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第17章 四人の代表選手 2

マクゴナガル先生が扉を閉める前に、壁のむこう側で、何百人という生徒がワーワー騒ぐ音が聞こえた。
「マダム・マクシーム!」
フラーがマクシーム校長を見つけ、つかつかと歩みよった。
「この小さーい男の子も競技に出ると、みんな言ってまーす!」
信じられない思いで、痺れた感覚のどこかで、怒りがビリビリッと走るのを、ハリーは感じた。
小さい男の子?

マダム・マクシームは、背筋を伸ばし、全身の大きさを十二分に見せつけた。
きりっとした頭のてっぺんが、蝋燭の立ち並んだシャンデリアをこすり、黒繻子くろじゅすのドレスの下で、巨大な胸が膨れ上がった。
「ダンブリー・ドール、これは、どういうこーとですか?」威圧的な声だった。
「わたしもぜひ、知りたいものですな、ダンブルドア」
カルカロフ校長も言った。
冷徹な笑いを浮かべ、ブルーの目が氷のかけらのようだった。
「ホグワーツの代表選手が二人とは?開催校は二人の代表選手を出してもよいとは、だれからも伺ってはいないようですが__それとも、わたしの規則の読み方が浅かったのですかな?」
カルカロフ校長は、短く、意地悪な笑い声をあげた。

セ・タァンポシーブルありえないことですわ
マダム・マクシームは豪華なオパールに飾られた巨大な手を、フラーの肩に載せて言った。
グワーツがふたりも代表選手を出すことはできませーん。そんなことは、とーても正しくなーいです」
「我々としては、あなたの『年齢線』が、年少の立候補者を締め出すだろうと思っていたわけですがね。ダンブルドア」
カルカロフの冷たい笑いはそのままだったが、目はますます冷ややかさを増していた。
「そうでなければ、当然ながら、わが校からも、もっと多くの候補者を連れてきてもよかった」
「だれのとがでもない。ポッターのせいだ。カルカロフ」
スネイプが低い声で言った。
暗い目が底意地悪く光っている。
「ポッターが、規則は破るものと決めてかかっているのを、ダンブルドアの責任にすることはない。ポッターは本校に来て以来、決められた線を越えてばかりいるのだ__」
「もうよい、セブルス」
ダンブルドアがきっぱりと言った。
スネイプは黙って引き下がったが、その目は、油っこい黒い髪のカーテンの奥で、毒々しく光っていた。

ダンブルドア校長は、今度はハリーを見下ろした。
ハリーはまっすぐにその目を見返し、半月メガネの奥にある目の表情を読み取ろうとした。
「ハリー、君は『炎のゴブレット』に名前を入れたのかね?」
ダンブルドアが静かに聞いた。
「いいえ」
ハリーが言った。
全員がハリーをしっかり見つめているのを十分意識していた。
スネイプは、薄暗がりの中で、「信じるものか」とばかり、イライラ低い音を立てた。
「上級生に頼んで、『炎のゴブレット』に君の名前を入れたのかね?」
スネイプを無視して、ダンブルドア校長が尋ねた。
「いいえ」
ハリーが激しい口調で答えた。

「ああ、でもこのとは嘘ついてまーす」
マダム・マクシームが叫んだ。
スネイプは口元に薄ら笑いを浮かべ、今度は首を横に振って、不信感をあからさまに示していた。
「この子が『年齢線』を超えることはできなかったはずです」
マクゴナガル先生がビシッと言った。
「そのことについては、皆さん、異論はないと__」
「ダンブリー・ドールが『線』をまちがーえたのでしょう」
マダム・マクシームが肩をすくめた。
「もちろん、それはありうることじゃ」
ダンブルドアは、礼儀正しく答えた。
「ダンブルドア、まちがいなどないことは、あなたが一番よくご存知でしょう!」
マクゴナガル先生が怒ったように言った。
「まったく、バカバカしい!ハリー自身が『年齢線』を超えるはずありません。また、上級生を説得して代わりに名を入れさせるようなことも、ハリーはしていないと、ダンブルドア校長は信じていらっしゃいます。それだけで、皆さんには十分だと存じますが!」
マクゴナガル先生が怒ったような目で、スネイプ先生をキッと見た。

「クラウチさん……バグマンさん」
カルカロフの声が、へつらい声に戻った。
「おふた方は、我々の__えー__中立の審査員でいらっしゃる。こんなことは異例だと思われますでしょうな?」
バグマンは少年のような丸顔をハンカチで拭き、クラウチ氏を見た。
暖炉の灯りの輪の外で、クラウチ氏は影の中に顔を半分隠して立っていた。
何か不気味で、半分暗がりの中にある顔は年寄り老けて見え、ほとんど骸骨のようだった。
しかし、話しだすと、いつものキビキビした声だ。
「規則に従うべきです。そして、ルールは明白です。『炎のゴブレット』から名前が出てきた者は、試合で競う義務がある」
「いやぁ、バーティは規則集を隅から隅まで知り尽くしている」
バグマンはニッコリ笑い、これでけりがついたという顔で、カルカロフとマダム・マクシームのほうを見た。

「わたしのほかの生徒に、もう一度名前を入れさせるように主張する」
カルカロフが言った。
ねっとりしたへつらい声も、笑みも、いまやかなぐり捨てていた。
まさに醜悪な形相だった。
「『炎のゴブレット』をもう一度設置していただこう。そして各校二名の代表選手になるまで、名前を入れ続けるのだ。それが公平というものだ。ダンブルドア」
「しかし、カルカロフ、そういう具合にはいかない」バグマンが言った。
「『炎のゴブレット』は、たったいま火が消えた__次の試合まではもう、火がつくことはない__」
「__次の試合に、ダームストラングが参加することは決してない!」
カルカロフが怒りを爆発させた。
「あれだけ会議や交渉を重ね、妥協したのに、このようなことが起こるとは、思いもよらなかった!いますぐにでも帰りたい気分だ!」

「はったりだな。カルカロフ」
扉の近くで唸るような声がした。

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