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第18章 杖調べ 9

ハリーは立ち上がって、クラムと入れ違いにオリバンダー翁に近づき、杖を渡した。
「おぉぉぉー、そうじゃ」
オリバンダー翁の淡い目が急に輝いた。
「そう、そう、そう。よーく覚えておる」
ハリーもよく覚えていた。
まるで昨日のことのようにありありと……。

三年前の夏、11歳の誕生日に、ハグリッドと一緒に、杖を買いにオリバンダーの店に入った。
オリバンダー老人は、ハリーの寸法を採り、それから、次々と杖を渡して試させた。
店中のすべての杖を試し振りしたのではないかと思ったころ、ついにハリーに合う杖が見つかった__この杖だ。
ヒイラギ、28センチ、不死鳥の尾羽根が一枚入っている。
オリバンダー老人は、ハリーがこの杖とあまりにも相性がよいことに驚いていた。
「不思議じゃ」と、あのとき老人は呟いた。
「……不思議じゃ」と。
ハリーが、なぜ不思議なのかと問うと、オリバンダー老人は、はじめて教えてくれた。
ハリーの杖に入っている不死鳥の尾羽根も、ヴォルデモート卿の杖芯に使われている尾羽根も、まさに同じ不死鳥のものだと。

ハリーはこのことをだれにも話したことがなかった。
この杖がとても気に入っていたし、杖がヴォルデモートと繋がりがあるのは、杖自身にはどうしようもないことだ__ちょうど、ハリーがペチュニアおばさんと繋がりがあるのをどうしようもないのと同じように。
しかし、ハリーは、オリバンダー翁がそのことを、この部屋のみんなに言わないでほしいと、真剣にそう願った。
そんなことを漏らせば、リータ・スキーターの自動速記羽根ペンが、興奮で爆発するかもしれないと、ハリーは変な予感がした。

オリバンダー翁はほかの杖よりずっと長い時間かけてハリーの杖を調べた。
最後に、杖からワインをほとばしり出させ、杖はいまも完璧な状態を保っていると告げ、杖をハリーに返した。

「みんな、ごくろうじゃった」
審査員のテーブルでダンブルドアが立ち上がった。
「授業に戻ってよろしい__いや、まっすぐ夕食の席に下りてゆくほうが手っ取り早いかもしれん。そろそろ授業が終わるしの__」
今日一日の中で、やっと一つだけ順調に終わった、と思いながら、ハリーが行きかけると、黒いカメラを持った男が、飛び出してきて咳払いをした。
「写真。ダンブルドア。写真ですよ!」
バグマンが興奮して叫んだ。
「審査員と代表選手全員。リータ、どうかね?」
「えー__まあ、まずそれからいきますか」
そう言いながら、リータ・スキーターの目は、またハリーに注がれていた。
「それから、個人写真を何枚か」

写真撮影は長くかかった。
マダム・マクシームがどこに立っても、みんなその陰に入ってしまうし、カメラマンがマダムを枠の中に入れようとして後ろに下がったが、下がりきれなかった。
ついに、マダムが座り、みんながその周りに立つことになった。
カルカロフはヤギ髭をもっとカールさせようと、しょっちゅう指に巻きつけていたし、クラムは__こんなことには慣れっこだろうと、ハリーは思っていたのに__こそこそとみんなの後ろに回り、半分隠れていた。
カメラマンはフラーを正面に持ってきたくて仕方がない様子だったが、そのたびにリータ・スキーターがしゃしゃり出て、ハリーをより目立つ場所に引っ張っていった。
スキーター女史は、それから代表選手全員の個別の写真を撮ると言い張った。
そしてやっと、みんな解放された。

ハリーは夕食に下りていった。
ハーマイオニーはいなかった__きっとまだ医務室で、歯を治してもらっているのだろう、とハリーは思った。
テーブルの隅で、一人ぼっちで夕食をすませ、「呼び寄せ呪文」の宿題をやらなければと思いながら、ハリーはグリフィンドール塔に戻った。
寮の寝室で、ハリーはロンにでくわした。

「ふくろうが来てる」
ハリーが寝室に入っていくなり、ロンがぶっきらぼうに言った。
ハリーの枕を指差している。
そこに、学校のメンフクロウが待っていた。
「ああ__わかった」
ハリーが言った。
「それから、明日の夜、二人とも居残り罰だ。スネイプの地下牢教室」
ロンがつけ加えた。
ロンは、ハリーのほうを見向きもせずに、さっさと寝室を出ていった。
一瞬、ハリーはあとを追いかけようと思った__話しかけたいのか、ぶん殴りたいのか、ハリーにはわからなかった。
どっちも相当魅力的だった__しかし、シリウスの返事の魅力のほうが強すぎた。
ハリーは急いでメンフクロウのところに行き、脚から手紙を外し、クルクル広げた。

ハリー
手紙では言いたいことを何もかも言うわけにはいかない。ふくろうが途中でだれかに捕まったときの危険が大きすぎる__直接会って話をしなければ。11月22日、午前1時に、グリフィンドール寮の暖炉のそばで、君一人だけで待つようにできるかね?
君が自分一人でもちゃんとやっていけることは、わたしが一番よく知っている。それに、ダンブルドアやムーディが君のそばにいるかぎり、だれも君に危害を加えることはできないだろう。しかし、だれかが、なにか仕掛けようとしている。ゴブレットに君の名前を入れるなんて、非常に危険なことだったはずだ。とくにダンブルドアの目が光っているところでは。
ハリー、用心しなさい。何か変わったことがあったら、今後も知らせてほしい。11月22日の件は、できるだけ早く返事がほしい。
               シリウスより

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