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第17章 スリザリンの継承者 1

ハリーは細長く奥へと延びる、薄明りの部屋の端に立っていた。またしてもヘビが絡み合う彫刻を施した石の柱が、上へ上へとそびえ、暗闇に吸い込まれて見えない天井を支え、怪しい緑がかった幽明ゆうめいの中に、黒々とした影を落としていた。

早鐘のように鳴る胸を押さえ、ハリーは凍るような静けさに耳をすませていた__バジリスクは、柱の影の暗い片隅に潜んでいるのだろうか?ジニーはどこにいるのだろう?

杖を取り出し、ハリーは左右一対になった、ヘビの柱の間を前進した。一歩一歩そっと踏み出す足音が、薄暗い壁に反響した。目を細めて、わずかな動きでもあれば、すぐに閉じられるようにした。彫刻ほりもののヘビの虚ろな眼窩が、ハリーの姿をずっと追っているような気がする。一度ならず、ヘビの目がギロリと動いたような気がして、胃がざわざわした。

最後の一対の柱のところまで来ると、部屋の天井に届くほど高くそびえる石像が、壁を背に立っているのが目に入った。
巨大な石像の顔を、ハリーは首を伸ばして見上げた。年老いた猿のような顔に、細長い顎鬚あごひげが、その魔法使いの流れるような石のローブの裾のあたりまで延び、その下に灰色の巨大な足が二本、滑らかな床を踏みしめている。
そして、足の間に、燃えるような赤毛の、黒いローブの小さな姿が、うつぶせに横たわっていた。
「ジニー!」小声で叫び、ハリーはその姿のそばに駆け寄り、膝をついて名を呼んだ。
「ジニー!死んでいちゃだめだ!お願いだから生きていて!」
ハリーは杖を脇に投げ捨て、ジニーの肩をしっかりつかんで仰向けにした。ジニーの顔は大理石のように白く冷たかったし、目は固く閉じられていたが、石にされてはいなかった。しかし、それならジニーはもう…。
「ジニー、お願いだ。目を覚まして」
ハリーはジニーを揺さぶり、必死で呟いた。ジニーの頭はだらりと空しく垂れ、グラグラと揺すられるままに動いた。
「その子は目を覚ましはしない」物静かな声がした。
ハリーはぎくりとして、膝をついたまま振り返った。

背の高い、黒髪の少年が、すぐそばの柱にもたれてこちらを見ていた。まるで曇りガラスのむこうにいるかのように、輪郭が奇妙にぼやけている。しかし、まぎれもなくあの人物だ。
「トム__トム・リドル?
ハリーの顔から目を離さず、リドルは頷いた。
「目を覚まさないって、どういうこと?」ハリーは絶望的になった。
「ジニーはまさか__まさか__?」
「その子はまだ生きている。しかし、かろうじてだ」
ハリーはリドルをじっと見つめた。トム・リドルがホグワーツにいたのは五十年前だ。それなのに、リドルがそこに立っている。薄気味の悪いぼんやりした光が、その姿の周りに漂っている。十六歳のまま、一日も日がたっていないかのように。

「君はゴーストなの?」ハリーはわけがわからなかった。
「記憶だよ」リドルが静かに言った。「日記の中に、五十年間残されていた記憶だ」
リドルは、石像の巨大な足の指のあたりの床を指差した。ハリーが「嘆きのマートル」のトイレで見つけた小さな黒い日記が、開かれたまま置いてあった。一瞬、ハリーはいったいどうしてここにあるんだろうと不思議に思ったが__いや、もっ緊急にしなければならないことがある。
「トム、助けてくれないか」ハリーはジニーの頭をもう一度持ち上げながら言った。
「ここからジニーを運び出さなけりゃ。バジリスクがいるんだ…。どこにいるかはわからないけど、今にも出てくるかもしれない。お願い、手伝って…」
リドルは動かない。ハリーは汗だくになって、やっとジニーの体を半分床から持ち上げ、杖を拾うのにもう一度体をかがめた。

杖がない。
「君、知らないかな、僕の__」
ハリーが見上げると、リドルはまだハリーを見つめていた__すらりとした指でハリーの杖をくるくる弄んでいる。
「ありがとう」ハリーは手を、杖の方に伸ばした。

リドルが口元をきゅっと上げて微笑んだ。じっとハリーを見つめ続けたまま、所在なげに杖をクルクル回し続けている。


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