第十七章 二つの顔をもつ男 3
ハリーはクィレルに気づかれないように鏡の前に行こうと、左のほうににじり寄ったが、縄がくるぶしをきつく縛っているので、つまずいて倒れてしまった。クィレルはハリーを無視してブツブツひとり言を言い続けていた。
「この鏡はどういう仕掛けなんだ?どういう使い方をするんだろう?ご主人様、助けてください!」
別の声が答えた。しかも声は、クィレル自身から出てくるようだった。ハリーはぞっとした。
「その子を使うんだ…その子を使え…」
クィレルが突然ハリーを振り向いた。
「わかりました…ポッター、ここへ来い」
手を一回パンと打つと、ハリーを縛っていた縄が落ちた。
ハリーはのろのろと立ち上がった。
「ここへ来るんだ」
クィレルが言った。
「鏡を見て何が見えるかを言え」
ハリーはクィレルのほうに歩いていった。
__うそをつかなくては__ハリーは必死に考えた。__鏡に何が見えても、うそを言えばいい__
クィレルがハリーのすぐ後ろに回った。変な臭いがした。クィレルのターバンから出る臭いらしい。ハリーは目を閉じて鏡の前に立ち、そこで目を開けた。
青白くおびえた自分の姿が目に入った。 次の瞬間、鏡の中のハリーが笑いかけた。鏡の中のハリーがポケットに手を突っ込み、血のように赤い石を取り出した。そしてウィンクをするとまたその石をポケットに入れた。 すると、そのとたん、ハリーは自分のポケットの中に何か重い物が落ちるのを感じた。なぜか__信じられないことに__ハリーは「石」を手に入れてしまった。
「どうだ?」クィレルが待ちきれずに聞いた。「何が見える?」
ハリーは勇気を奮い起こした。
「僕がダンブルドアと握手をしているのが見える」
作り話だ。
「僕…僕のおかげでグリフィンドールが寮杯を獲得したんだ」
「そこをどけ」クィレルがまたののしった。
脇によけるときに、ハリーは「賢者の石」が自分の脚に触れるのを感じた。 思いきって逃げ出そうか?しかし、ほんの五歩も歩かないうちに、クィレルが唇を動かしていないのに高い声が響いた。
「こいつはうそをついている…うそをついているぞ…」
「ポッター、ここに戻れ!本当のことを言うんだ。今、何が見えたんだ?」
クィレルが叫んだ。再び高い声がした。
「俺様が話す…直に話す…」
「ご主人様、あなた様はまだ充分に力がついていません!」
「このためなら…使う力がある…」
「悪魔の罠」がハリーをその場にくぎつけにしてしまったような感じだった。 ハリーは指一本動かせなくなってしまった。クィレルがターバンをほどくのを、ハリーは石のように硬くなったままで見ていた。 何をしているんだろう?ターバンが落ちた。ターバンをかぶらないクィレルの頭は、奇妙なくらい小さかった。 クィレルはその場でゆっくりと体を後ろ向きにした。
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