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第16章 炎のゴブレット 8

「わしの見込みでは、あと一分ほどじゃの。さて、代表選手の名前が呼ばれたら、その者たちは、大広間の一番前に来るがよい。そして、教職員テーブルに沿って進み、隣の部屋に入るよう__」
ダンブルドアは教職員テーブルの後ろの扉を示した。
「__そこで、最初の指示が与えられるであろう」

ダンブルドアは杖を取り、大きく一振りした。
とたんに、くり抜きかぼちゃを残して、あとの蝋燭がすべて消え、部屋はほとんど真っ暗になった。
「炎のゴブレット」は、いまや大広間の中でひときわ明々と輝き、キラキラした青白い炎が、目に痛いほどだった。
すべての目が、見つめ、待った……何人かが、チラチラ腕時計を見ている……。

「来るぞ」
ハリーから二つ離れた席の、リー・ジョーダンが呟いた。

ゴブレットの炎が、突然また赤くなった。
火花が飛び散りはじめた。
次の瞬間、炎がメラメラと宙を舐めるように燃え上がり、炎の舌先から、焦げた羊皮紙が一枚、ハラリと落ちてきた__全員が固唾かたずを飲んだ。

ダンブルドアがその羊皮紙を捕らえ、再び青白くなった炎の明りで読もうと、腕の高さに差し上げた。
「ダームストラングの代表選手は」
力強い、はっきりした声で、ダンブルドアが読み上げた。

「ビクトール・クラム」
「そうこなくっちゃ!」
ロンが声を張りあげた。
大広間中が拍手の嵐、歓声の渦だ。
ビクトール・クラムがスリザリンのテーブルから立ち上がり、前かがみにダンブルドアのほうに歩いていくのを、ハリーは見ていた。
右に曲がり、教職員テーブルに沿って歩き、その後ろの扉から、クラムは隣の部屋へと消えた。
「ブラボー、ビクトール!」
カルカロフの声が轟いた。
拍手の音にもかかわらず、全員に聞きとれるほどの大声だった。
「わかっていたぞ。君がこうなるのは!」

拍手とおしゃべりが収まった。
いまや全員の関心は、数秒後に再び赤く燃え上がったゴブレットに集まっていた。
炎に巻き上げられるように、二枚目の羊皮紙が中から飛び出した。

「ボーバトンの代表選手は」ダンブルドアが読み上げた。
「フラー・デラクール!」
「ロン、あのひとだ!」
ハリーが叫んだ。
ヴィーラに似た美少女が優雅に立ち上がり、シルバーブロンドの豊かな髪をサッと振って後ろに流し、レイブンクローとハッフルパフのテーブルの間を滑るように進んだ。
「まあ、見てよ。みんながっかりしてるわ」
残されたボーバトン生のほうを顎で指し、騒音を縫ってハーマイオニーが言った。
「がっかり」では言い足りない、とハリーは思った。
選ばれなかった女の子が二人、ワッと泣き出し、腕に顔を埋めてしゃくり上げていた。

フラー・デラクールも隣の部屋に消えると、また沈黙が訪れた。
今度は興奮で張り詰めた沈黙が、ビシビシと肌に食い込むようだった。
次はホグワーツの代表選手だ……。

そして三度、「炎のゴブレット」が赤く燃えた。
溢れるように火花が飛び散った。
炎が空を舐めて高く燃え上がり、その舌先から、ダンブルドアが三枚目の羊皮紙を取り出した。

「ホグワーツの代表選手は」ダンブルドアが読み上げた。
「セドリック・ディゴリー!」
「ダメ!」
ロンが大声を出したが、ハリーのほかにはだれにも聞こえなかった。
隣のテーブルからの大歓声がものすごかったのだ。
ハッフルパフ生が総立ちになり、叫び、足を踏み鳴らした。
セドリックがニッコリ笑いながら、その中を通り抜け、教職員テーブルの後ろの部屋へと向かった。
セドリックへの拍手があまりに長々と続いたので、ダンブルドアが再び話し出すまでにしばらく間を置かなければならないほどだった。

「結構、結構!」
大歓声がやっと収まり、ダンブルドアがうれしそうに呼びかけた。
「さて、これで三人の代表選手が決まった。選ばれなかったボーバトン生も、ダームストラング生も含め、みんな打ち揃って、あらんかぎりの力を振り絞り、代表選手たちを応援してくれることを信じておる。選手に声援を送ることで、みんながほんとうの意味で貢献でき__」
ダンブルドアが突然言葉を切った。
何が気を散らせたのか、だれの目にも明らかだった。

「炎のゴブレット」が再び赤く燃えはじめたのだ。
火花がほとばしった。
突然空中に炎が伸び上がり、その舌先にまたしても羊皮紙を載せている。

ダンブルドアが反射的に__と見えたが__長い手を伸ばし、羊皮紙を捕らえた。
ダンブルドアはそれをかかげ、そこに書かれた名前をじっと見た。
両手で持った羊皮紙を、ダンブルドアはそれからしばらく眺めていた。
長い沈黙__大広間中の目がダンブルドアに集まっていた。

やがてダンブルドアが咳払いし、そして読み上げた__。

ハリー・ポッター

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