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第21章 ハーマイオニーの秘密 11

「どんな人だったか見たの?」ハーマイオニーは興味津々で聞いた。「先生の一人みたいだった?」
「ううん。先生じゃなかった」
「でも、ほんとうに力のある魔法使いに違いないわ。あんなに大勢の吸魂鬼ディメンターを追い払うんですもの……守護霊パトローナスがそんなにまばゆく輝いていたのだったら、その人を照らしたんじゃないの?見えなかったの__?」
「ううん、僕、見たよ」ハリーがゆっくりと答えた。「でも……僕、きっと、思い込んだだけなんだ……混乱してたんだ……そのすぐあとで気を失ってしまったし……」
誰だと思ったの?
「僕__」
ハリーは言葉を呑み込んだ。言おうとしていることが、どんなに奇妙に聞こえるか、わかっていた。

「僕、父さんだと思った」
ハリーはハーマイオニーをチラリと見た。今度はその口が完全にあんぐり開いていた。ハーマイオニーはハリーを、驚きとも哀れみともつかない目で見つめていた。
「ハリー、あなたのお父さま__あの__お亡くなりになったのよ」ハーマイオニーが静かに言った。
「わかってるよ」ハリーが急いで言った。
「お父さまの幽霊を見たってわけ?」
「わからない……ううん……実物があるみたいだった……」
「だったら__」
「たぶん、気のせいだ。だけど……僕の見たかぎりでは……父さんみたいだった……僕、写真を持ってるんだ……」
ハーマイオニーは、ハリーが正気を失ったのではないかと心配そうに、見つめ続けていた。

「バカげてるって、わかってるよ」ハリーはきっぱりと言った。
そしてバックビークの方を見た。バックビークは虫でも探しているのか、土をほじくり返していた。しかし、ハリーはほんとうはバックビークを見ていたのではなかった。

ハリーは父親のこと、一番古くからの三人の友人のことを考えていたのだ……ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズ……今夜、四人全員が校庭にいたのだろうか?
ワームテールは死んだと、みんなが思っていたのに、今夜現れた__父さんが同じように現れるのが、そんなにありえないことだろうか?
湖のむこうに見たものは幻だったのか?あまりに遠くて、姿がはっきり見えなかった……でも、一瞬、意識を失う前に、ハリーは確信を持ったのだ……。

頭上の木の葉が、かすかに夜風にそよいだ。
月が雲の切れ目から現われては消えた。ハーマイオニーは座ったまま、「柳」の方を見て待ち続けた……。

そして、ついに、一時間以上たってから……。
「出てきたわ!」ハーマイオニーが囁いた。

二人は立ち上がった。バックビークは首を上げた。
ルーピン、ロン、ペティグリューが根元の穴から、窮屈そうに這い登って出てきた。
つぎはハーマイオニーだった……それから、気を失ったままのスネイプが、不気味に漂いながら浮かび上がってきた。
そのあとはハリーとブラックだ。全員が城に向かって歩き出した。

ハリーの鼓動が速くなった。チラリと空を見上げた。もう間もなく雲が流れ、月をあらわにする……。
「ハリー」ハーマイオニーが呟くように言った。まるでハリーの考えを見抜いたようだった。「じっとしていなきゃいけないのよ。誰かに見られてはいけないの。私たちにはどうにもできないことなんだから……」
「じゃ、またペティグリューを逃がしてやるだけなんだ……」ハリーは低い声で言った。
「暗闇で、どうやってネズミを探すっていうの?」
ハーマイオニーがピシャリと言った。
「私たちにはどうにもできないことよ!私たち、シリウスを救うために時間を戻したの。ほかのことはいっさいやっちゃいけないの!」
わかったよ!

月が雲の陰から滑り出た。
校庭のむこう側で、小さな人影が立ち止まったのが見えた。それから、二人はその陰の動きに目を止めた__。


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