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第16章 炎のゴブレット 5

「いま飲んできた」
「なにを?」ロンが聞いた。
「『老け薬』だよ。鈍いぞ」フレッドが言った。
「一人一滴だ」
有頂天で、両手を擦り合わせながら、ジョージが言った。
「俺たちはほんの数ヵ月分、歳をとればいいだけだからな」
「三人のうちだれかが優勝したら、一千ガリオンは山分けにするんだ」
リーもニヤーッと歯を見せた。

「でも、そんなにうまくいくとは思えないけど」
ハーマイオニーが警告するように言った。
「ダンブルドアはきっとそんなこと考えてあるはずよ」
フレッド、ジョージ、リーは、聞き流した。
「いいか?」武者震いしながら、フレッドがあとの二人に呼びかけた。
「それじゃ、いくぞ__俺が一番乗りだ__」

フレッドが「フレッド・ウィーズリー__ホグワーツ」と書いた羊皮紙メモをポケットから取り出すのを、ハリーはドキドキしながら見守った。
フレッドはまっすぐに線の際まで往って、そこで立ち止まり、15メートルの高みから飛び込みをするダイバーのように、爪先立って前後に体を揺すった。
そして、玄関ホールのすべての目が見守る中、フレッドは大きく息を吸い、線の中に足を踏み入れた。

一瞬、ハリーはうまくいったと思った__ジョージもきっとそう思ったのだろう。やった、という叫び声とともに、フレッドのあとを追って飛び込んだのだ__が、次の瞬間、ジュッという大きな音とともに、双子は二人とも金色の円の外に放り出された。
見えない砲丸投げ選手が二人を押し出したかのようだった。
二人は、3メートルほども吹っ飛び、冷たい石の床に叩きつけられた。
泣きっ面に蜂ならぬ恥、ポンと大きな音がして、二人ともまったく同じ白い長い顎鬚が生えてきた。

玄関ホールが大爆笑に湧いた。
フレッドとジョージでさえ、立ち上がってお互いの髭を眺めたとたん、笑い出した。
「忠告したはずじゃ」
深みのある声がした。
おもしろがっているような調子だ。
みんなが振り向くと、大広間からダンブルドア校長が出てくるところだった。
目をキラキラさせてフレッドとジョージを観賞しながら、ダンブルドアが言った。
「二人とも、マダム・ポンフリーのところへ行くがよい。すでに、レイブンクローのミス・フォーセット、ハッフルパフのミスター・サマーズもお世話になっておる。二人とも少しばかり歳をとる決心をしたのでな。もっとも、あの二人の髭は、君たちのほど見事ではないがの」
ゲラゲラ笑っているリーに付き添われ、フレッドとジョージが医務室に向かい、ハリー、ロン、ハーマイオニーも、クスクス笑いながら朝食に向かった。

大広間の飾りつけが、今朝はすっかり変わっていた。
ハロウィーンなので、生きたコウモリが群がって、魔法のかかった天井の周りを飛び回っていたし、何百というくり抜きかぼちゃが、あちこちの隅でニターッと笑っていた。
ハリーが先に立って、ディーンとシェーマスのそばに行くと、二人は、17歳以上の生徒で、だれがホグワーツから立候補しただろうかと話しているところだった。

「噂だけどさ、ワリントンが早起きして名前を入れたって」ディーンがハリーに話した。
「あの、スリザリンの、でっかいナマケモノみたいなやつがさ」
クィディッチでワリントンと対戦したことがあるハリーは、むかついて首を振った。
「スリザリンから代表選手を出すわけにはいかないよ!」
「それに、ハッフルパフじゃ、みんなディゴリーのことを話してる」
シェーマスが軽蔑したように言った。
「だけど、あいつ、ハンサムなお顔を危険にさらしたくないんじゃないでしょうかね」
「ちょっと、ほら、見て!」ハーマイオニーが急に口を挟んだ。

玄関ホールのほうで、歓声があがった。
椅子に座ったまま振り向くと、アンジェリーナ・ジョンソンが、少しはにかんだように笑いながら、大広間に入ってくるところだった。
グリフィンドールのチェイサーの一人、背の高い黒人のアンジェリーナは、ハリーたちのところへやってきて、腰かけるなり言った。
「そう、わたし、やったわ!いま、名前を入れてきた!」
「ほんとかよ!」ロンは感心したように言った。
「それじゃ、君、17歳なの?」ハリーが聞いた。
「そりゃ、もち、そうさ。髭がないだろ?」ロンが言った。
「先週が誕生日だったの」アンジェリーナが言った。
「うわぁ、私、グリフィンドールからだらか立候補してくれて、うれしいわ」
ハーマイオニーが言った。
「あなたが選ばれるといいな、アンジェリーナ!」
「ありがとう、ハーマイオニー」アンジェリーナがハーマイオニーに微笑みかけた。
「ああ、かわいこちゃんのディゴリーより、君のほうがいい」
シェーマスの言葉を、テーブルのそばを通りかかった数人のハッフルパフ生が聞きつけて、恐い顔でシェーマスを睨んだ。

「じゃ、今日は何して遊ぼうか?」
朝食が終わって、大広間を出るとき、ロンがハリーとハーマイオニーに聞いた。
「まだハグリッドのところに行ってないね」ハリーが言った。
「オッケー。スクリュートに僕たちの指を二、三本寄付しろって言わないんなら、行こう」
ロンが言った。
ハーマイオニーの顔が、興奮でパッと輝いた。
「いま気づいたけど__私、まだハグリッドにS・P・E・Wに入会するように頼んでなかったわ!」
ハーマイオニーの声が弾んだ。
「待っててくれる?ちょっと上まで行って、バッジを取ってくるから」
「あいつ、いったい、どうなってるんだ?」
ハーマイオニーが大理石の階段を駆け上がっていくのを、ロンは呆れ顔で見送った。

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