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第17章 猫、ネズミ、犬 5

すると、どこからともなくハーマイオニーの脚が蹴りを入れるのが見えた。
ブラックは痛さにうめきながらハリーを放した。
ロンがブラックの杖を持った腕に体当たりし、カタカタというかすかな音がハリーの耳に入った__。

もつれ合いをやっと振り解いて立ち上がると、自分の杖が床に転がっているのが見えた。ハリーは杖に飛びついた。しかし__。

「ウワーッ!」クルックシャンクスが乱闘に加わった。
前足二本の爪が全部、ハリーの腕に深々と食い込んだ。ハリーが払いのけるすきに、クルックシャンクスがすばやくハリーの杖に飛びついた。
取るな!
ハリーは大声を出し、クルックシャンクスめがけて蹴りを入れた。猫はシャーッと鳴いてわきに跳び退いた。ハリーは杖を引っつかみ、振り向いた__。

「どいてくれ!」ハリーはロンとハーマイオニーに向かって叫んだ。
いい潮時しおどきだった。ハーマイオニーは唇から血を流し、息も絶え絶えに、自分の杖とロンの杖を引ったくり、急いでわきへけた。
ロンは天蓋ベッドに這っていき、ばったり倒れて息を弾ませていた。蒼白だった顔がいまや青ざめ、折れた脚を両手でしっかり握っている。

ブラックは壁の下の方で伸びていた。やせた胸を激しく波打たせ、ブラックは、ハリーが杖をまっすぐにブラックの心臓に向けたまま、ゆっくりと近づくのを見ていた。

「ハリー、わたしを殺すのか?」ブラックがつぶやいた。
ハリーはブラックに馬乗りになるような位置で止まった。
杖をブラックの胸に向けたまま、ハリーはブラックを見下ろした。ブラックの左目の周りが黒くあざになり、鼻血を流している。
「おまえは僕の両親を殺した」ハリーの声は少し震えていたが、杖腕つえうで微動びどうだにしなかった。

ブラックは落ち窪んだ目でハリーをじっと見上げた。
「否定はしない」ブラックは静かに言った。「しかし、君がすべてを知ったら__」
「すべて?」怒りで耳の中がガンガン鳴っていた。「お前は僕の両親をヴォルデモートに売った。それだけ知ればたくさんだ!」
「聞いてくれ」ブラックの声には緊迫したものがあった。「聞かないと、君は後悔する……君にはわかっていないんだ……」
「おまえが思っているより、僕はたくさん知っているんだ」ハリーの声がますます震えた。「おまえは聞いたことがないだろう、え?僕の母さんが……ヴォルデモートが僕を殺すのを止めようとして……おまえがやったんだ……おまえが……」

どちらもつぎの言葉を言わないうちに、何かオレンジ色のものがハリーのそばをサッと通り抜けた。
クルックシャンクスがジャンプしてブラックの胸の上に陣取ったのだ。
ブラックの心臓の真上だ。ブラックは目をしばたいて猫を見下ろした。
「どけ」ブラックはそう呟くと、クルックシャンクスを払いのけようとした。
しかし、クルックシャンクスはブラックのローブに爪を立て、てこでも動かない。つぶれたような醜い顔をハリーに向け、クルックシャンクスは大きな黄色い目でハリーを見上げた。
その右の方で、ハーマイオニーが涙を流さずにしゃくり上げた。

ハリーはブラックとクルックシャンクスを見下ろし、杖をますます固く握り締めた。

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