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第十七章 二つの顔をもつ男 6

「でも、先生のお友達…ニコラス・フラメルは…」
「おお、ニコラスを知っているのかい?」
ダンブルドアがうれしそうに言った。
「君はずいぶんきちんと調べて、あのことに取り組んだんじゃの。わしはニコラスとちょっと話しおうてな、こうするのが一番いいということになったんじゃ」
「でも、それじゃニコラスご夫妻は死んでしまうんじゃありませんか?」
「あの二人は、身辺をきちんと整理するのに充分な命の水を蓄えておる。それから、そうじゃ、二人は死ぬじゃろう」
ハリーの驚いた顔を見て、ダンブルドアがほほえんだ。
「君のように若い者にはわからんじゃろうが、ニコラスとペレネレにとって、死とは長い一日の終わりに眠りにつくようなものなのじゃ。結局、きちんと整理された心をもつ者にとっては、死は次の大いなる冒険に過ぎないのじゃよ。よいか、『石』はそんなにすばらしいものではない。欲しいだけのお金と命なんぞ!大方の人間が何よりもまずこの二つを選んでしまうじゃろう…困ったことに、どういうわけか人間は、自らにとって最悪のものを欲しがるくせがあるようじゃ」
ハリーはだまって横たわっていた。ダンブルドアは鼻歌を歌いながら天井のほうを見てほほえんだ。

「先生、ずっと考えていたことなんですが…先生、『石』がなくなってしまっても、ヴォル…あの、『例のあの人』が…」
「ハリー、ヴォルデモートと呼びなさい。ものには必ず適切な名前を使うことじゃ。名前を恐れていると、そのもの自身に対する恐れも大きくなる」
「はい、先生。ヴォルデモートはほかの手段でまた戻って来るんじゃありませんか?つまりいなくなってしまったわけではないですよね?」
「ハリー、いなくなったわけではない。どこかにいってしまっただけじゃ。乗り移る別の体を探していることじゃろう。本当に生きているわけではないから、殺すこともできん。クィレルをも見殺しにしたやつじゃ。自分の家来を、敵と同じように情け容赦なく扱う。とは言え、ハリー、君がやったことは、ヴォルデモートが再び権力を手にするのを遅らせただけかもしれんし、次にまた誰かが、一見勝ち目のない戦いをしなくてはならないかもしれん。しかし、そうやって彼のねらいが何度も何度もくじかれ、遅れれば…そう、彼は二度と権力を取り戻すことができなくなるかもしれんのじゃ」
ハリーはうなずいた。でも頭が痛くなるので、すぐにうなずくのをやめた。

「先生、僕、ほかにも、もし先生が教えていただけるなら、知りたいことがあるんですけど…真実を知りたいです…」
「真実か」
ダンブルドアはため息をついた。
「それはとても美しく恐ろしいものじゃ。だからこそ注意深く扱わなければなるまい。しかし、答えないほうがいいとういうはっきりした理由がないかぎり、答えてあげよう。答えられない理由があるときには許してほしい。もちろん、わしはうそはつかん」
「ヴォルデモートが母を殺したのは、母が僕を彼の魔手から守ろうとしたからだと言っていました。でも、そもそもなぜ僕を殺したかったんでしょう?」
ダンブルドアが今度は深いため息をついた。
「おお、なんと、最初の質問なのに、わしは答えてやることができん。今日は答えられん。今はだめじゃ。時が来ればわかるじゃろう…ハリー、今は忘れるがよい。もう少し大きくなれば…こんなことは聞きたくないじゃろうが…その時が来たらわかるじゃろう」
ハリーには、ここで食い下がってもどうにもならないということがわかった。

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