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第17章 四人の代表選手 3

「代表選手を置いて帰ることはできまい。選手は競わなければならん。選ばれたものは全員、競わなければならんのだ。ダンブルドアも言ったように、魔法契約の拘束力だ。都合のいいことにな。え?」
ムーディが部屋に入ってきたところだった。
足を引きずって暖炉に近づき、右足を踏み出すごとに、コツッと大きな音を立てた。

「都合がいい?」
カルカロフが聞き返した。
「なんのことかわかりませんな。ムーディ」
カルカロフが、ムーディの言うことは聞くに値しないとでもいうように、わざと軽蔑した言い方をしていることが、ハリーにはわかった。
カルカロフの手が、言葉とは裏腹に、固くこぶしを握り締めていた。
「わからん?」
ムーディが低い声で言った。
「カルカロフ、簡単なことだ。ゴブレットから名前が出てくればポッターが戦わなければならぬと知っていて、だれかがポッターの名前をゴブレットに入れた」
「もちろーん、だれか、グワーツにリンゴを二口ふたくちもかじらせよーうとしたのでーす!」
「おっしゃる通りです。マダム・マクシーム」カルカロフがマダムに頭を下げた。
「わたしは抗議しますぞ。魔法省と、それから国際連盟__」
「文句を言う理由があるのは、まずポッターだろう」ムーディが唸った。
「しかし……おかしなことよ……ポッターは、一言も何も言わん……」
「なんで文句言いまーすか?」
フラー・デラクールが地団駄じだんだを踏みながら言った。
「このと、戦うチャンスがありまーす。わたしたち、みんな、何週間も、選ばれたーいと願っていました!学校の名誉かけて!賞金の一千ガリオンかけて__みんな死ぬしいチャンスでーす!」

「ポッターが死ぬことを欲したものがいるとしたら」
ムーディの低い声は、いつもの唸り声とは様子が違っていた。
息苦しい沈黙が流れた。

ルード・バグマンは、ひどく困った顔で、イライラと体を上下に揺すりながら、「おい、おい、ムーディ……何を言い出すんだ!」と言った。
「みなさんご存知のように、ムーディ先生は、朝から昼食までの間に、ご自分を殺そうとする企てを少なくとも六件は暴かないと気がすまないお方だ」
カルカロフが声を張りあげた。
「先生はいま、生徒たちにも、暗殺を恐れよと教えになっているようだ。『闇の魔術に対する防衛術』の先生になるお方としては、奇妙な資質だが、あなたには、ダンブルドア、あなたなりの理由がおありになったのでしょう」
「わしの妄想だとでも?」ムーディが唸った。
「ありもしないものを見るとでも?え?あのゴブレットにこの子の名前を入れるような魔法使いは、腕のいいやつだ……」
「おお、どんな証拠があるというのでーすか?」
マダム・マクシームが、バカなことを言わないで、とばかり、巨大な両手をパッと開いた。
「なぜなら、強力な魔力を持つゴブレットの目を眩ませたからだ!」
ムーディが言った。
「あのゴブレットをあざむき、試合には三校しか参加しないということを忘れさせるには、並外れて強力な『錯乱の呪文』をかける必要があったはずだ……わしの想像では、ポッターの名前を、四校目の候補者として入れ、四校目はポッター一人しかいないようにしたのだろう……」

「この件には随分とお考えを巡らせたようですな、ムーディ」
カルカロフが冷たく言った。
「それに、実に独創的な説ですな__しかし、聞き及ぶところでは、最近あなたは、誕生祝いのプレゼントの中に、バジリスクの卵が巧妙に仕込まれていると思い込み、粉々に砕いたとか。ところがそれは馬車用の時計だと判明したとか。これでは、我々があなたの言うことを真に受けないのも、ご理解いただけるかと……」
「何気ない機会をとらえて悪用する輩はいるものだ」
ムーディが威嚇するような声で切り返した。
「闇の魔法使いの考えそうなことを考えるのがわしの役目だ__カルカロフ、君なら身に覚えがあるだろうが……」
「アラスター!」
ダンブルドアが警告するように呼びかけた。
ハリーは一瞬、だれに呼びかけたのかわからなかった。
しかし、すぐに「マッド・アイ」がムーディの実名であるはずがないと気がついた。
ムーディは口をつぐんだが、それでも、カルカロフの様子を楽しむように眺めていた__カルカロフの顔は燃えるように赤かった。

「どのような経緯いきさつでこんな事態になったのか、我々は知らぬ」
ダンブルドアは部屋に集まった全員に話しかけた。
「しかしじゃ、結果を受け入れるほかあるまい。セドリックもハリーも試合で競うように選ばれた。したがって、試合にはこの二名の者が……」
「おお、でもダンブリー・ドール__」
「まあ、まあ、マダム・マクシーム。何かほかにお考えがおありなら、喜んで伺いますがの」
ダンブルドアは答えを待ったが、マダム・マクシームは何も言わなかった。
ただ睨むばかりだった。
マダム・マクシームだけではない。
スネイプは憤怒ふんぬ形相ぎょうそうだし、カルカロフは青筋を立てていた。
しかし、バグマンは、むしろうきうきしているようだった。

「さあ、それでは、開始といきますかな?」
バグマンはニコニコ顔で揉み手しながら、部屋を見回した。
「代表選手に指示を与えないといけませんな?バーティ、主催者としてこの役目を務めてくれるか?」
何かを考え込んでいたクラウチ氏は、急に我にかえったような顔をした。
「フム」クラウチ氏が言った「指示ですな。よろしい……最初の課題は……」

クラウチ氏は暖炉の灯りの中に進み出た。

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