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第17章 スリザリンの継承者 8

帽子の中から、眩い光を放つ銀の剣が出てきた。柄には卵ほどもあるルビーが輝いている。
「小童を殺せ!取りにかまうな!小童はすぐ後ろだ!臭いだ__嗅ぎ出せ!」
ハリーはすっくと立って身構えた。バジリスクは胴体をハリーの方に捻りながら柱を叩きつけ、とぐろをくねらせながら鎌首をもたげた。バジリスクの頭がハリー目がけて落ちてくる。巨大な両眼から血を流しているのが見える。丸ごとハリーを飲み込むほど大きく口をカッと開けているのが見える。ずらりと並んだ、ハリーの剣ほど長い鋭い牙が、ヌメヌメと毒々しく光って…。

バジリスクがやみくもにハリーに襲いかかってきた。ハリーは危うくかわし、ヘビは壁にぶつかった。再び襲ってきた。今度は、裂けた舌先がハリーの脇腹に打ち当たった。ハリーは諸手で剣を、高々と掲げた。

三度目の攻撃は、狙い違わず、まともにハリーを捉えていた。ハリーは全体重を剣に乗せ、剣のつばまで届くほど深く、毒蛇の口蓋にズブリと突き刺した。
生暖かい血がハリーの両腕をどっぷりと濡らしたとき、肘のすぐ上にやけつくような痛みが走った。長い毒牙が一本ハリーの腕に突き刺さり、徐々に深く食い込んで行くところだった。毒牙の破片をハリーの腕に残したまま牙が折れ、バジリスクはドッと横様に床に倒れ、ヒクヒクと痙攣した。

ハリーは壁にもたれたまま、ズルズルと崩れ落ちた。体中に毒を撒き散らしている牙をしっかりつかみ、力のかぎりぐいっと引き抜いた。しかし、もう遅過ぎることはわかっていた。傷口からズキズキと、灼熱の痛みがゆっくり、しかし確実に広がっていった。牙を捨て、ローブが自分の血で染まっていくのを見つめたときから、もうハリーの目はかすみはじめていた。「秘密の部屋」がぼんやりした暗色の渦の中に消え去りつつあった。

真紅の影がスッと横切った。そしてハリーの傍らでカタカタと静かな爪音が聞こえた。
「フォークス」ハリーはもつれる舌で呟いた。
「君はすばらしかったよ、フォークス」
毒蛇の牙が貫いた腕の傷に、フォークスがその美しいかしらを預けるのをハリーは感じた。

足音が響くのが聞こえ、ハリーの前に暗い影が立った。
「ハリー・ポッター、君は死んだ」上の方からリドルの声がした。
「死んだ。ダンブルドアの鳥にさえそれがわかるらしい。鳥が何をしているか、見えるかい?泣いているよ」
ハリーは瞬きした。フォークスの頭が一瞬はっきり見え、すぐまたぼやけた。真珠のような涙がポロポロと、そのつややかな羽毛を伝って滴り落ちていた。
「ハリー・ポッター、僕はここに座って、君の臨終を見学させてもらおう。ゆっくりやってくれ。僕は急ぎはしない」
ハリーは眠かった。周りのものがすべてクルクルと回っているようだった。
「これで有名なハリー・ポッターもおしまいだ」遠くの方でリドルの声がする。
「たった一人、『秘密の部屋』で、友人にも見捨てられ、愚かにも挑戦した闇の帝王に、遂に敗北して。もうすぐ、『穢れた血』の恋しい母親の元に戻れるよ、ハリー…。君の命を、十二年延ばしただけだった母親に…しかし、ヴォルデモート卿は結局君の息の根を止めた。そうなることは、君もわかっていたはずだ」

__これが死ぬということなら、あんまり悪くない__ハリーは思った。痛みさえ薄らいでいく…。
__しかし、これが死ぬということなのか?__真っ暗闇になるどころか、『秘密の部屋』がまたはっきりと見え出した。ハリーは頭をブルブルッと振ってみた。フォークスがそこにいた。ハリーの腕にその頭を休めたままだ。傷口の周りが、ぐるりと真珠のような涙で覆われていた__しかも、その傷さえ消えている

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