第19章 ハンガリー・ホーンテール 4
「元気か、ハーマイオニー?」
ハグリッドが大声を出した。
「こんにちは」
ハーマイオニーもにっこり挨拶した。
ムーディは、片足を引きずりながらテーブルを回り込み、体をかがめた。
ハリーが、ムーディはS・P・E・Wのノートを読んでいるのだろうと思っていると、ムーディが囁いた。
「いいマントだな、ポッター」
ハリーは驚いてムーディを見つめた。
こんな近くで見ると、鼻が大きく削ぎ取られているのがますますはっきりわかった。
ムーディはニヤリとした。
「先生の目__あの、見える__?」
「ああ、わしの目は『透明マント』を見透かす」
ムーディが静かに言った。
「そして、ときには、これがなかなか役に立つぞ」
ハグリッドもにっこりとハリーのほうを見下ろしていた。
ハグリッドにはハリーが見えないことは、わかっていた。
しかし、当然、ムーディが、ハリーがここにいると教えたはずだ。
今度はハグリッドが、S・P・E・Wノートを読むふりをして、身をかがめ、ハリーにしか聞こえないような低い声で囁いた。
「ハリー、今晩、真夜中に、俺の小屋に来いや。そのマントを着てな」
身を起こすと、ハグリッドは大声で、「ハーマイオニー、おまえさんに会えてよかった」と言い、ウィンクして去っていった。
ムーディもあとについていった。
「ハグリッドったら、どうして真夜中に僕に会いたいんだろう?」
ハリーは驚いていた。
「会いたいって?」
ハーマイオニーもびっくりした。
「いったい、何を考えているのかしら?ハリー、行かないほうがいいかもよ……」
ハーマイオニーは神経質に周りを見回し、声を殺して言った。
「シリウスとの約束に遅れちゃうかもしれない」
たしかに、ハグリッドのところに真夜中に行けば、シリウスと会う時間にぎりぎりになってしまう。
ハーマイオニーは、ヘドウィグを送ってハグリッドに行けないと伝えてはどうかと言った__もちろん、ヘドウィグがメモを届けることを承知してくれればの話だが__しかし、ハグリッドの用事がなんであり、ハリーは急いで会ってくるほうがよいように思った。
ハグリッドがハリーに、そんなに夜遅く来るように頼むなんて、はじめてのことだった。
いったいなんなのか、ハリーはとても知りたかった。
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その晩、早めにベッドに入るふりをしたハリーは、11時半になると、「透明マント」を被り、こっそりと談話室に戻った。
寮生がまだたくさん残っていた。
クリービー兄弟は「セドリックを応援しよう」バッジを首尾よくごっそり手に入れ、魔法をかけて「ハリー・ポッターを応援しよう」に変えようとしていた。
しかし、これまでのところ、「汚いぞ、ポッター」で文字の動きを止めるのが精一杯だった。
ハリーはそっと二人のそばを通り抜け、肖像画の穴のところで時計を見ながら、一分くらい待った。
すると、計画どおり、ハーマイオニーが外から「太った婦人」を開けてくれた。
ハーマイオニーとすれ違いざま、ハリーは「ありがと!」と囁き、城の中を通り抜けていった。
校庭は真っ暗だった。
ハリーはハグリッドの小屋に輝く明かりを目指して芝生を歩いた。
ボーバトンの巨大な馬車も明りがついていた。
ハグリッドの小屋の戸をノックしたとき、ハリーはマダム・マクシームが馬車の中で話している声を聞いた。
「ハリー、おまえさんか?」
戸を開けてキョロキョロしながら、ハグリッドが声をひそめて言った。
「うん」
ハリーは小屋の中に滑り込み、マントを引っ張って頭から脱いだ。
「なんなの?」
「ちょっくら見せるものがあってな」
ハグリッドが言った。
ハグリッドはなんだかひどく興奮していた。
服のボタン穴に育ちすぎたアーティチョークのような花を挿している。
車軸用のグリースを髪につけることは諦めたらしいが、まちがいなく髪を梳ろうとしたらしい__欠けた櫛の歯が髪に絡まっているのを、ハリーは見てしまった。
「何を見せたいの?」
ハリーはスクリュートが卵を産んだのか、それともハグリッドがパブで知らない人から、また三頭犬を買ったのかと、いろいろ想像して恐々聞いた。
「一緒に来いや。黙って、マントを被ったまんまでな」
ハグリッドが言った。
「ファングは連れていかねえ。こいつが喜ぶようなもんじゃねえし……」
「ねえ、ハグリッド、僕、あまりゆっくりできないよ……午前一時までに城に帰っていないといけないんだ__」
しかし、ハグリッドは、聞いていなかった。
小屋の戸を開けてずんずん暗闇の中に出ていった。
ハリーは急いであとを追ったが、ハグリッドがハリーをボーバトンの馬車のほうに連れていくのに気づいて驚いた。
「ハグリッド、いったい__?」
「シーッ!」
ハグリッドはハリーを黙らせ、金色の杖が交差した紋章のついた扉を三度ノックした。
マダム・マクシームが扉を開けた。
シルクのショールを堂々たる肩に巻きつけている。
ハグリッドを見て、マダムはにっこりした。
「ああ、アグリッド……時間でーす?」
「ボング・スーワー」
ハグリッドがマダムに向かって笑いかけ、マダムが金色の踏み台を降りるのに手を差し伸べた。
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