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第五章 ダイアゴン横丁 1

翌朝、ハリーは早々と目を覚ました。朝の光だと気づいても、ハリーは目を固く閉じたままでいた。
「夢だったんだ」
ハリーはきっぱりと自分に言い聞かせた。
「ハグリッドっていう大男がやってきて、僕が魔法使いの学校に入るって言ったけど、あれは夢だったんだ。目を開けたら、きっといつもの物置の中にいるんだ」
その時、戸をたたく大きな音がした。
「ほら、ペチュニアおばさんが戸をたたいている」
ハリーの心は沈んだ。それでもまだ目を開けなかった。いい夢だったのに…。

トン、トン、トン。
「わかったよ。起きるよ」ハリーはもごもごと言った。
起き上がると、ハグリッドの分厚いコートがハリーの身体からすべり落ちた。小屋の中はこぼれるような陽の光だった。嵐は過ぎた。ハグリッドはペチャンコになったソファで眠っている。ふくろうが足の爪で窓ガラスをたたいていた。くちばしに新聞をくわえている。

ハリーは急いで立ち上がった。うれしくて、胸の中で風船が大きくふくらんだ。まっすぐ窓辺まで行って、窓を開け放った。ふくろうが窓からスイーッと入ってきて、新聞をハグリッドの上にポトリと落とした。ハグリッドはそれでも起きない。ふくろうはひらひらと床に舞い降り、ハグリッドのコートを激しくつつきはじめた。
「だめだよ」
ハリーがふくろうを追い払おうとすると、ふくろうは鋭いくちばしをハリー向かってカチカチいわせ、獰猛にコートを襲い続けた。
「ハグリッド、ふくろうが…」
ハリーは大声で呼んだ。
「金を払ってやれ」
ハグリッドはソファに顔を埋めたままもごもご言った。
「えっ?」
「新聞配達料だよ。ポケットの中を見てくれ」
ハグリッドのコートは、ポケットをつないで作ったみたいにポケットだらけだ…鍵束、ナメクジ駆除剤、ひもの玉、ハッカキャンディ、ティーバッグ…そしてやっと、ハリーは奇妙なコインを一つかみ引っ張りだした。
「五クヌートやってくれ」
ハグリッドの眠そうな声がした。
「クヌート?」
「小さい銅貨だよ」
ハリーは小さい銅貨を五枚数えた。ふくろうは足を差し出した。小さい革の袋がくくりつけてある。お金を入れると、ふくろうは開けっ放しになっていた窓から飛び去った。

ハグリッドは大声であくびをして起き上がり、もう一度伸びをした。
「出かけようか、ハリー。今日は忙しいぞ。ロンドンまで行って、おまえさんの入学用品をそろえんとな」
ハリーは、魔法使いのコインをいじりながらしげしげと見つめていた。そしてその瞬間、あることに気がついた。とたんに、幸福の風船が胸の中でパチンとはじけたような気持ちがした。
「あのね…ハグリッド」
「ん?」
ハグリッドはどでかいブーツをはきながら聞き返した。
「僕、お金がないんだ…それに、きのうバーノンおじさんから聞いたでしょう。僕が魔法の勉強をしに行くのにはお金は出さないって」
「そんなことは心配いらん」
ハグリッドは立ち上がって頭をボソボソかきながら言った。
「父さん母さんがおまえさんに何にも残していかんかったと思うのか?」
「でも、家が壊されて…」
「まさか!家の中に金なんぞ置いておくものか。さあ、まずは魔法使いの銀行、グリンゴッツへ行くぞ。ソーセージをお食べ。さめてもなかなかいける。…それに、おまえさんのバースデーケーキを一口、なんてのも悪くないな」
「魔法使いの世界には銀行まであるの?」
「一つだけだがな。グリンゴッツだ。小鬼が経営しとる」
こ・お・に?
ハリーは持っていた食べかけソーセージを落としてしまった。
「そうだ…だから銀行強盗なんて狂気の沙汰だ、ほんに。小鬼ともめ事を起こすべからずだよ、ハリー。何かを安全にしまっておくには、グリンゴッツが世界一安全な場所だ__。たぶんホグワーツ以外ではな。実は、ほかにもグリンゴッツに行かにゃならん用事があってな。ダンブルドアに頼まれて、ホグワーツの仕事だ」
ハグリッドは誇らしげに反り返った。
「ダンブルドア先生は大切な用事をいつも俺に任せてくださる。おまえさんを迎えに来たり、グリンゴッツから何か持ってきたり…俺を信用していなさる。な?」
「忘れものはないかな。そんじゃ、出かけるとするか」


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