。
「切れない斧で首を四十五回も切りつけられたということだけでも、『首無し狩』に参加する資格があると…」
「あー、そうだね」ハリーは当然同意しないわけにはいかなかった。
「つまり、いっぺんにすっきりとやって欲しかったのは、首がスッパリと落ちて欲しかったのは、誰でもない、この私ですよ。そうしてくれれば、どんなに痛い目をみずに、辱めを受けずにすんだことか。それなのに…」
「ほとんど首無しニック」は手紙をパッと振って開き、憤慨しながら読み上げた。

当クラブでは、首がその体と別れた者だけに狩人としての入会を許可しております。貴殿にもおわかりいただけますごとく、さもなくば『首投げ騎馬戦』や『首ポロ』といった狩スポーツに参加することは不可能であります。したがいまして、まことに遺憾ながら、貴殿は当方の要件を満たさない、とお知らせ申し上げる次第です。    敬具
        パトリック・デレニー・ポドモア卿

憤然としながら、ニックは手紙をしまい込んだ。
「たった一センチの筋と皮でつながっているだけの首ですよ。ハリー!これなら十分斬首されていると、普通ならそう考えるでしょう。しかし、なんたること、『スリッパ首無しポドモア卿』にとっては、これでも十分ではないのです」
「ほとんど首無しニック」は何度も深呼吸をし、やがて、ずっと落ち着いた調子でハリーに聞いた。
「ところで__君はどうしました?何か私にできることは?」
「ううん。ただでニンバス2001を、七本手に入れられるところをどこか知ってれば別だけど。対抗試合でスリ…」
ハリーの踝のあたりから聞こえてくる甲高いニャーニャーという泣き声で、言葉がかき消されてしまった。見下ろすと、ランプのような黄色い二つ目とばっちり目が合った。

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