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第8章 「太った婦人」の逃走 8

食事もすばらしかった。ハーマイオニーとロンは、ハニーデュークスの菓子ではちきれそうだったはずなのに、全部の料理をおかわりした。
ハリーは教職員テーブルの方を何度もチラチラ見たが、ルーピン先生は楽しそうで、とくに変わった様子もなく、「呪文学」のチビのフリットウィック先生となにやら生き生きと話していた。
ハリーは教職員テーブルに沿ってスネイプへと目を移した。スネイプの目が不自然なほどしばしばルーピン先生の方をチラチラ見ているようだが、気のせいだろうか?

宴の締めくくりは、ホグワーツのゴーストによる余興だ。
壁やらテーブルやらからポワンと現れて、編隊を組んで空中滑走した。
グリフィンドールの寮つきゴースト、「ほとんど首なしニック」は、しくじった打ち首の場面を再現し、大受けした。
「ポッター、吸魂鬼ディメンターがよろしくってさ!」
みんなが大広間を出るとき、マルフォイが人混みの中から叫んだ言葉でさえ、ハリーの気分を壊せないほどその夜は楽しかった。

ハリー、ロン、ハーマイオニーはほかのグリフィンドール生の後ろについて、いつもの通路を塔へと向かったが、太った婦人レディの肖像画につながる廊下まで来ると、生徒がすし詰め状態になっているのに出くわした。

「なんでみんな入らないんだろ?」ロンが怪訝そうに言った。
ハリーはみんなの頭の間から前の方を覗いた。
肖像画が閉まったらしい。
「通してくれ、さあ」パーシーの声だ。
人波を掻き分けて、偉そうに肩で風を切って歩いて来る
「何をもたもたしてるんだ?全員合言葉を忘れたわけじゃないだろう__ちょっと通してくれ。僕は首席だ__」
サーッと沈黙が流れた。
前の方から始まり、冷気が廊下に沿って広がるようだった。
パーシーが突然鋭く叫ぶ声が聞こえた。
「誰か、ダンブルドア先生を呼んで。急いで」ざわざわと頭が動き、後列の生徒は爪先立ちになった。

「どうしたの?」いま来たばかりのジニーが聞いた。
つぎの瞬間、ダンブルドア先生がそこに立っていた。
肖像画の方にサッと歩いていった。生徒が押し合いへし合いして道を空けた。
ハリー、ロン、ハーマイオニーは何が問題なのかよく見ようと、近くまで行った。
「ああ、なんてこと__」ハーマイオニーが絶叫してハリーの腕をつかんだ。

太った婦人レディは肖像画から消え去り、絵は滅多切りにされて、キャンバスの切れ端が床に散らばっていた。絵のかなりの部分が完全に切り取られている。

ダンブルドアは無残な姿の肖像画を一目見るなり、暗い深刻な目で振り返った。
マクゴナガル、ルーピン、スネイプの先生方が、ダンブルドア校長の方に駆けつけてくるところだった。
婦人レディを探さなければならん」ダンブルドアが言った。
「マクゴナガル先生。すぐにフィルチさんのところに行って、城中の絵の中を探すよう言ってくださらんか」
「見つかったらお慰み!」甲高いしわがれ声がした。
ポルターガイストのピーブズだ。みんなの頭上をヒョコヒョコ漂いながら、いつものように、大惨事や心配事がうれしくてたまらない様子だ。

「ピーブズ、どういうことかね?」ダンブルドアは静かに聞いた。
ピーブズはニヤニヤ笑いをちょっと引っ込めた。さすがのピーブズもダンブルドアをからかう勇気はない。ねっとりした作り声で話したが、いつもの甲高い声よりなお悪かった。
「校長閣下、恥ずかしかったのですよ。見られたくなかったのですよ。あの女はズタズタでしたよ。五階の風景画の中を走ってゆくのを見ました。木にぶつからないようにしながら走ってゆきました。ひどく泣き叫びながらね」
うれしそうにそう言い、「おかわいそうに」と白々しくも言い添えた。

婦人レディは誰がやったか話したかね?」ダンブルドアが静かに聞いた。
「ええ、たしかに。校長閣下」大きな爆弾を両腕に抱きかかえているような言いぐさだ。
「そいつは婦人レディが入れてやらないんでひどく怒っていましたねえ」ピーブズはくるりと宙返りし、自分の脚の間からダンブルドアに向かってニヤニヤした。
「あいつは癇癪持ちだねぇ。あのシリウス・ブラックは」

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