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第16章 炎のゴブレット 6
「おい、ロン」ハリーが突然声をかけた。「君のオトモダチ……」
ボーバトン生が、校庭から正面の扉を通ってホールに入ってくるところだった。
その中に、あのヴィーラ美少女がいた。
「炎のゴブレット」を取り巻いていた生徒たちが、一行を食い入るように見つめながら、道を空けた。
マダム・マクシームが生徒のあとからホールに入り、みんなを一列に並ばせた。
ボーバトン生は一人ずつ「年齢線」を跨ぎ、青白い炎の中に羊皮紙のメモを投じた。
名前が入るごとに、炎は一瞬赤くなり、火花を散らした。
「選ばれなかった生徒はどうなると思う?」
ヴィーラ美少女が羊皮紙を「ゴブレット」に投じたとき、ロンがハリーに囁いた。
「学校に帰っちゃうと思う?それとも残って試合を見るのかな?」
「わかんない、残るんじゃないかな……マダム・マクシームは残って審査するだろ?」
ボーバトン生が全員名前を入れ終えると、マダム・マクシームは再び生徒をホールから連れ出し、校庭へと戻っていった。
「あの人たちは、どこに泊まっているのかな?」
あとを追って扉のほうへ行き、一行をじっと見送りながら、ロンが言った。
背後でガタガタと大きな音がして、ハーマイオニーがS・P・E・Wバッジの箱を持って戻ってきたことがわかった。
「おっ、いいぞ。急ごう」
ロンが石段を飛び降りた。
その目は、マダム・マクシームと一緒に芝生の中ほどを歩いているヴィーラ美少女の背中に、ピッタリと張りついていた。
禁じられた森の端にあるハグリッドの小屋に近づいたとき、ボーバトン生がどこに泊まっているのかの謎が解けた。
乗ってきた巨大なパステル・ブルーの馬車が、ハグリッドの小屋の入口から200メートルほどむこうに置かれ、生徒たちはその中へと登っていくところだった。
馬車を引いてきた象ほどもある天馬は、いまは、その脇に設えられた急ごしらえのパドックで、草を食んでいる。
ハリーがハグリッドの戸をノックすると、すぐに、ファングの低く響く吠え声がした。
「よう、久しぶりだな!」
ハグリッドが勢いよくドアを開け、ハリーたちを見つけて言った。
「俺の住んどるところを忘れっちまったかと思ったぞ!」
「私たち、とっても忙しかったのよ、ハグ__」
ハーマイオニーは、そう言いかけて、ハグリッドを見上げたとたん、ぴたっと口を閉じた。
言葉を失ったようだった。
ハグリッドは、一張羅の(しかも、悪趣味の)毛がモコモコ茶色の背広を着込み、これでもかとばかり、黄色とだいだい色の格子縞ネクタイを締めていた。
極めつけは、髪をなんとか撫でつけようとしたらしく、車軸用のグリースかと思われる油をこってりと塗りたくっていたことだ。
髪はいまや、二束に括られて垂れ下がっている__たぶん、ビルと同じようなポニーテールにしようとしたのだろうが、髪が多すぎて一つにまとまらなかったのだろう。
どう見てもハグリッドには似合わなかった。
一瞬、ハーマイオニーは目を白黒させてハグリッドを見ていたが、結局何も意見を言わないことに決めたらしく、こう言った。
「えーと__スクリュートはどこ?」
「外のかぼちゃ畑の脇だ」ハグリッドがうれしそうに答えた。
「でっかくなったぞ。もう一メートル近いな。ただな、困ったことに、お互いに殺し合いを始めてなあ」
「まあ、困ったわね」ハーマイオニーはそう言うと、ハグリッドのキテレツな髪型をまじまじ見ていたロンが、何か言いそうに口を開いたので、素早く「ダメよ」と目配せした。
「そうなんだ」ハグリッドは悲しそうに言った。
「ンでも、大丈夫だ。もう別々の箱に分けたからな。まーだ、20匹は残っちょる」
「うわ、そりゃ、おめでたい」ロンの皮肉が、ハグリッドには通じなかった。
ハグリッドの小屋は一部屋しかなく、その一角に、パッチワークのカバーをかけた巨大なベッドが置いてある。
暖炉の前には、これも同じく巨大な木のテーブルと椅子があり、その上の天井から、燻製ハムや鳥の死骸がたくさんぶら下がっていた。
ハグリッドがお茶の準備を始めたので、三人はテーブルに着き、すぐにまた三校対抗試合の話題に夢中になった。
ハグリッドも同じように興奮しているようだった。
「見ちょれ」ハグリッドがニコニコした。
「待っちょれよ。見たこともねえものが見られるぞ。いっち(一)番目の課題は……おっと、言っちゃいけねえんだ」
「言ってよ!ハグリッド!」
ハリー、ロン、ハーマイオニーが促したが、ハグリッドは笑って首を横に振るばかりだった。
「おまえさんたちの楽しみを台無しにはしたくねえ」ハグリッドが言った。
「だがな、すごいぞ。それだけは言っとく。代表選手はな、課題をやり遂げるのは大変だぞ。生きてるうちに三校対抗試合の復活を見られるとは、思わんかったぞ!」
結局三人は、ハグリッドと昼食を食べたが、あまりたくさんは食べなかった__ハグリッドはビーフシチューだと言って出したが、ハーマイオニーが中から大きな鉤爪を発見してしまったあとは、三人ともがっくりと食欲を失ったのだ。
それでも、試合の種目が何なのか、あの手この手でハグリッドに言わせようとしたり、立候補者の中で代表選手に選ばれるのはだれだろうと推測したり、フレッドとジョージの髭はもう取れただろうかなどと話したりして、三人は楽しく過ごした。
昼過ぎから小雨になった。
暖炉のそばに座り、パラパラと窓を打つ雨の音を聞きながら、ハグリッドが靴下を繕うかたわら、ハーマイオニーとしもべ妖精論議をするのを傍で見物するのは、のんびりした気分だった__ハーマイオニーがS・P・E・Wバッジを見せたとき、ハグリッドはきっぱり入会を断ったのだ。
「そいつは、ハーマイオニー、かえってあいつらのためにならねえ」
ハグリッドは、骨製の巨大な縫い針に、太い黄色の糸を通しながら、重々しく言った。
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