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第21章 ハーマイオニーの秘密 13

だんだん湖が近づいてきた。しかし、誰もいる気配がない。
むこう岸に、小さな銀色の光が見えた__自分自身が守護霊パトローナスを出そうとしている__。

水際に木の茂みがあった。ハリーはその陰に飛び込み、木の葉を透かして必死に目を凝らした。むこうでは、かすかな銀色の光がふっと消えた。恐怖と興奮がハリーの体を貫いた__いまだ__「早く」ハリーはあたりを見回しながら呟いた。
「父さん、どこなの?早く__」
しかし、誰も現れない。ハリーは顔を上げて、むこう岸の吸魂鬼ディメンターの輪を見た。一人がフードを脱いだ。救い主が現れるならいまだ__なのに、今回は誰も来ていない__。

ハリーはハッとした__わかった。父さんを見たんじゃない__自分自身を見たんだ__。

ハリーは茂みの陰から飛び出し、杖を取り出した。
エクスペクト・パトローナム!」ハリーは叫んだ。
すると、杖の先から、ぼんやりした霞ではなく、目もくらむほどまぶしい、銀色の動物が噴き出した。
ハリーは目を細めて、なんの動物なのか見ようとした。
馬のようだ。暗い湖の面を、むこう岸へと音もなく疾走していく。頭を下げ、吸魂鬼ディメンターに向かって突進していくのが見える……今度は、地上に倒れている暗い影の周りを、グルグル駆け回っている。吸魂鬼ディメンターがあとずさりしていく。散り散りになり、暗闇の中を退却していく……いなくなった。

守護霊パトローナスが向きを変えた。静かな水面を渡り、ハリーの方に緩やかに走りながら近づいてくる。
馬ではない。一角獣ユニコーンでもない。牡鹿おじかだった。
空にかかる月ほどに、眩い輝きを放ち……ハリーの方に戻ってくる……。

それは岸辺で立ち止まった。大きな銀色の目でハリーをじっと見つめるその牡鹿は、柔らかな水辺の土に、ひづめの跡さえ残していなかった。
それはゆっくりと頭を下げた。角のある頭を。
そして、ハリーは気づいた……。
プロングズ」ハリーが呟いた。
震える指で、触れようと手を伸ばすと、それはフッと消えてしまった。

手を伸ばしたまま、ハリーはその場にたたずんでいた。
すると、突然背後で蹄の音がして、ハリーは胸を躍らせた__急いで振り返ると、ハーマイオニーが、バックビークを引っぱって、猛烈な勢いでハリーの方に駆けてくる。
何をしたの?」ハーマイオニーが激しく問い詰めた。
「何が起きているか見るだけだって、あなた、そう言ったじゃない!」
「僕たち全員の命を救っただけだ……ここに来て__この茂みの陰に__説明するから」

何が起こったのか、話を聞きながら、ハーマイオニーはまたしても口をポカンと開けていた。
「誰かに見られた?」
「ああ。話を聞いていなかったの?僕が僕を見たよ。でも、僕は父さんだと思ったんだ!だから大丈夫!」
「ハリー、私、信じられない__あの吸魂鬼ディメンターを全部追い払うような守護霊パトローナスを、あなたが創り出したならんて!それって、とっても、とっても高度な魔法なのよ……」
「僕、できるとわかってたんだ。だって、さっき一度出したわけだから……僕の言っていること、何か変かなあ?」
「よくわからないわ__ハリー、スネイプを見て!」
茂みの間から、二人はむこう岸をじっと見た。
スネイプが意識を取り戻した。担架を作り、ぐったりしているハリー、ハーマイオニー、ブラックをそれぞれその上に載せた。四つ目の担架には、当然ロンが載っているはずだが、すでにスネイプのわきに浮かんでいた。
それから、スネイプは杖を前に突き出し、担架を城に向けて運びはじめた。

「さあ、そろそろ時間だわ」ハーマイオニーは時計を見ながら緊張した声を出した。
「ダンブルドアが病棟のドアの鍵をかけるまで、あと四十五分くらいあるわ。シリウスを救い出して、それから、私たちがいないことに誰かが気づかないうちに病室に戻っていなければ……」


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