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第18章 杖調べ 8

「ダンブルドア!」
リータ・スキーターはいかにもうれしそうに叫んだ__しかし、羽根ペンも羊皮紙も、「魔法万能汚れ落とし」の箱の上から忽然と消えたし、女史の鉤爪指が、ワニ革バッグの留め金を慌ててパチンと閉めたのを、ハリーは見逃さなかった。

「お元気ざんすか?」
女史は立ち上がって、大きな男っぽい手をダンブルドアに差し出して、握手を求めた。
「この夏にあたくしが書いた、『国際魔法使い連盟会議』の記事をお読みいただけたざんしょか?」
「魅力的な毒舌じゃった」ダンブルドアは目をキラキラさせた。
「とくに、わしのことを『時代遅れの遺物』と表現なさったあたりがのう」
リータ・スキーターは一向に恥じる様子もなく、しゃあしゃあと言った。
「あなたのお考えが、ダンブルドア、少し古臭いという点を指摘したかっただけざんす。それにちまたの魔法使いの多くは__」
慇懃無礼いんぎんぶれいの理由については、リータ、またぜひお聞かせ願いましょうぞ」
ダンブルドアは微笑みながら、丁寧に一礼した。
「しかし、残念ながら、その話は後日に譲らねばならん。『杖調べ』の儀式がまもなく始まるのじゃ。代表選手の一人が、箒置き場に隠されていたのでは、儀式ができんのでの」

リータ・スキーターから離れられるのがうれしくて、ハリーは急いで元の部屋に戻った。
ほかの代表選手はもうドア近くの椅子に腰かけていた。
ハリーは急いでセドリックの隣に座り、ビロードカバーのかかった机のほうを見た。
そこにはもう、五人中四人の審査員が座っていた__カルカロフ校長、マダム・マクシーム、クラウチ氏、ルード・バグマンだ。
リータ・スキーターは、隅のほうに陣取った。
ハリーが見ていると、女史はまたバッグから羊皮紙をするりと取り出して膝の上に広げ、自動速記羽根ペンQQQの先を吸い、再び羊皮紙の上にそれを置いた。

「オリバンダーさんをご紹介しましょうかの?」
ダンブルドアも審査員席に着き、代表選手に話しかけた。
「試合に先立ち、皆の杖がよい状態かどうかを調べ、確認してくださるのじゃ」
ハリーは部屋を見回し、窓際にひっそりと立っている、大きな淡い目をした老魔法使いを見つけてドキッとした。
オリバンダー老人には、以前に会ったことがある__杖職人で、三年前、ハリーもダイアゴン横丁にあるその人の店で杖を買い求めた。

「マドモアゼル・でラクール。まずあなたから、こちらに来てくださらんか?」
オリバンダーおうは、部屋の中央の空間に進み出てそう言った。

フラー・デラクールは軽やかにオリバンダー翁のそばに行き、杖を渡した。
「フゥーム……」
オリバンダー翁が長い指に挟んだ杖を、バトンのようにクルクル回すと、杖はピンクとゴールドの火花をいくつか散らした。
それから翁は杖を目元に近づけ、仔細しさいに調べた。

「そうじゃな」翁は静かに言った。
「24センチ……しなりにくい……紫檀したん……芯には……おお、なんと……」
「ヴィーラの髪の毛でーす」
フラーが言った。「わたーしのおばーさまのものでーす」
それじゃ、フラーにはやっぱりヴィーラが混じってるんだ、ロンに話してやろうと、ハリーは思った……そして、ロンがハリーに口をきかなくなっていることを思い出した。
「そうじゃな」
オリバンダー翁が言った。
「そうじゃ。むろん、わし自身は、ヴィーラの髪を使用したことはないが__わしの見るところ、少々気まぐれな杖になるようじゃ……しかし、人それぞれじゃし、あなたに合っておるなら……」
オリバンダー翁は杖に指を走らせた。
傷や凸凹を調べているようだった。
それから「オーキデウス!花よ!」と呟くと、杖先にワッと花が咲いた。
「よーし、よし。上々の状態じゃ」
オリバンダー翁は花を摘み取り、杖と一緒にフラーに手渡しながら言った。

「ディゴリーさん。次はあなたじゃ」
フラーはフワリと席に戻り、セドリックとすれ違うときに微笑みかけた。
「さてと。この杖は、わしの作ったものじゃな?」
セドリックが杖を渡すと、オリバンダー翁の言葉に熱がこもった。
「そうじゃ、よく覚えておる。際立って美しいオスの一角獣ユニコーンの尻尾の毛が一本入っておる……身の丈160センチはあった。
尻尾の毛を引き抜いたとき、危うく角で突き刺されるところじゃった。
30センチ……トネリコ材……心地よくしなる。上々の状態じゃ……しょっちゅう手入れしているのかね?」
「昨夜磨きました」
セドリックがニッコリした。
ハリーは自分の杖を見下ろした。
あちこち手垢だらけだ。
ローブの膝のあたりをつかんで、こっそり杖を擦ってきれいにしようとした。
杖先から金色の火花がパラパラと数個飛び散った。
フラー・デラクールが、やっぱり子供ね、という顔でハリーを見たので、拭くのをやめた。

オリバンダー翁は、セドリックの杖先から銀色の煙の輪を次々と部屋に放ち、結構じゃと宣言した。
それから「クラムさん、よろしいかな」と呼んだ。

ビクトール・クラムが立ち上がり、前かがみで背中を丸め、外またでオリバンダー翁のほうへ歩いていった。
クラムは杖をぐいと突き出し、ローブのポケットに両手を突っ込み、しかめっ面で突っ立っていた。

「フーム」
オリバンダー翁が調べはじめた。
「グレゴロビッチの作と見たが。わしの目に狂いがなければじゃが?優れた杖職人じゃ。ただ製作様式は、わしとしては必ずしも……それはそれとして……」
オリバンダー翁は杖を掲げ、目の高さで何度もひっくり返し、念入りに調べた。
「そうじゃな……クマシデにドラゴンの心臓の琴線かな?」
翁がクラムに問いかけると、クラムは頷いた。
「あまり例のない太さじゃ……かなり頑丈……26センチ……エイビス!鳥よ!
銃を撃つような音とともに、クマシデ杖の杖先から小鳥が数羽、さえずりながら飛び出し、開いていた窓から淡々とした陽光の中へと飛び去った。

「よろしい」
オリバンダー翁は杖をクラムに返した。
「残るは……ポッターさん」

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