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第16章 炎のゴブレット 7

「ヒトの世話をするのは、連中の本能だ。それが好きなんだ。ええか?仕事を取り上げっちまったら、連中を不幸にするばっかしだし、給料を払うなんちゅうのは、侮辱もええとこだ」
「だけど、ハリーはドビーを自由にしたし、ドビーは有頂天だったじゃない!」
ハーマイオニーが言い返した。
「それに、ドビーは、いまではお給料を要求してるって、聞いたわ!」
「そりゃな、オチョウシモンはどこにでもいる。俺はなンも、自由を受け入れる変わりモンのしもべ妖精がいねえとは言っちょらん。だが、連中の大多数は、決してそんな説得は聞かねえぞ__ウンニャ、骨折り損だ。ハーマイオニー」
ハーマイオニはひどく機嫌を損ねた様子で、バッジの箱をマントのポケットに戻した。

五時半にはると、暗くなりはじめた。
ロン、ハリー、ハーマイオニーは、ハロウィーンの晩餐会に出るのに城に戻る時間だと思った__それに、もっと大切な、各校代表選手の発表があるはずだ。
「俺も一緒に行こう」
ハグリッドがつくろい物を片づけながら言った。
「ちょっくら持ってくれ」
ハグリッドは立ち上がり、ベッド脇の引き出し箪笥のところまで行き、何か探しはじめた。
三人は気にも留めなかったが、飛びっきりひどい臭いが鼻をついて、はじめてハグリッドに注目した。

ロンが咳き込みながら聞いた。
「ハグリッド、それ、なに?」
「はあ?」ハグリッドが巨大な瓶を片手に、こちらを振り返った。
「気に入らんか?」
「髭剃りローションなの?」ハーマイオニーも喉が詰まったような声だ。
「あー__オー・デ・コロンだ」ハグリッドがモゴモゴ言った。
赤くなっている。
「ちとやりすぎたかな」
ぶっきらぼうにそう言うと「落としてくる。待っちょれ……」と、ハグリッドはドスドスと小屋を出ていった。
窓の外にあるおけで、ハグリッドが乱暴にゴシゴシ体を洗っているのが見えた。

「オー・デ・コロン?」ハーマイオニーが目を丸くした。
ハグリッドが?
「それに、あの髪と背広はなんだい?」ハリーも声を低めて言った。
「見て!」ロンが突然窓の外を指差した。

ちょうど、ハグリッドが体を起こして振り返ったところだった。
さっき赤くなったのも確かだが、いまの赤さに比べればなんでもない。
三人が、ハグリッドに気づかれないよう、そっと立ち上がり、窓から覗くと、マダム・マクシームとボーバトン生が馬車から出てくるところだった。
晩餐会に行くに違いない。
ハグリッドがなんと言っているかは聞こえなかったが、マダム・マクシームに話しかけているハグリッドの表情は、うっとりと、目が潤んでいる。
ハリーは、ハグリッドがそんな顔をするのをたった一度しか見たことがなかった__赤ちゃんドラゴンのノーバートを見るときの、あの顔だった。

「ハグリッドったら、あの人と一緒にお城に行くわ!」ハーマイオニーが憤慨した。
「私たちのことを待ってるんじゃなかったの?」
小屋を振り向きもせず、ハグリッドはマダム・マクシームと一緒に校庭をテクテク歩きはじめた。
二人が大股で過ぎ去ったあとを、ボーバトン生がほとんど駆け足で、追っていった。
「ハグリッド、あの人に気があるんだ!」ロンは信じられないという声だ。
「まあ、二人に子どもができたら、世界記録だぜ__あの二人の赤ん坊なら、きっと重さ一トンはあるな」

三人は小屋を出て戸を閉めた。
外は驚くほど暗かった。
マントをしっかり巻きつけて、三人は芝生の斜面を登りはじめた。
「ちょっと見て!あの人たちよ!」ハーマイオニーが囁いた。

ダームストラングの一行が湖から城に向かって歩いていくところだった。
ビクトール・クラムはカルカロフと並び、あとのダームストラング生は、その後ろからバラバラと歩いていた。
ロンはわくわくしながらクラムを見つめたが、クラムのほうは、ハーマイオニー、ロン、ハリーより少し先に正面扉に到着し、周囲には目もくれずに中に入った。

三人が中に入ったときには、蝋燭の灯りに照らされた大広間は、ほぼ満員だった。
「炎のゴブレット」は、いまは教職員テーブルの、まだ空席のままのダンブルドアの席の正面に移されていた。
フレッドとジョージが__髭もすっかりなくなり__失望を乗り越えて調子を取り戻したようだった。

「アンジェリーナだといいな」
ハリー、ロン、ハーマイオニーが座ると、フレッドが声をかけた。
「私もそう思う!」ハーマイオニーも声を弾ませた。
「さあ、もうすぐはっきりするわ!」
ハロウィーン・パーティはいつもより長く感じられた。
二日続けての宴会だったせいかもしれないが、ハリーも、準備された豪華な食事に、いつもほど心を奪われなかった。
大広間のだれもかれもが、首を伸ばし、待ちきれないという顔をし、「ダンブルドアはまだ食べ終わらないのか」とソワソワしたり、立ち上がったりしている。
ハリーもみんなと同じ気持で、早く皿の中身が片づけられて、だれが代表選手に選ばれたのか聞けるといいのにと思っていた。

ついに、金の皿がきれいさっぱりと、もとの真っさらな状態になり、大広間のガヤガヤが急に大きくなったが、ダンブルドアが立ち上がると、一瞬にして静まり返った。
ダンブルドアの両脇に座っているカルカロフ校長とマダム・マクシームも、みんなと同じように緊張と期待感に満ちた顔だった。
ルード・バグマンは、生徒のだれにということもなく、笑いかけ、ウィンクしている。
しかし、クラウチ氏は、まったく無関心で、ほとんどうんざりした表情だった。

「さて、ゴブレットは、ほぼ決定したようじゃ」ダンブルドアが言った。

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