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第12章 三大魔法学校対抗試合 6

雨は相変わらず降り続き、暗い高窓を激しく打った。雷鳴がまたバリバリッと窓を震わせ、嵐を映した天井に走った電光が金の皿を光らせたそのとき、一通り終わった食事の残り物が皿から消え、さっとデザートに変わった。

「ハーマイオニー、糖蜜パイだ!」
ロンがわざとパイの匂いをハーマイオニーのほうに漂わせた。
「ごらんよ!蒸しプディングだ!チョコレート・ケーキだ!」
ハーマイオニーがマクゴナガル先生そっくりの目つきでロンを見たので、ロンもついに諦めた。

デザートもきれいさっぱり平らげられ、最後のパイくずが消えてなくなり、皿がピカピカにきれいになると、アルバス・ダンブルドア校長が再び立ち上がった。
大広間を満たしていたガヤガヤというおしゃべりが、ほとんどいっせいにピタリとやみ、聞こえるのは風の唸りと叩きつける雨の音だけになった。
「さて!」
ダンブルドアは笑顔で全員を見渡した。
「みんなよく食べ、よく飲んだことじゃろう」(ハーマイオニーが「フン!」と言った)
「いくつか知らせることがある。もう一度耳を傾けてもらおうかの。
管理人のフィルチさんから皆に伝えるようにとのことじゃが、城内持ち込み禁止の品に、今年は次のものが加わった。『叫びヨーヨー』、『噛みつきフリスビー』、『殴り続けのブーメラン』。禁止品は全部で437項目あるはずじゃ。リストはフィルチさんの事務所で閲覧可能じゃ。確認したい生徒がいればじゃが」
ダンブルドアの口元がヒクヒクッと震えた。

引き続いてダンブルドアが言った。
「いつものとおり、校庭内にある森は、生徒立入禁止。ホグズミード村も、三年生になるまでは禁止じゃ。
寮対抗クィディッチ試合は今年は取りやめじゃ。これを知らせるのはわしの辛い役目での」
エーッ!
ハリーは絶句した。チームメイトのフレッドとジョージを振り向くと、二人ともあまりのことに言葉もなく、ダンブルドアに向かってただ口をパクパクさせていた。

ダンブルドアの言葉は続く。
「これは、10月に始まり、今学年の終わりまで続くイベントのためじゃ。先生方もほとんどの時間とエネルギーをこの行事のために費やすことになる__しかしじゃ、わしは、皆がこの行事を大いに楽しむであろうと確信しておる。ここに大いなる喜びを持って発表しよう。
今年、ホグワーツで__」

しかし、ちょうどこのとき、耳をつんざく雷鳴とともに、大広間の扉がバタンと開いた。

戸口に一人の男が立っていた。長いステッキに寄りかかり、黒い旅行マントをまとっている。
大広間の頭という頭が、いっせいに見知らぬ男に向けられた。いましも天井を走った稲妻が、突然その男の姿をくっきりと照らしだした。
男はフードを脱ぎ、馬のたてがみのような、長い暗灰色あんかいしょくまだらの髪をブルッと振るうと、教職員テーブルに向かって歩き出した。

一歩踏み出すごとに、コツッコツッという鈍い音が大広間に響いた。テーブルの端に辿り着くと、男は右に曲がり、一歩ごとに激しく体を浮き沈みさせながら、ダンブルドアのほうに向かった。
再び稲妻が天井を横切った。ハーマイオニーが息を呑んだ。

稲妻が男の顔をくっきりと浮かび上がらせた。それは、ハリーがいままでに見たどんな顔とも違っていた。
人の顔がどんなものなのかをほとんど知らないだれかが、しかものみの使い方に不慣れなだれかが、風雨にさらされた木材を削って作ったような顔だ。
その皮膚は、一ミリの隙もないほど傷痕に覆われているようだった。口はまるで斜めに切り裂かれた傷口に見えた。鼻は大きくがれていた。
しかし、男の形相が恐ろしいのは、何よりもその目のせいだった。

片方の目は小さく、黒く光っていた。もう一方は、大きく、丸いコインのようで、鮮やかな明るいブルーだった。
ブルーの目は瞬きもせず、もう一方の普通の目とはまったく無関係に、グルグルと上下、左右に絶え間なく動いている__ちょうどその目玉がぐるりと裏返しになり、瞳が男の真後ろを見る位置に移動したので、正面からは白目しか見えなくなった。

見知らぬ男はダンブルドアに近づき、手を差し出した。顔と同じぐらい傷痕だらけのその手を握りながら、ダンブルドアが何かを呟いたが、ハリーには聞き取れなかった。
見知らぬ男に何か尋ねたようだったが、男はニコリともせずに頭を振り、低い声で答えていた。ダンブルドアは頷くと、自分の右手の空いた席へ男をいざなった。


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