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第19章 ハンガリー・ホーンテール 2

ハーマイオニーは、二人のことで腹を立てていた。
二人の間を往ったり来たりして、なんとか互いに話をさせようと努めたが、ハリーも頑固だった。
ハリー自身が「炎のゴブレット」に名前をいれたわけではないとロンが認めたなら、そして、ハリーを嘘つき呼ばわりしたことを謝るなら、またロンと話をしてもいい。

「僕から始めたわけじゃない」
ハリーは頑なに言い張った。
「あいつの問題だ」
「ロンがいなくてさびしいくせに!」
ハーマイオニーがイライラと言った。
「それに、私にはわかってる。ロンもさびしいのよ__」
「ロンがいなくてさびしいくせに?」
ハリーが繰り返した。
ロンがいなくてさびしいなんてことは、ない……」

真っ赤な嘘だった。
ハーマイオニーは大好きだったが、ロンとは違う。
ハーマイオニーと親しくても、ロンと一緒のときほど笑うことはないし、図書館にウロウロする時間が多くなる。
ハリーはまだ「呼び寄せ呪文」を習得していなかった。
ハリーの中で、何かがストップをかけているようだった。
ハーマイオニーは、理論を学べば役に立つと主張した。
そこで、二人は昼休みを、本に没頭して過ごすことが多かった。

ビクトール・クラムも、しょっちゅう図書館に入り浸っていた。
いったい何をしているのか、ハリーはいぶかった。
勉強しているのだろうか?
それとも、第一の課題をこなすのに役立ちそうなものを探しているのだろうか?
ハーマイオニーはクラムが図書館にいることで、しばしば文句を言った__なにもクラムが二人の邪魔をしたわけではない。
しかし、女子学生のグループがしょっちゅうやってきて、忍び笑いをしながら、本棚の陰からクラムの様子を窺っていた。
ハーマイオニーはその物音で気が散るというのだ。

「あの人、ハンサムでもなんでもないじゃない!」
クラムの険しい横顔を睨みつけて、ハーマイオニーがプリプリしながら呟いた。
「みんなが夢中なのは、あの人が有名だからよ!ウォンキー・フェイントとかなんとかいうのができない人だったら、みんな見向きもしないのに__」
「ウロンスキー・フェイント」
ハリーは唇を噛んだ。
クィディッチ用語を正しく使いたいのも確かだが、それとは別に、ハーマイオニーがウォンキー・フェイントというのを聞いたら、ロンがどんな顔をするかと思うと、また胸がキュンと痛んだのだ。

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不思議なことに、何かを恐れて、なんとかして時の動きを遅らせたいと思うときにかぎって、時は容赦なく動きを速める。
第一の課題までの日々が、だれかが時計に細工をして、二倍の速さにしたかのように流れ去っていった。
抑えようのない恐怖感が、「日刊予言者新聞」の記事に対する意地の悪い野次と同じように、ハリーの行くところどこにでもついてきた。

第一の課題が行われる週の前の土曜日、三年生以上の生徒は全員、ホグズミード行きを許可された。
ハーマイオニーは、ちょっと城から出たほうが気晴らしになると勧めた。
ハリーも勧められるまでもなかった。

「ロンのことはどうする気?」
ハリーが聞いた。
「ロンと一緒に行きたくないの?」
「ああ……そのこと……」
ハーマイオニーはちょっと赤くなった。
「『三本の箒』で、あなたと私が、ロンに会うようにしたらどうかと思って……」
「いやだ」
ハリーがにべもなく言った。
「まあ、ハリー、そんなバカみたいな__」
「僕、行くよ。でもロンと会うのはごめんだ。僕、『透明マント』を着ていく」
「そう、それならそれでいいけど……」
ハーマイオニーはくどくは言わなかった。
「だけど、マントを着てるときにあなたに話しかけるのは嫌いよ。あなたのほうを向いてしゃべってるのかどうか、さっぱりわからないんだもの」

そういうわけで、ハリーは寮で「透明マント」を被り、階下に戻って、ハーマイオニーと一緒にホグズミードに出かけた。

マントの中で、ハリーはすばらしい開放感を味わった。
村に入るとき、ほかの生徒が二人を追い越したり、行き違ったりするのを、ハリーは観察できた。
ほとんどが「セドリック・ディゴリーを応援しよう」のバッジを着けていたが、いつもと違って、ハリーにひどい言葉を浴びせる者も、あのバカな記事に触れる生徒もいなかった。

「今度はみんな、私をチラチラ見てるわ」
クリームたっぷりの大きなチョコレートを頬張りながら「ハニーデュークス菓子店」から出てきたハーマイオニーが、不機嫌に言った。
「みんな、私が独り言を言ってると思ってるのよ」
「それなら、そんなに唇を動かさないようにすればいいじゃないか」
あのねえ、ちょっと『マント』を脱いでよ。ここならだれもあなたにかまったりしないわ」
「そうかな?」
ハリーが言った。
「後ろを見てごらんよ」

リータ・スキーターと、その友人のカメラマンが、パブ「三本の箒」から現われたところだった。
二人は、ヒソヒソ声で話ながら、ハーマイオニーのほうを見もせずにそばを通り過ぎた。
ハリーは、リータ・スキーターのワニ革ハンドバッグでたれそうになり、後退りしてハニーデュークスの壁に張りついた。

二人の姿が見えなくなってから、ハリーが言った。
「あの人、この村に泊ってるんだ。第一の課題を見にきたのに違いない」
そう言ったとたん、ドロドロに溶けた恐怖感が、ハリーの胃にドッと溢れた。
ハリーはそのことを口には出さなかった。
ハリーもハーマイオニーも、第一の課題が何なのか、これまであまり話題にしなかった。
ハーマイオニーもそのことを考えたくないのだろうと、ハリーはそんな気がしていた。

「行っちゃったわ」
ハーマイオニーの視線はハリーの体を通り抜けて、ハイストリート通りのむこう端を見ていた。
「『三本の箒』に入って、バタービールを飲みましょうよ。ちょっと寒くない?……ロンには話しかけなくてもいいわよ!」
ハリーが返事をしないわけを、ハーマイオニーは、ちゃんと察して、イライラした口調でつけ加えた。


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