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第18章 杖調べ 3

「おい、ほら、見ろよ。代表選手だ」
ハリーに声が聞こえるところまで来るとすぐに、マルフォイがクラッブとゴイルに話しかけた。

「サイン帳の用意はいいか?いまのうちにもらっておけよ?
もうあまり長くはないんだから……君はどのくらい持ちこたえるつもりだい?ポッター?
僕は、最初の課題が始まって十分だと賭けるね」
クラッブとゴイルがおべっか使いのバカ笑いをした。
しかし、マルフォイはそれ以上は続けられなかった。
山のように積み上げた木箱を抱え、グラグラするのをバランスを取りながら、ハグリッドが小屋から現われたからだ。
木箱の一つひとつに、でっかい「尻尾爆発しっぽばくはつスクリュート」が入っている。
それからのハグリッドの説明は、クラス中をゾッとさせた。

スクリュートが互いに殺し合うのは、エネルギーを発散しきれていないからで、解決するには生徒が一人ひとりスクリュートに引き綱をつけて、ちょっと散歩させてやるのがいいと言うのだ。
ハグリッドの提案のお陰で、完全にマルフォイの気が逸れてしまったのが、唯一の慰めだった。

「こいつに散歩?」
マルフォイは箱の一つを覗き込み、うんざりしたようにハグリッドの言葉をくり返した。
「それに、いったいどこに引き綱を結べばいいんだ?
毒針にかい?それとも爆発尻尾とか吸盤にかい?」
「真ん中あたりだ」ハグリッドが手本を見せた。
「あー__ドラゴン革の手袋をしたほうがええな。なに、まあ、用心のためだ。ハリー__こっち来て、このおっきいやつを手伝ってくれ……」
しかしハグリッドは、ほんとうは、みんなから離れたところでハリーと話をしたかったのだ。

ハグリッドはみんながスクリュートを連れて散歩に出るのを待って、ハリーのほうに向き直り、真剣な顔つきで言った。
「そんじゃ__ハリー、試合に出るんだな。対抗試合に。代表選手で」
「選手の一人だよ」
ハリーが訂正した。

ボサボサ眉の下で、コガネムシのようなハグリッドの目が、ひどく心配そうだった。
「ハリー、だれがおまえの名前を入れたのか、わかんねぇのか?」
「それじゃ、僕が入れたんじゃないって、信じてくれるんだね?」
ハグリッドへの感謝の気持ちが込み上げてくるのを、顔に出さないようにするのは難しかった。
「もちろんだ」
ハグリッドが唸るように言った。
「おまえさんが自分じゃねえって言うんだ。俺はおまえを信じる__ダンブルドアもきっとおまえを信じちょる」
いったいだれなのか、僕が知りたいよ」
ハリーは苦々しそうに言った。

二人は芝生を見渡した。
生徒たちがあっちこっちに散らばり、みんなさんざん苦労していた。
スクリュートは、いまや体長一メートルを超え、猛烈に強くなっていた。
もはや殻なし、色なしのスクリュートではなく、分厚い、灰色に輝く鎧のようなものに覆われている。
巨大なサソリと引き伸ばしたカニを掛け合わせたようなシロモノだ__しかも、どこが頭なのやら、目なのやら、いまだにわからない。
とてつもなく強くなり、とても制御できない。

「見ろや。みんな楽しそうだ。な?」
ハグリッドはうれしそうに言った。
みんなとは、きっとスクリュートのことだろうとハリーは思った。
クラスメイトのことじゃないのは確かだ。
スクリュートのどっちが頭か尻尾かわからない先端が、時々、バンと、びっくりするような音をたてて爆発した。
そうするとスクリュートは数メートル前方に飛んだ。
腹這いになって引きずられていく生徒、なんとか立ち上がろうともがく生徒は一人や二人ではなかった。

「なあ、ハリー、いってえどういうことなのかなぁ」
ハグリッドはため息をつき、心配そうな顔でハリーを見下ろした。
「代表選手か……おまえは、いろんな目に遭うなぁ、え?」
ハリーは何も言わなかった。
そう。僕にはいろんなことが起こるみたいだ……ハーマイオニーが僕と湖の周りを散歩しながら言ってたのも、だいたいそういうことだった。
ハーマイオニーに言わせると、それが原因で、ロンが僕に口をきかないんだ。

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