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第13章 マッド・アイ・ムーディ 6

「やあ、マクゴナガル先生」
ムーディはイタチをますます高く跳ね飛ばしながら、落ち着いた声で挨拶した。
「な__何をなさっているのですか?」
マクゴナガル先生は空中に跳ね上がるイタチの動きを目で追いながら聞いた。
「教育だ」ムーディが言った。
「教__ムーディ、それは生徒なのですか?
叫ぶような声とともに、マクゴナガル先生の胸から本がボロボロこぼれ落ちた。
「さよう!」とムーディ。
「そんな!」
マクゴナガル先生はそう叫ぶと、階段を駆け下りながら杖を取り出した。次の瞬間、バシッと大きな音を立てて、ドラコ・マルフォイが再び姿を現わした。
いまや顔は燃えるように紅潮し、滑らかなブロンドの髪がバラバラとその顔にかかり、床に這いつくばっている。マルフォイは引きつった顔で立ち上がった。

「ムーディ、本校では、懲罰ちょうばつに変身術を使うことは絶対ありません!」
マクゴナガル先生が困り果てたように言った。
「ダンブルドア校長がそうあなたにお話ししたはずですが?」
「そんな話をしたかもしれん、フム」
ムーディはそんなことはどうでもよいというふうに顎を掻いた。
「しかし、わしの考えでは、一発きびしいショックで__」
「ムーディ!本校では居残り罰を与えるだけです!さもなければ、規則破りの生徒が属する寮の寮監に話をします」
「それでは、そうするとしよう」
ムーディはマルフォイを嫌悪のまなざしでハッタと睨んだ。

マルフォイは痛みと屈辱で薄青い目をまだ潤ませてはいたが、ムーディを憎らしげに見上げ、何か呟いた。「父上」という言葉だけが聞き取れた。
「フン、そうかね?」
ムーディは、コツッ、コツッと木製の義足の鈍い音をホール中に響かせて二、三歩前に出ると、静かに言った。
「いいか、わしはおまえの親父殿を昔から知っているぞ……親父に言っておけ。ムーディが息子から目を離さんぞ、とな……わしがそう言ったと伝えろ……さて、おまえの寮監は、たしか、スネイプだったな?」
「そうです」マルフォイが悔しそうに言った。
「やつも古い知り合いだ」ムーディが唸るように言った。
「懐かしのスネイプ殿と口をきくチャンスをずっと待っていた……来い。さあ……」
そしてムーディはマルフォイの上腕をむんずとつかみ、地下牢へと引っ立てていった。

マクゴナガル先生は、しばらくの間、心配そうに二人の後ろ姿を見送っていたが、やがて落ちた本に向かって杖を一振りした。本は宙に浮かび上がり、先生の腕の中に戻った。

数分後にハリー、ロン、ハーマイオニーの三人がグリフィンドールのテーブルに着き、いましがた起こった出来事を話す興奮した声が四方八方から聞こえてきたとき、ロンが二人にそっと言った。

「僕に話しかけないでくれ」
「どうして?」
ハーマイオニーが驚いて聞いた。
「あれを永久に僕の記憶に焼きつけておきたいからさ」
ロンは目を閉じ、瞑想めいそうふけるかのように言った。
「ドラコ・マルフォイ。驚異の弾むケナガイタチ……」
ハリーもハーマイオニーも笑った。それからハーマイオニーはビーフシチューを三人の銘々皿めいめいざらに取り分けた。

「だけど、あれじゃ、ほんとうにマルフォイを怪我させてたかもしれないわ」
ハーマイオニーが言った。
「マクゴナガル先生が止めてくださったからよかったのよ__」
「ハーマイオニー!」
ロンがパッチリ目を開け、憤慨して言った。
「君ったら、僕の生涯最良のときを台無しにしてるぜ!」
ハーマイオニーは、つき合いきれないわというような音を立てて、またしても猛スピードで食べはじめた。
「まさか、今夜も図書館に行くんじゃないだろうね?」
ハーマイオニーを眺めながらハリーが聞いた。
「行かなきゃ」
ハーマイオニーがモゴモゴ言った。
「やること、たくさんあるもの」
「だって、言ってたじゃないか。ベクトル先生は__」
「学校の勉強じゃないの」
そう言うと、ハーマイオニーは5分もたたないうちに、皿を空っぽにして、いなくなった。

ハーマイオニーがいなくなったすぐあとに、フレッド・ウィーズリーが座った。
「ムーディ!」フレッドが言った。「なんとクールじゃないか?」
「クールを超えてるぜ」
フレッドの向かい側に座ったジョージが言った。
「超クールだ」
双子の親友、リー・ジョーダンが、ジョージの隣の席に滑り込むように腰かけながら言った。
「午後にムーディの授業があったんだ」リーがハリーとロンに話しかけた。
「どうだった?」ハリーは聞きたくてたまらなかった。
フレッド、ジョージ、リーが、たっぷりと意味ありげな目つきで顔を見合わせた。
「あんな授業は受けたことがないね」フレッドが言った。
「参った。わかってるぜ、あいつは」リーが言った。
「わかってるって、なにが?」ロンが身を乗り出した。
「現実にやるってことがなんなのか、わかってるのさ」
ジョージがもったいぶって言った。
「やるって、何を?」ハリーが聞いた。
「『闇の魔術』と戦うってことさ」フレッドが言った。
「あいつは、すべてを見てきたな」ジョージが言った。
「スッゲェぞ」リーが言った。
ロンはガバッとカバンを覗き、授業の時間割を探した。
「あの人の授業、木曜までないじゃないか!」
ロンががっかりしたような声をあげた。

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